【50幕】技量差は静寂を生む源

「よく盛り上げたじゃない! やるわねロイド! こっちの泥試合コンビより湧いたわよ!」


 ゼオンから見ても、十分に盛り上がっていると感じられる試合であった。技の応酬、鬼気迫る闘い。ロイドの底力にゼオンは感心すると同時に、闘ってもみたいと関心が湧いていた。


 試合の結果は、両者気絶。ロイドも前半のダメージが響いていたのだろう。それでも結果は結果。ロイドは褒められ、ゼオンはけなされている。とりあえずは、全てが終わりノアの気が収まるのを待つしかない。


「いよいよ最後だな。ノア? 一応言っておくが、これはだからな……」

よね! うふふ」

「何か、イントネーションが違うような……」


 ゼオンは歩き出すノアの背中を見つめていた。ドス黒い何かを纏った、異様な魔力。さながら死神。背中にはあるはずのない、大鎌が見えてしまう。敵とはいえ死人が出ないように、ゼオンは細心の注意を払うことを心に誓った。


◇◇◇◇◇◇◇



「意外とやるようだな! だが、あいつらまだ未熟な若造だ! 俺はあいつらの様にはいかんぞ! 俺が死獣王最強のケイエイだ! 『剛魔』の二つ名、味あわせてやるぜ。ガハハハ!」


 ケイエイの間抜けさに、ゼオンは頭を抱えていた。叫べば叫ぶほど道化師ピエロに見えてくる。瞬殺されるのがオチだろうと、ゼオンは心配となる。元はと言えばケイエイの一言が原因なのだが。この中でノアを抑えられるのはゼオンしかいない。仕方がないから助けて恩を売ろうと、ゼオンは計算していた。試合開始の合図がなったあとも、会場にはケイエイの大きな声が響いていた。


「エルフのお嬢ちゃん! 俺の倍以上は生きてるからか? 年寄りはあまり虐めたくないんだよな。ガハハハ……は?」

紅蓮火炎弾クリムゾンフレイム

「おい! 不意打ちとは卑怯だ……」

黒風雷光弾ブラッドサンダーストーム

「えっ……?」

紅蓮火炎弾クリムゾンフレイム黒風雷光弾ブラッドサンダーストーム紅蓮火炎弾クリムゾンフレイム黒風雷光弾ブラッドサンダーストーム……」


 会場は静まり返っていた。眼の前に広がる、ノアの見た目とは裏腹の容赦ない攻撃。慈悲と騎士道精神なんてものは皆無。ケイエイに直撃することなく、連続攻撃を仕掛けている。ノアは無表情でケイエイを追い詰め、悲鳴と恐怖に歪む顔を楽しんでいる。ゼオンはノアの背中で悪魔が微笑んでいる気がした。


「散開せよ、水晶石の槍クリスタルランス! 纏え、冥府の劫火ヘルフレイム!」 


 見上げると魔術で創られた無数の小さな水晶石の槍が、空高くに浮いている。紅蓮の炎に包まれ、空中で待機している。ケイエイに照準をさだめている。


「突き刺せ、暴風竜の瞬息ウラガーノブレス!」


 無数の槍が光を撒き散らし、虹の雨の様にケイエイに降り注いでいく。音よりも速くそして静かに、されど明確な殺意は溢れんばかりに。


紅蓮の天降極石・百華繚乱クリムゾンメテオ・フィオリトゥーラ!!」


 ――危ない!!!


 ケイエイに直撃すると思ったが、ノアは冷静であった。緻密な制御、針の穴を通す様な正確さでケイエイの眼前でしている。ケイエイは頭を抱え悲鳴をあげていた。社会的な抹殺。しばらくは恥ずかしさがケイエイを苦しめるのではないかと、ゼオンは思わず同情してしまう。


「もう、いいかしら? あなたは、叩きのめす価値も無いわ!」


 力の差を見せつけ、完膚なきまで叩きのめしたと思うが。ゼオンは口には出さず、言葉を飲み込んだ。異様に静まり返る会場を見ながら、ふとゼオンは気が付く。恐怖が、圧倒的な恐怖が声を封じている。結局ノアも盛り上がりに欠ける試合だったということだ。ゼオンには、心做しかノアが震えているようにも見える。静まり返る会場に、恥ずかしくなったに違いない。今回も面倒ではあったが、色々と楽しめた。ゼオンは小さく欠伸をしながら笑っていた。



 



 

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