5章 獣人王国リマ篇

【41幕】変身合体は漢の浪漫

「天が! 地が! 倒れた仲間が俺を呼ぶ! 愛と平和を護る! 孤高の守護闘士! トラダリオン!!」


「え〜。ゼオン君。そこは、腕の角度をですね、こうして……。そう! そんな感じで行きましょう」


 ゼオンは、競技会以降に他の研究室とも交流するようになった。その中にはマーキーとスービーもいた。二人にはモルベガ産の良質な魔晶石を交換条件に、ゼオンはあるものを作ってもらっていた。


 ――変身ベルト


 ノアに見せてもらった、異界の魔導書バイブル。ここに、記載されていた身体能力を著しく向上させる異界の魔導具。同じものとはいかずとも、似たものを作れないかとゼオンは考えて、マーキーとスービーに頼んだ。


 結果は、成功であった。ベルト内にモルベガで調伏した火の大蜥蜴サラマンダーを留め、変身と同時に身体にまとう。火の大蜥蜴サラマンダーの、形態変化が可能と分かり、開発に成功した。


精霊変換へんしん!! トラダリオンレッド!!」


 ゼオンの全身を、火の大蜥蜴サラマンダーが包み込む。赤い衣服とマントに身を包み、ゼオンは炎の中から飛び出しポーズをとった。光沢のある赤い仮面の下で、ゼオンは満面の笑みを浮かべ泣いていた。


「く〜! 最高ですね! 成功じゃないですか?」


 トラジェの惜しみない拍手に、ゼオンも開発に成功した喜びを噛み締めていた。そして、異界の魔導具にゼオンは漢のロマンを感じていた。


「ゼオン! 素敵な変身ね! 私にも作って欲しいわ! 」

「ゼ、ゼオンさん!! 僕の分もおねがいします!!」


「ノア、ロイド君……? 本気なの? あんな恥ずかしい格好したら、二度と外を歩けないわよ! 目を覚ましなさいっ!!」


 お披露目会にと呼んだメンバーは、恍惚の表情で変身を見つめている。変身は、人を魅了する。ゼオンは、間違い無いと確信した。相変わらず、ダリアだけはノリが悪いなと感じるが、気にはしない。


「え〜! 安心してください! 戦隊ヒーローは、5名が相場らしいですから。もちろん、皆のベルトは開発中です!」


「いらないわよ!! 絶対にいやぁっっっ! やめてぇっっ!」


 ダリアの必死の抵抗は、誰も耳を傾けない。青い空に、吸い込まれていくだけでっあった。ゼオンは、諦めて変身しようと、静かに囁いていた。


「マーキー、スービー! 例のものを!」

「おっけー! みんな、良く見ててよ! じゃじゃーん!!」


 布を引くと、現れる三機の魔導機械兵士マナゴーレム。ただし、形は改造してある。鳥、狼、馬の姿である。そしてゼオンは核となる魔晶石に、アレイオーンにフェンリル、サンダーバードを封入した。


「みんな、どうだ?」

「おお! ゼオン殿! 面白い身体ですな!」


 アレイオーン達も楽しんでいる様だな。ならば、もう一つ楽しむか。ゼオンはアレイオーンに、正確にはアレイオーンを封入した、馬型の魔導機械兵士マナゴーレムにまたがった。


「さあ、行くぞ!! お前ら、用意はいいな!!」

「御意に!」


 ゼオンはアレイオーンを走らせた。頭上をサンダーバードが飛行し、フェンリルが並走している。互いの進行方向に、魔力の道筋が現れ、やがて一つになるのが見えた。


「幻獣合体!! バハムートオウ!!」


 フェンリルが脚に、アレイオーンが胴に、サンダーバードが頭に。各々の形状を変型させ、一つになった。ゼオンの背丈の五倍位だろうか。見上げると、一つの魔導機械兵士マナゴーレムが完成していた。人型の凛々しい姿。機体は、光を浴びて虹色に輝いていた。


 ――うぉぉぉぉっ!! 


