第14話 厳選の為とはいえ、『あ』とか『い』とかつけてごめんなさい。名前は大事
「さーて、帰るとするか」
え? フォルセとの一悶着とか、なにかイベントがないのかって?
バカ言え。ここで何かイベントのひとつでも消化して、『イベント進行度』でも増やしてみろ。お供レベルが上昇してしまい、この先の戦闘で乙る(ゲームオーバーになること)のがオチだろう。
なので、俺は睨み付けてくるフォルセとは極力目を合わせず、詰め所でもひたすらに大人しくしていた。時々なにやらイベントのフラグの様なものも聞こえてくるが、徹底的に無視だ。
「あ、あのあの、ご主人様。どうやって帰るんです?」
「ん? あぁ、そっか。コボルトじゃあこっちに来れないから知らないか」
行きと同じくすり抜けバグを利用して帰っても良いのだが、こちら側に来てしまえばもっと便利な物が手にはいる。補給品と一緒に、先程バンガスに頼んでおいた。
「お待たせしたな、二人とも」
「ん? あ、あぁ」
「うん? どうした? そんな変な顔をして」
「い、いや……なんでもない」
大量の荷物と共に現れたバンガスに、俺は一瞬驚いてしまった。
驚いた理由は、別にバンガスの持つ荷物の量でも、その後ろに控えている大型の物体にでもない。
バンガスがナチュラルに、コボルトの事を俺と同じ人間換算で扱ったからだ。
確かに、コボルトは俺の同行者にはなっている。だが、それはあくまでも俺がそう扱っているだけで、端から見ればコボルトは魔物だ。魔物を数えるのに、『一人』『二人』とは言わないだろう。だのに、バンガスは俺の同行者だということで、人として扱ってくれたのだ。
くっ、こんなところでも、バンガスの兄貴と呼ばれる部分を遺憾なく発揮しやがるぜ……ヤクザみたいな顔してるのに。この性格イケメンめ。
「ほら、頼まれていた食料品と、子供用の衣服。こっちは貴殿用だ」
「なに? そんなものは……」
「子供の前だ、清潔感は大事にした方がいい。そんな血みどろの格好を子供に見せるもんない。それと、私の子供たちのお下がりで悪いが、多少は着れるだろうから入れておいた」
「……何からなにまで、助かる」
「いいさ。いきなり敵だった奴が味方になるなんて素直に受け止めるほどおめでたくもないが、ひょんな事で父親になってしまう事は男なら誰にでもあるもんさ。うちの子供も、一番上は血の繋がりがない」
「そうなのか!?」
これには俺も驚いた。そんな設定など、どの資料にも載っていなかったからだ。
バンガス親子のイベントは普通にあるので、むしろそんな設定があるのであれば載っていそうなものであるが。
「まぁそんな事はいいさ。子供が待っているんだろう?」
「あぁ。では、戻らせてもらうよ」
挨拶もそこそこに、バンガスから受け取った荷物を先程一緒に運ばれてきた大型の物体に積み込む。
「ご主人様、これなんですか?」
「これか? これは、『羽ばたき飛行機械』っていうものだよ。この街なら何処にでも売っているものだけど、向こう側にはないからなぁ」
オリンポス・サーガの終盤に訪れるこの街には、空を飛ぶ魔物と戦う為に開発された機械が存在するのだ。これを手に入れることで、世界のあちこちを自由に行き来することが出来るようになるのだ。これさえあれば、世界中の何処だろうと……あ、一部無理だけど、ほとんどの場所に行くことが出来る。
うん、最序盤でこんなの手に入れたら卑怯だとか、チートだろうとか言われそうな気がする。が、これはれっきとした仕様なのだ。実際、オリンポス・サーガでもすり抜けバグでここへ先回りして、強力な武器を先に回収して俺TUEEEEE!するプレイスタイルは存在する。
俺はあまりやらない派ではあったが、命がかかっているのであればそんな事も言っていられない。それも、推しの命だ。安全マージンを確保するのは当たり前だろう。
