第12話 敵を仲間に出来るシステムって、どうにも楽しいよねっていう
エンシェントスペクターを引き連れ、街の直ぐそばで何とかする作戦は端的に言えば成功した。
だが、すべてが丸く収まったと言うわけにはいかなかった。
「お、おいッ! 早くこっちへ逃げてこいッ! 死ぬぞッ!!」
「な、なんでこんな所にコボルトがいるんだ?」
「そんなことどうでもいいだろうッ! それより、なんであいつは平気そうなんだッ!?」
エンシェントスペクターからひたすら割合ダメージを受け続けながらも涼しい顔の俺と、その横で何かに怯えるように付いてくるコボルト。まぁそんな事態を目の当たりにすれば騒ぎが起こるわけで、俺たちをぐるっと囲むように、キュクロプスの街の警備の方々が集まってしまった。
ゲームあるあるなのだが、終盤戦になればなるほど敵のグラフィックは豪華なものになっていく。いままでの奴とは次元が違うんだぜとでも言わんばかりに、無駄に髑髏が満載だったり今までの雑魚敵がまるで付き人の様に何体も周りにいる等々。その癖、さらに進んだクリア後の要素では初期のグラフィックの色違いなのに、べらぼうに強いなんてこともあるのだが。
まぁそんなわけで、実はいま俺の横でひたすら恨み節を唱えているエンシェントスペクターさんも御多分に漏れず、幽霊系の上位魔物なので見た目がすっごい。もうね、彼女が立っている土台部分まで合わせると5mは越えてるんじゃなかろうか。
ちなみに、土台部分の骨達は実はエンシェントスペクターに殺されたドMのおっさんの成れの果てらしい。公式記事に載ってた。
「んん……? おい、もしかしてこの人……例の魔王の映像で出ていた奴じゃないのか?」
「あッ! 本当だッ!」
あ、バレた。いや、まぁバレるの前提だからいいんだけども。
「その通りですッ! 私の名前はイザヨイと申しますッ! 街への入場許可をいただきたいのですが」
「入場は許可したいが、いまはそれどころではないのではないかッ!?」
「ア、ハイ。少しお待ちくださいね」
俺は道具袋からひとつの木の実を取りだし、無造作にエンシェントスペクターへと放り投げる。
エンシェントスペクターは一瞬だけ驚いた様子を見せたが、俺が投げたのがただの木の実だとわかると、再び余裕の表情で俺を呪い殺そうと呪詛を唱え始める。
まぁ、ただの木の実なわけもないんだけども。
「日ギャあアァああああアァぁぁぁぁぁッぁ!!!!!」
「うわ、うるさ」
木の実が当たったその瞬間。バグった様な声量で断末魔の叫びをあげるエンシェントスペクター。いや、まぁ幽霊だからとっくに断末魔を過ぎ去ってるのだが。
さて、この木の実であるが、これは先程までユピテル様たちと居たあの森に自生している『祓いの実』と呼ばれるアイテムだ。
皮はピンクがかった白で、中心に大きな種があって、その周りについている白い果実を食す。うん、つまりは桃だ。
これは実はイベントアイテムでもある。というのが、正規ルートではあの森を抜ける際に【惑わしの回廊】という自然の迷路の様なダンジョンを通らねばならず、そこには幽霊系の魔物が多数出てくる。
幽霊系の魔物は物理攻撃に耐性があるものが多く、魔術によるダメージが有効手段なのだが……主人公であるフレイアが魔術を覚えるのは中盤になってからなのだ。
そこで登場するのが、サブヒロインの退魔師の女の子とこの木の実なのだが、まぁその辺はいまは置いておこう。
簡単にいえば、この木の実は惑わしの回廊を抜けるのに使用するアイテムなのだ。いくつでも採取できるので、序盤で拾っておくと先の幽霊系の魔物が楽になる。とは言え、アイテム欄を圧迫するし、最終盤では魔術も豊富になるので必要最低限だけとって、余ったら売ってしまうプレイヤーも多い。実際、この後木の実はキュクロプスの街で売却するつもりである。
「おぎょおぉおおあぁぁぁ……」
「流石は幽霊特効。しかも食べても美味しいし、これは常備してても良いかもしれない」
この世界はオリンポス・サーガに似ているが、決してゲームの世界ではない。腹が減れば喉も乾く。流石に変態作り込みゲームであるオリンポス・サーガにおいても、空腹度などの要素は無かったので、食料という点は無視できた。が、ここではそうもいかない。
そんな事を考えている内に、エンシェントスペクターは霞となって消え去ってしまった。迷わず成仏しろよ、アーメン。また出てくるだろうけど。
「さて……それでは残りは、っと」
後は残ったコボルトを倒せば、晴れて戦闘終了である。当初は逃げて戦闘回数を稼がない方向で行こうと思ったが、街の人に見つかってしまったのであれば致し方ない。俺がヤるか、街の人がヤるかの違いだ。それなら、俺がヤって経験値をもらう方がいい。エンシェントスペクターの経験値は高いし。
「わ、ワフゥ……」
俺と目があったコボルトはビクッと体を跳ねさせるも、直ぐに自分がこの後どうなるかを悟り、覚悟を決めたように瞼を閉じる。
うーん……なんだろう、俺、いま凄く悪役みたいなことしてね? いや、悪役なのは間違いないんだけど……。
「……悪役と外道は、違うよな」
原作ゲームのイザーグは、悲しい過去と精神からくる異常で、残虐な外道キャラとして描かれていた。だが、俺はイザーグであるが、イザーグではない。わざわざ外道に成り下がることもないのだ。
「お前さえ良ければ、俺と一緒に来るか?」
オリンポス・サーガでは、魔物を仲間にすることは出来ない。一部、参入キャラの中に魔物がいるにはいるが、汎用キャラ、いわゆるモブを仲間にする機能はない。なので、これが正解かどうかもはっきり言ってわからない。
わからないが、俺はどうにもこういった方面では甘いようだ。目の前で怯えるこいつを手にかけることは、どうにも憚られる。先のゼピュロス戦でも、戦う意思のないものは逃がしてしまったし。
「ワンッ! ワンッ!!」
差し出した俺の手を握り、涙目で尻尾を振るコボルト。どうやら、仲間になってくれるようだ。
『実績解除:新しい仲魔』
ん?
なんだ、今の……?
何故か急に、俺の頭の中に妙なメッセージが浮かんだ気がする。まるで、オリンポス・サーガでのシステムメッセージの様な……。いや、気のせいか。
この世界はオリンポス・サーガのようで、やはりオリンポス・サーガではない。恐らくステータスは存在するのだが、それをゲームの様に自由に見たり弄ったりはできないからだ。それでもボスである特性やレベルっぽいものはあるので、是非そういった要素を覗くことが出来れば、今後の進行もスムーズになるのだが。
『実績解除:ようこそ、オリンポス・サーガの世界へ』
…………は?
なんだ、いまのは……?
流石にこの短時間で二度も起きれば、気のせいではない。実績解除……たしか、リメイク版で追加された、トロフィー獲得の条件達成で手にはいる物だった……はず。
これはいったい、どういう訳だ……?
「どうしたんです、ご主人様?」
「ん? あぁ、いや……なんでも……な?」
なんでもなくはないな。
いよいよ、俺の脳みそがバグに侵されてしまったのかもしれない。すり抜けバグが失敗していたのだろうか。
俺の顔を見上げて首を傾げるコボルト。
コボルトが発した言葉が理解出来るうえに、体からポップアップされているステータスを視ることが出来るようになっていた。
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