【42幕】誤解は絡み合う鎖

「何で私まで、怒られなければいけないの? ねぇ、ゼオン君?」


「旅は道連れと言うだろ。ダリア、諦めてくれ」


 巨大魔導機械兵士バハムートオウの爆発。流石に、看過されることは無かった。当たり前かとゼオンは諦めて、教授陣の叱責を受けていた。今、ゼオンをはじめ、あの場に居た全員が呼び出されている。ゼオンは部屋の中央に、他の仲間は後ろに並ぶ形で座らされている。周りには数名の教授が、ゼオンを囲む様に座っている。査問委員会もこんな感じなのか。威圧する眼、呆れる眼が、四方八方からゼオンを見ている。


「ゼオン君! 一歩間違えれば街にも、王立魔術研究府 ここにも、被害が出たかもしれないっすよ! 日頃から無茶ばかりして……。少しは、自重するっす!! いい歳なんだから、分別をつけるっす!」


 そこまで言うか。ゼオンは、思わず叫びそうになった。カリフも目を輝かせて、話を聞いていた。会議が入り、これなかっただけではないか。しかも、魔導機械兵士マナゴーレムはノアの持ち出し。カリフには金銭的ダメージが無いため、ここぞとばかりにゼオンを責めてくる。


「脅されたんです! 僕は、ゼオンさんの暴挙の被害者です! 『崖から突き落とす!』と脅されたんです! 生きるためには、従うしかなかったんだっ!」

 

 ――ロイド、演技派だな……。泣きながら、情状酌量を訴えているじゃないか。本当に、崖から突き落としてやるからな。


「いや〜。僕は、止めたんですけど。テストに付き合わないと、『王立魔術研究府 ここを破壊する!』と、脅されて……」


 ――トラジェ、お前もか……。一番乗り気だったはずだろ。裏切ったな。


「私達も……脅されたんです! 巨大魔導機械兵士バハムートオウを作らなければ、あんなことやこんなこと。口に出すのもおぞましい、卑猥なことをするからと脅されて……」


 ――マーキー、スービー! 人に、変な容疑をかけるんじゃない。魔晶石に目を眩ませて、納得していたのはお前等じゃないか。そして、みんな信じるな! 何だ、その白い眼は。


 四方八方から責めてくる、威圧する眼、呆れる眼。加えて軽蔑の眼が増えた気がする。ゼオンの背中に戦慄が走る。ノアの視線だろう。怒気と殺気が止まることなく溢れている。ゼオンは、死を覚悟した。


 実際は、一時間位だろうか。ゼオンは一日中、謝罪と弁明をしていた感じがしていた。呼び出しが終わった後で、ノアの誤解を解くのは簡単では無かった。脱兎の如く逃げ出そうとした、四人。取り急ぎマーキーとスービーを、ゼオンは捕縛した。ゼオンは必死に説明した。明日を生きるため。二人の口から、『嘘』という言葉を吐かせることに成功したときは、安堵で涙が流れた。



◇◇◇◇◇◇



「どうなることかと思ったっす。無事に終わって、良かったすね。立場的に、ああするしかなかったっす。演技っすよ?」

「いや〜。あの場は、ああするしかなかったですね。ま〜、ゼオン君! 申し訳ない!」

「私は、巻き添えにされた被害者だからね?」

「ゼオン? 他の女に手を出そうとしたら、封印するから!」


 研究室に戻ると、申し訳無さそうな顔をしたカリフとトラジェがいた。二人が必死に謝るものだから、ゼオンの怒りは収まっていた。決して、出された高級菓子に買収されたわけではない。ゼオンは満面の笑みで、菓子を頬張り珈琲の香りを楽しんでいた。ダリアには、しばらく関わらずやり過ごそう。


 一番怖いのは、ノアだ。ゼオンは、闘って死ぬ覚悟はあるが、封印されるのは御免だと感じていた。負けたのか、それすらも分からない。ノアを食事に誘うことで、ゼオンはその脅威から逃れることに成功した。


「ロイドは、どこだ?」  


 ゼオンの中で、フツフツと怒りが再燃してくる。研究室に顔も出さず、どこに逃げたのかと気になり、ゼオンは皆に尋ねていた。


「あ〜。ロイド君なら、『探さないでください』と言って、街に出かけて行きましたよ」

「逃げたっすね……」

「あいつ、飛んだな……」


◇◇◇◇◇◇◇


 二日後、ゼオンはロイドから謝罪を受けていた。ゼオンから逃れる為に、ロイドは街に隠れていたという。そこまでするか。極悪非道の血も涙も無い悪魔であるまいし。ゼオンは、自分がどんな風に見られているのか心配になっていた。


「ゼオンさん! 良い情報があるんです! 情報と引き換えに、怒らないでください!」


 開き直りが早いというか、ロイドもたくましくなったなと、ゼオンは感じた。情報には、価値がある。価値の無い情報であれば、ロイドには消えてもらえば済む。ゼオンは、黙って話を聞くことにした。


「生きるために、僕は逃げました。卑怯かもしれないですが、生きていれば勝ちなんです! 逃げた先は、王都の冒険者ギルド。僕は、そこである情報を手に入れました!」


 話が長いと、ノアに軽く頭を叩かれているロイド。いったい、どんな情報であろうか。ゼオンは、ロイドに話を続ける様に促した。


「リマ王国にある、オントリア湖。ここで最近、冒険者が消える事件が発生しているんです! リマ王国の冒険者ギルドからの要請で、調査団の派遣依頼があったんです!」


 千載一遇の好機。失踪事件の調査と同時に、ゼオンの元拠点も調査できる。そして、報酬。一石二鳥の依頼ではないかと、ゼオンは喜んでいた。ゼオンは和解の握手をロイドと交わしていた。


「それって……」

「いや〜、多分……」

「公開されている依頼を受けただけっすね……」


 情報には、価値がある。価値がつくには希少性や有用性などの、付加的な何かが必要不可欠だ。公開されている情報。誰もが知ることのできる情報。価値はあるかもしれないが、ゼロに等しい。


「ロイド……。今日は、暇だよな?」

「えっ?」

「いつもの崖に、遊びに行くぞ!!」

「ぎゃぁっっっっっっ!!!」


 ゼオンはロイドの首根っこを押さえ、静かに転移した。研究室にはロイドの悲痛な叫びが反響する。さながら、断末魔のように。

 

 



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