第11話 幽霊タイプの敵って、いったいどうやってあの数を維持しているのだろうか
オブジェクトすり抜け技を使い、なんとか無事に山の向こう側へと到着することができた。
まぁ、この山自体はまた後程、ちゃんと正攻法で攻略する必要があるのだが。貴重なアイテムや仲間が手に入るかるね。多分。
しかし、ゲームではグラフィックの都合上特に感じなかったけれど、山の中を眺めながら移動するのはなかなかに奇妙なものだ。途中、希少鉱石のアダマニウムの原石があったので危うく手を伸ばしかけた。が、下手なことをするとそのっまま石の中で一生を終えかねないので、泣く泣く諦めることになった。
「さてと……ユピテル様とアンネを待たせるわけにもいかないし、お目当ての物を手に入れに行きましょうかね」
今回の目的は、ここガイアの地にある街、『キュクロプス』へと向かうことだ。とは言え、ここに立ち寄って目的の物を手に入れれば、一度向こう側へと戻ってユピテル様達を迎え、もう一度こちら側へと戻ってくるのが次の目的になる。
さて、ここでひとつ大きな問題がある。オリンポス・サーガというゲームにおける敵とのエンカウントは、シンボルエンカウントという敵のシンボル(ミニキャラ)と接触したときに戦闘が始まる。
いまのところ、少しこの世界を見ていた感じではそれは踏襲されているようで、ある一定まで近づかなければ、敵がこちらを視認しても近づいてこない。逆に言えば、見えていなくても近づきすぎれば、敵が襲いかかってくるということだ。そして、お互いの距離が詰まれば戦闘が始まる、という感じだ。
そして、このガイアの地のフィールドにいる魔物の代表はエンシェントスペクターと呼ばれる、太古から存在する幽霊の一種だ。早く成仏してくれ。
なので、気がつけばいつの間にか背後から襲われ、高確率でこちらが不利な状況になるバックアタックでの戦闘になってしまうのだ。
そして、ここは腐っても終盤のフィールドであり、エンカウントする敵はどれもが強力だ……普通であれば。
オリンポス・サーガにおける敵の強さは、『ストーリーの進行度』と『何回戦闘に勝利したか(逃走はカウントされない)』と場所に設定されている『お供レベル』に依存する。
ストーリーの進行度はその名の通り、ストーリーの各ポイントに設定されている進行度カウンターが上昇するイベントをクリアーしているかどうか。
これはサブストーリーなどの横道にも存在するので、やたらめったら序盤から色んなイベントをクリアーしていってしまうと、敵が強くなりすぎて詰む原因のひとつだ。
ただ、これをマックスまであげないと出会えない敵もいるので、結構重要な部分である。
次に、何回戦闘に勝利したか。これは、ボスなどの強制戦闘はカウントされない。つまり、雑魚敵を回避し続ければこれは上がらず、低レベルクリアーなどのやり込みプレイでは重要になる。
そして、場所に設定されているお供レベル。シンボルエンカウント方式の戦闘であるオリンポス・サーガでは、シンボルの種族の魔物がメインとして敵で登場する。ただ、その隣などにいる他の種族の雑魚敵は、シンボルの種族以外である場合がある。そうなったときに参照されるのが、このお供レベルなのだ。
お供レベル自体、先にあった何回勝利したかや、ストーリーの進行度が係数として加算されて上昇する。
つまり、現在の俺の様にイベントはクリアーをしていなくて、敵とも戦っていない場合は、出てくるお供は最底辺レベルなのだ。
シンボルであるエンシェントスペクターとの戦闘は避けることは出来ない。だが、どちらかといえばガイアの地でキツいのはお供で登場するダークエルフだ。ダークエルフ、と聞くと、褐色の美女を想像するかもしれないが、オリンポス・サーガはそんな甘いゲームではない。
手足が異様に長く、河童の様な不気味な顔で肌は浅黒く、致死の魔術と不可避の一撃を放ってくる厄介者だ。
そう、厄介なのがこの不可避の一撃である。
この一撃自体は、非常に攻撃力が低く、例えレベルが1であってもカンストであっても、食らうダメージは1である。ただし、どんな装備や魔術を使っても確実に1のダメージを与えてくる。回避能力をカンストしていても確実に当ててくる。
これだけ聞けば、大したことが無いように思えるだろう。だが、これがエンシェントスペクターと一緒に出てくると、途端に死神へと変貌する。
エンシェントスペクターの攻撃手段は《怨念》という最大HPに対する割合ダメージを出すものしかない。つまり、最悪どれだけ食らおうと、最大HPに対する割合なので0にはならない、戦闘不能になることはないのだ。
