異邦のモノたち

 今年に入ってからもう3度目となる。彼らが狩りから帰ると住処が無残に破壊されているという事が度々起こっており、そのたびに一族は新たな地へ移動して、新しい住処を築くということを繰り返していた。


「あの異邦のモノたちの仕業だ……」


 放心状態のヨシムの耳に、一族の誰かの口から漏れた悲痛の声が届いた。



(異邦のモノ……)


 幼いヨシムに詳しいことは分からなかったが、どうやら「異邦のモノ」と呼ばれる種族は、こうした破壊行為を繰り返しているらしく、自分たち以外の種族もその被害にあっているようだった。中には一族を皆殺しにされた種族もあるらしく、それが事実であるならば住処を破壊されただけで済んでいるというのは、まだずっとマシな方なのかもしれない。


「過ぎたことは仕方がない。また新しい土地に移ろう」


 族長は動揺している一族のものに対して冷静な言葉を発し、一族は捕らえた獲物を手にしながら長い夜の移動をすることになった。この食事にありつけるのはしばらく先になりそうだとヨシムは思いながら、大人たちの後に続いて歩みを進め続けた。



 新しい土地での生活は悪いものではなかった。むしろ、今までの土地よりも生活は快適で、獲物も今までよりも容易に仕留めることができる環境だった。また、この地に移り住んでから1年ほど経つが、幸いというべきか異邦のモノたちの破壊行為にはあっていない。


『この平和がずっと続けばいい』


 それは幼いヨシムを含む、一族全員が心から願っていたことだった。しかし、それはまたしても一瞬のうちに奪い去られることになる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る