 大きな歓声があがる。ゼオンも涙が止まらない。ここまで破壊的な魅了を持つものが、この世に存在するとは。恐るべき異界の魔導書バイブル。ゼオンは、心の底から感服していた。


 ゼオンは跳躍し、魔導機械兵士マナゴーレムの中に吸い込まれていった。中には、円状に光が広がっていた。ゼオンは、その中心に立ち、身体を動かしてみた。巨大魔導機械兵士バハムートオウは、ゼオンの動きに合わせて動く。視界はゼオンと連動しているようだ。


「仕上げだ!!」


 模擬戦にと、漆黒の竜王バハムートを目の前に呼び出す。不完全態ではあるが、サイズ的には調度良さげだ。光の中で、ゼオンは突きを、蹴りを繰り返す。それに合わせるかの様に、巨大魔導機械兵士バハムートオウを動きだす。


 ゼオンは、巨大魔導機械兵士バハムートオウを動かせ満足していた。反応速度の一点を除いては。いささか、遅い。本来のゼオンの動きには、到底及ばない。だが、そんなことも霧散してしまう。ゼオンは、我を忘れひたすら操縦していた。


「これはどうだ! 竜王魔力弾バハムートバルカン!!」


 ――ズガガガッッッッッッッッ!!


 巨大魔導機械兵士バハムートオウの指から、目から、煙を吹き大地を揺らす。機体外に、ゼオンは魔力弾を放っていた。では、巨大魔導機械兵士バハムートオウを通して、魔闘技の発動はどうであろうか。試さずにはいられないと、ゼオンは行動に移った。

 

「魔闘技壱ノ型、紅蓮闘神!!」


 ゼオンの身体能力が飛躍的に向上する。同時に、巨大魔導機械兵士バハムートオウの突きに、蹴りも段違いに素早くなり、空を切り裂く音があたりに響く。


「熱いな!! 血潮が滾るぞ!!」

「ゼオン殿! これ以上は、まずいかと……」


 ゼオンは熱く滾り、心踊らせ一心不乱に動いていたせいか、空間が暑い気がしていた。アレイオーンは、何を『まずい』と言っているのであろうか。周りで見ている皆は、手を思い切り振って喜んでいるではないか。


「ん?」


 手を振っているが、なぜ、走って行くんだ。ゼオンが不思議に眺めていると、アレイオーン達が告げてくる。


「ゼオン殿……。我らも、これにて失礼する……」


 巨大魔導機械兵士バハムートオウから、アレイオーン達が、帰っていくのが感じとれた。これから楽しくなるというのに、何をしているんだろうか。ゼオンは、不思議でならなかった。


「それにしても、暑いな……。一度、外に出るか」


 誰に語りかけるでもなく、ゼオンは呟いていた。外にでようとするが、上手くいかない。何か不具合かとゼオンが考えていた時、マーキーから通信が入ってきた。


「大変よ! かなりヤバいっ! 緊急事態オーバーヒート! 魔力暴走しちゃったみたい。死なないと思うけど……じゃ、気をつけて!!」


 何が、ヤバいんだ。魔力暴走とは何だ。ゼオンが説明を求めようとしても、通信は途絶えたままだ。気をつけてと言われても、何に気をつければいいんだ。ゼオンが思考速度をあげ、考えていたときだ。


 ――ドガァーッッッッッン!!!  

 轟音が鳴り響き、大地を揺らす。


 音に気がついた時ゼオンは、機体外に出ていた。場所が大地であればよかったが、そうではないようだ。大地は遥か頭上に見える。空高く吹き飛ばされ見下ろしていたことに、ゼオンは気がついた。燃える巨大魔導機械兵士バハムートオウ。ゼオンの魔力に耐えきれず、朽ちてしまったようだ。


 ――消し炭だな……。


 歓喜の涙は悲哀の涙に変わり、ゼオンの目に虹をかけていた。ゼオンは愛おしむように、巨大魔導機械兵士バハムートオウを抱擁しに向かっていた。


「安らかに眠れ……、巨大魔導機械兵士バハムートオウよ」



 

 

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