「それでは、バンガスさん。ありがとうございました」
「……もし、どうしても貴殿が危うくなり、子供の行き場所がなくなった時は、うちに連れてこい。子供の三人や四人くらいなら面倒を見る」
「……お断りします。俺は、俺の護りたいモノの為に命を賭すと決めたので」
「フッ……そうか」
それ以上の会話はなかった。
恐らく、バンガスはもうそこまで俺の事を危険視してはいない様に感じる。だが、それは相手の力量を読みきるバンガスだからの話だ。
街の人たちからすれば、やはり俺は危険人物であり、保安を司る立場としておいそれと街に入れることはできないのだろう。それでもいざという時は、子供だけは守ってやると言ってくれているのだ。くっ、やはり性格イケメンだ。
無言で立ち去っていくバンガス達警備隊を背に、俺は羽ばたき飛行機械の動力に魔力を注いでいく。羽ばたき飛行機械は魔力さえあれば誰でも使う事が出来る……はずだ。ゲームでは単なる移動手段として使う事が出来るのだが、さて、いざそれを実際に操縦するとなるとどうしたものか。
見た目はグライダーが装着された自転車の様にも見えるが、羽はその名前の通りにパタパタと上下に動作するようだ。
「ご主人様。まだ飛ばないの?」
「う、うむ……しっかりと掴まっていろよ」
操縦に不安を覚える俺とは対照的に、コボルトは飛ぶのをいまかいまかと待っている。案外、この子は度胸があるのかもしれない。
まぁ、男は度胸。なんでもやってみるものさ。ということで、緊張から手に汗を握りつつ起動させてみると、意外や意外。推進や後退は考えたらその通りに動くし、ハンドルは自転車の要領で出来るので、本当に誰でも操縦が出来るものだった。
あっという間に豆粒の様に遠くなるキュクロプスの街を尻目に、俺とコボルトは快適な空の旅を楽しんでいた。
余裕が出てきたこともあり、俺は気になっていた事を聞くことにした。
「そういえば、君の名前はなんというのだ?」
実は、ステータスにもコボルトの名前は載っていなかった。名前の欄には『エデュアルのドゥルバンの子』とだけ記載されていた。
「名前、ですか? 名前は……ありません」
聞けば、どうやらコボルトだけでなく、魔物たちは自分の子供に名前をつける風習はないそうだ。と言うのも、魔物にとって名前というものはとても大事であり、魔物の王……つまり、魔王から賜る特別な称号なのだ。そして、名前を授かった魔物は『ネームド』という、他の同種を率いる存在となり、能力も飛躍的にアップするらしい。
この辺りは、オリンポス・サーガに魔物を仲間にする機会がない為知らなかった。だが、そういえばボスの魔物なんかは確かに専用の名前と、少しグラフィックが違うものが用意されていた。
「うーん……だが、いつまでもコボルトと呼ぶのもなんか変だし、だからといっていちいち『エデュアルのドゥルバンの子』と呼ぶのも長いなぁ。なぁ、俺が付けてもいいか? 名前」
「え? い、いいのですか?」
「良いもなにも、俺が呼びづらいからなぁ……なにかリクエストとかある? こんな名前がいいみたいな」
「ご、ご主人様が付けてくれた名前ならなんでも!!」
「うおッ?! 食い気味にくるなぁ……うーん、それなら」
犬だからといって、ポチとかハナコとかつけるのも芸がない。そもそも女の子だし、ポチはねぇよな。
うーん……。お、そう言えば、このコボルトの耳先の毛の色ってあれに似てるな。
「うん、アイリス。俺の国では
「アイ、リス……」
コボルトもとい、アイリスが付けられた名前を呟く。その瞬間。
『実績解除:新たな王の誕生』
例の謎のメッセージと共に、アイリスの体が眩い光に包まれるのであった。
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