【49幕】油断は致命的な欠陥

「悪の黒幕はノア!! 裏切り者はゼオン! 嘘つきはクウセン! この三人を消さずして僕の人生に未来はない!!  僕の……僕の未来を返せっっっっ!」


 ロイドは、心の底から沸き続ける感情を言葉に変換していた。絶望・不安・恐怖・憎悪などの負の感情。生きとし生けるものの代弁者として、この世の全てを喰らうかのように。ただ、ロイドは感情に囚われすぎた。


 ――油断。闘いにおける油断は致命的である。


「何をやっているんだ! ロイド!!」


 ゼオンの言葉がロイドに響く。だが、一足遅かった。ロイドの頭を衝撃が貫き、吹き飛ばされていた。身体に走る激しい痛み、側頭部に回し蹴りをくらっていた。口の中が切れたせいか、鉄の味が広がる。


「おいおい! 簡単に倒れてくれんなよ!! 切り刻んで、グッチャグチャの挽き肉にしてやるからな!」

「ロイド! 分かってるわね! 負けたらカッチカチに凍らせて、削りこんでかき氷にするわよ!」


 何でこんな目に合うんだろう。周りには話の通じる相手はいないのだろうか。ロイドは嘆きたいが、今は闘いに集中することにした。

 

紅蓮火炎弾クリムゾンフレイム!」


 ロイドはクウセンに向かって、内なる怒りと共に魔術を解き放つ。豪炎の塊は空気を喰らいながら、クウセンに向う。これでもかと言わんばかりに、ロイドは連発した。


「俺様のにかかれば、こんなもの簡単によけられるぜ!」


 地を這う様な低い姿勢で足場を蹴り、跳ぶようにクウセンが迫ってくる。ロイドが次の動作に入ろうとするよりも速く、反撃しながら間合いを詰めてきた。


石の槍ストーンランス!」

 

 1m程の円錐形の石が、次々とロイドに向かって降り注いでくる。ロイドは軽快なステップで、石の雨を華麗によけた。


「大した事ありませんね!」

「どうかな? ……!!」

 

 よく見るとロイドの石が刺さっている。さながら、檻の中に閉じ込められた感覚だ。嫌な予感が的中する。


狼・楼・牢ミロウ!!」


 石を足場に蹴り飛ぶクウセンの凄まじい勢い。風の刃がロイドを襲ってくる。ロイドは必死によけることしか出来ない。しかも、避けた直後には別の方向からクウセンの牙に爪が、ロイドの眼前をかすめる。そして最悪なことにその速度は徐々に上がり、ロイドは目で追えなくなっていた。背中に、腹部に、脚にロイドは激しい痛みを感じていた。


「トドメだっ! 狼・流・渦ロウリュウ!!」

 

 技を放たれた瞬間には、ロイドの意識は飛んでいた。縦回転しながら落下してくるクウセンの踵落としが、ロイドに後頭部に決まっていた。痛みを感じる間もなく、ロイドは膝から崩れ落ちていた。


 遠のく意識の中で、ロイドはに話しかけられていた。一方的に進められる話。もはや、それは説教に近い。現実味の無い感覚が、ロイドを包み込む。




『お前は力の使い方も知らないのか? お前は俺の力を持っているんだぞ? 情けない……。いいか? お前に合った闘い方を教えてやる。考えるな……愉しめ!』




 誰にも聞こえない声。頭を打った衝撃で、幻聴でも聞こえているのか。ロイドは意識を取り戻していた。身体に力が入らないが、無様に倒れるのは嫌だ。ロイドは気力だけで立ち上がろうとする。精神が、肉体を凌駕する。


「眠っとけば良かったのによ! 死にてぇのかっ!! 望み通りにしてやらぁっっ!! 狼・楼・牢ミロウ!!」


 再びクウセンの攻撃が迫ってくる。ロイドは避けようとしなかった。諦めたわけでもなく、動けないわけでもなかった。と感じていた。


竜の鱗鎧ドラグスケイル!!」


 ロイドは眠る力の声に従っていた。考えるというよりは、自然と身体が動き出す。ロイドは脱力し、自然体にかまえていた。そしてクウセンの攻撃を全て受ける。全くと言っていいほど、痛みもダメージもない。


竜の暴風息ドラグブレス!」


 ロイドは辺りの空気を一気に喰らい、魔力と混ぜ吐き出す。小さな渦は瞬く間に巨大な渦となり、光を飲み込みながらクウセンに向う。身動の取れないクウセンは渦の中で幾度も跳ね上げられ、そして地面に叩きつけられた。


「やりまし…………た……」


 ロイドは緊張の糸が切れたのか、今まで味わったことの無い疲労感と激痛に襲われ、また意識を失おうとしていた。薄れゆく意識のなか、かすかに聞こえる観客の歓声にロイドは安堵と喜びを感じていた。


 ロイドは笑いながら気を失った。


 

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