第5話 暗闇の世界
「
その声を聞いてふと希が顔を上げると、目の前に
「…はい」
さっきは確かに奥の自分のデスクにいたのに、先生はまるで瞬間移動でもしたかのように目の前にいる。しかも何の気配も感じなかった。希は自分の時間の感覚が狂っているのかと不安になった。
「失礼します」
先生はそう言うと右手の人差し指の先をそっと希の眉間に当てた。
その途端、希の視界が暗転し、意識がどこまでも広がる暗闇の世界に急降下していった。
「わたくしの声が聞こえますか?」
日下部先生の声が至近距離から聞こえてくる。音の発生源は現実世界での希と先生の位置関係と一致している。まだ聴覚は現実世界を知覚できているようだ。
「聞こえています、先生」
希は冷静だった。こういった不可解な状況には幼い頃から慣れ親しんでいる。先生のことも信頼しているし、まるで恐怖は感じない。むしろ心地良い。
「自分の今の状況を説明することができますか?」
「少し浮遊感を感じていますが、何もない暗闇の空間をひたすら落下しています」
希はよく落ちる。自分がそれまで立っていた床、地面、空間、そして恐らくは時間さえも突き抜けて暗闇の世界に落下する。
希の意識の指向性が自己の内面に向いたとき、知覚する世界が外側から内側へとシフトする。やがて眼下に
「一つ目のグリッドに到達しました。破壊してその先に進んでもよろしいですか?」
〝グリッド?〟
「階層の境界線だと思っています。深い階層まで潜った方が良いですよね?」
〝ではそうしてください〟
希はグリッドの一部に歪みを生じさせ破壊し、空間に
落下スピードも加速している。しばらくすると、希の意識に介入してくる何者かの存在を感じたが、そのまま何処かの世界に引き寄せられていく。
それまで暗闇でしかなかった空間に光が生じ始める。希の五感がそちらの世界に接続された。先生に伝えないと。
「何処かに辿り着きました」
聞こえているだろうか。もしかしたら現実世界ではもう完全に意識を失っているのかも知れない。希の視界が瞬く間に色付き、世界が広がっていく。
ここは寺院……、 いや神社の内部?
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