しかし、そこに不可避の一撃が加わるとどうか。
そう、避けられない死が待っているのだ。
なので、実はゲームにおいても、ここでのお供レベルの調整はかなり重要になってくる。幸いにもダークエルフが出てくるお供レベルは14の間だけであり、さっさと15にあげてしまえば登場しなくなる。まぁ、ダークエルフの持つ限定装備が必要な場合は、死にもの狂いで戦うはめになるのだが。(しかも、落とさないままレベル15になると、セーブ地点からやり直しである。あぁ、苦行)
「っと、考えこんでいたらこれだ」
急に体の力がガクッと抜ける感覚が襲う。
見れば、いつの間にか背後に恐ろしい表情の怨霊が現れ、こちらに手を翳している。どうやら、実際に《怨念》を食らうとこんな感覚らしい。
「んで、現在のお供レベルが……よし、ゲームの通りだな」
エンシェントスペクターの隣にいるのは、釘が大量に刺さったこん棒を持つ犬の獣人種、コボルトである。お供レベルとしては3の魔物であり、本来であればゲームを開始して少し進んだ段階で出始める雑魚だ。普通にプレイをしていればこんな魔境の様な場所で出会うことはない。
その証拠に、よくよく観察してみればコボルト自身、妙に困惑している様子がある。それはそだろう。こんな場所で生き延びられるコボルトなんているはずがないし、どうも急に連れてこられた感がある。
「まぁ、ゲームなら仕様を利用したバグ、で済むけど、実際にそうなったら困惑するわな」
実際、この現象がどのように起こっているのかは俺にもわからない。いま見ている感じでも、コボルトは何もない場所から急に出てきた様にも見えたし。
「クゥン、クゥン……」
「すっかり怯えてるな。まぁ気持ちはわかる」
あくまでもゲームに近い世界なだけで、ここにいる者は人であれ魔物であれ生きている。このコボルト君にも家族があっただろうし、もしかすれば団欒の最中に突然、終盤の地に呼ばれたのかもしれない。魔王、最低だな。
「そこのコボルト。俺の言葉が解るか?」
俺の問いかけにコボルトは一瞬体をビクッとさせ、恐る恐る頷く。なお、この間にも俺はエンシェントスペクターから割合ダメージを受けており、たぶんゲーム画面ならステータスが黄色になっていることだろう。正直、二日酔いを四日続けるという矛盾の様な状態に近い。いかん、思考力がバッドでステータスだ。
「俺の言葉がわかるのであれば、そのまま俺を攻撃せずについてこい。そうすれば命は助けてやろう」
「ワ、ワフ?」
本当か?とでも言いたそうに首を傾げるコボルト。まぁ攻撃されたところでスーパーアーマーがあるのでダメージは受けないが、万が一ということもある。もし、この状態でコボルトパンチを金的にでも食らえば、某段差に躓いて死ぬ主人公よろしく、この場に崩れ落ちる自信がある。
「いいか? お前はその距離を維持しつつ、街の近くまで移動するんだ。そうすれば、後は見逃してやるから」
シンボルエンカウントの良いところは、戦闘が済まない限り新しく戦闘にならないという点にある。その法則はこの世界でも通用するようで、先程から別のエンシェントスペクターがこちらに襲いかかろうとしては、先に襲いかかっているエンシェントスペクターの存在に気がついていそいそと後退していくのが見える。
……なんだろう。コンビニのレジが空いてると思って篭を置こうとしたら、実は商品棚の向こう側に列があったことに気がついた人みたいな反応だ。
とまぁ、そんなわけでこのままエンシェントスペクター1体を相手にしつつ、街へ向かえば安全というわけだ。
ぶっちゃけると、このコボルトをぶっ飛ばしても実は大丈夫だったりはする。ただし、その場合は一回か二回が限度だ。何故なら、戦闘が終了した途端にお供レベルが上がってしまうし、この場所のレベル差だと一気に14付近まで上がる可能性があるからだ。そうなれば、蘇生術を持つ仲間がいないお一人様パーティーだとゲームオーバーだ。
街まで行きエンシェントスペクターを倒して、コボルトから逃亡する。そうすることで、戦闘勝利回数が増えることを阻止するという計画である。これも低レベル&最低戦闘回数攻略の定石手段だ。
「よーし、付いてこいッ!!」
「わ、ワンッ!」
不安げではあるが、コボルトも付いてきてくれる様子。
こうして俺は、重いからだを引きずりながら『キュクロプス』の街を目指すのであった。
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