【42幕】誤解は絡み合う鎖
「何で私まで、怒られなければいけないの? ねぇ、ゼオン君?」
「旅は道連れと言うだろ。ダリア、諦めてくれ」
「ゼオン君! 一歩間違えれば街にも、
そこまで言うか。ゼオンは、思わず叫びそうになった。カリフも目を輝かせて、話を聞いていた。たまたま会議が入り、これなかっただけではないか。しかも、
「脅されたんです! 僕は、ゼオンさんの暴挙の被害者です! 『崖から突き落とす!』と脅されたんです! 生きるためには、従うしかなかったんだっ!」
――ロイド、演技派だな……。泣きながら、情状酌量を訴えているじゃないか。本当に、崖から突き落としてやるからな。
「いや〜。僕は、止めたんですけど。テストに付き合わないと、『
――トラジェ、お前もか……。一番乗り気だったはずだろ。裏切ったな。
「私達も……脅されたんです!
――マーキー、スービー! 人に、変な容疑をかけるんじゃない。魔晶石に目を眩ませて、納得していたのはお前等じゃないか。そして、みんな信じるな! 何だ、その白い眼は。
四方八方から責めてくる、威圧する眼、呆れる眼。加えて軽蔑の眼が増えた気がする。ゼオンの背中に戦慄が走る。ノアの視線だろう。怒気と殺気が止まることなく溢れている。ゼオンは、死を覚悟した。
実際は、一時間位だろうか。ゼオンは一日中、謝罪と弁明をしていた感じがしていた。呼び出しが終わった後で、ノアの誤解を解くのは簡単では無かった。脱兎の如く逃げ出そうとした、四人。取り急ぎマーキーとスービーを、ゼオンは捕縛した。ゼオンは必死に説明した。明日を生きるため。二人の口から、『嘘』という言葉を吐かせることに成功したときは、安堵で涙が流れた。
◇◇◇◇◇◇
「どうなることかと思ったっす。無事に終わって、良かったすね。立場的に、ああするしかなかったっす。演技っすよ?」
「いや〜。あの場は、ああするしかなかったですね。ま〜、ゼオン君! 申し訳ない!」
「私は、巻き添えにされた被害者だからね?」
「ゼオン? 他の女に手を出そうとしたら、封印するから!」
研究室に戻ると、申し訳無さそうな顔をしたカリフとトラジェがいた。二人が必死に謝るものだから、ゼオンの怒りは収まっていた。決して、出された高級菓子に買収されたわけではない。ゼオンは満面の笑みで、菓子を頬張り珈琲の香りを楽しんでいた。ダリアには、しばらく関わらずやり過ごそう。
一番怖いのは、ノアだ。ゼオンは、闘って死ぬ覚悟はあるが、封印されるのは御免だと感じていた。負けたのか、それすらも分からない。ノアを食事に誘うことで、ゼオンはその脅威から逃れることに成功した。
「ロイドは、どこだ?」
ゼオンの中で、フツフツと怒りが再燃してくる。研究室に顔も出さず、どこに逃げたのかと気になり、ゼオンは皆に尋ねていた。
「あ〜。ロイド君なら、『探さないでください』と言って、街に出かけて行きましたよ」
「逃げたっすね……」
「あいつ、飛んだな……」
◇◇◇◇◇◇◇
二日後、ゼオンはロイドから謝罪を受けていた。ゼオンから逃れる為に、ロイドは街に隠れていたという。そこまでするか。極悪非道の血も涙も無い悪魔であるまいし。ゼオンは、自分がどんな風に見られているのか心配になっていた。
「ゼオンさん! 良い情報があるんです! 情報と引き換えに、怒らないでください!」
開き直りが早いというか、ロイドもたくましくなったなと、ゼオンは感じた。情報には、価値がある。価値の無い情報であれば、ロイドには消えてもらえば済む。ゼオンは、黙って話を聞くことにした。
「生きるために、僕は逃げました。卑怯かもしれないですが、生きていれば勝ちなんです! 逃げた先は、王都の冒険者ギルド。僕は、そこである情報を手に入れました!」
話が長いと、ノアに軽く頭を叩かれているロイド。いったい、どんな情報であろうか。ゼオンは、ロイドに話を続ける様に促した。
「リマ王国にある、オントリア湖。ここで最近、冒険者が消える事件が発生しているんです! リマ王国の冒険者ギルドからの要請で、調査団の派遣依頼があったんです!」
千載一遇の好機。失踪事件の調査と同時に、ゼオンの元拠点も調査できる。そして、報酬。一石二鳥の依頼ではないかと、ゼオンは喜んでいた。ゼオンは和解の握手をロイドと交わしていた。
「それって……」
「いや〜、多分……」
「公開されている依頼を受けただけっすね……」
情報には、価値がある。価値がつくには希少性や有用性などの、付加的な何かが必要不可欠だ。公開されている情報。誰もが知ることのできる情報。価値はあるかもしれないが、ゼロに等しい。
「ロイド……。今日は、暇だよな?」
「えっ?」
「いつもの崖に、遊びに行くぞ!!」
「ぎゃぁっっっっっっ!!!」
ゼオンはロイドの首根っこを押さえ、静かに転移した。研究室にはロイドの悲痛な叫びが反響する。さながら、断末魔のように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます