試合の終りに

【幕間】千秋楽は世界の交差点

 試合の打ち上げに簡単な食事会を行おうと、ゼオンは対戦選手に声をかけた。ラインとラックス、アルーザ兄弟が参加してくれた。マーキーとスービーは商談があると、MKSB7号をゼオンに貸して消えていった。こんなもの借りても、使い道はないだろ。片付けるのが面倒なだけではないか。ゼオンは、ツッコミを入れたかった。


「いや〜。お疲れ様! 凄い試合でしたね! 商品は残念ですが……」


 ゼオンは、労いの言葉をかけに来たトラジェに、愚痴をこぼした。愚痴を言ったところで、結果は覆らないのだが。それでも心の平穏を保つため、ゼオンは言葉を吐き出していた。ちょうどそこに、ノアが来て悪魔の様な発言を繰り出す。


「大丈夫よ、ゼオン! 私がいるじゃない! ランチ位、毎日作ってあげるわ!」


「そ、そうだな! 皆で食べられる様に、たくさん作ってくれ! 楽しみにしてるぞ!」


 トラジェの顔が引きつり、見る見る青ざめて行く。熟した果実が、時を遡るかの様に。ゼオンは目で謝罪する。すまない、犠牲にしてしまってと。勢いで言葉は発してはいけない。ゼオンは言葉を発してから、気がついた。


「実に、いい筋肉の対話パッションだった! 我も感動したぞ!」

「今日は楽しかったよ、ゼオン君!」


 ラインとラックスがやって来た。ラインには聞きたいことが山々だ。話を振ろうかと思ったタイミングで、アルーザ兄弟もやってくる。打ち上げとは、なかなか忙しいものだなものだなとゼオンは感じた。


「おっ! ラインにラックス! 相変わらずエグい筋肉やな! ラックス、腹筋何部屋あるんや!」


 筋肉座談会マッスルトークが始まる。日頃の鍛錬を見せ合う、筋肉の品評会。互いが褒め合い、認め合う。しかし、心の奥底では、己こそが一番だとアピールする。ゼオンも負けじと背中を見せる。


「やるやないか! 背中で悪魔が笑ってるわ! ならば、これはどや!!」

「おっ! 肩メロンだね! 熟してるね」


 筋肉座談会マッスルトークは、盛り上がりしばらく続いていた。ゼオン達が盛り上がっている時、惨事は起きた。


 ニロが、ノアに話しかけていた。そこまでは、良かったのだが。ロイドが粗相をした。最近、ノアの弟子というか、従者というか、主従関係の如く動いている。ロイドを鍛える様に、ゼオンが頼んだからだが。


「君は、ゼオンの嫁さんなんや?」

「そうよ! 将来のね!」

「そうなんや! そりゃ、おめでとうやな。君は、たしかモルベガから来たんよな? 」

「そうなんですよ! しかもノアさんは、モルベガの初代国王なんですよ! びっくりしますよね!」

「初代国王なんや! ん? 建国して、何年や? 君、いったい何歳や??」


 ロイドの失態を、ニロがさらに失態で上塗りする。ただ、ノアの怒りの矛先はニロ。ノアに年齢の話は、禁句だ。ゼオンは、どうなるかヒヤヒヤしながら見ていた。


「……ロイド…………。やっておしまい!」

「へいっ!! ノア姐さん!!」

 

 あれだけ争い事が嫌いなロイドを、ここまでの戦闘機械マシンにするとは。ノアの指導方法が凄いのか、洗脳でも施したのか。ゼオンは、驚きを隠せなかった。試合でも、今くらい動いてほしかったなとも思っていた。


「ロイド君、たくましくなったものね……」

「う〜ん。そうですね……」


 ダリアもトラジェも驚いていた。ニロを担いで、空高く舞うロイド。空中で見たこともない関節技を決め、そのまま落下していく。後でニロを回復させてやろう。


「安らかに眠れ……ニロ」



◇◇◇◇◇◇◇



「しかし、ライン。どこで、魔闘技を学んだ?」


 ゼオンはようやく、本題に入れ、安心していた。周りの皆も、興味津々なのか、静かに聞いている。


「魔闘技は、一族の秘伝なんだよね!」

「なにっ! ライン! お前、家名は何て言うんだ??」

「グラシオン。ライン・グラシオンだけど?」

「ぐぬふっ!!」


 ゼオンは驚きのあまり、口にした飲み物を吹き出していた。グラシオンは、ゼオンの名前でもある。魔闘技は、魔人族、グラシオン一族の技だ。ゼオンに兄弟はいない。そして、子供もいない。直系ではないが、親族の子孫とでもいうのか。信じられないが、グラシオンという名前と魔闘技が、信じろとゼオンに訴えているように感じた。同時に、背後からは大地を焦がす熱量の視線、いわゆる殺気を感じていた。


 ノアの誤解を解かねば、明日はない。ゼオンは、必死に説明した。名も顔も分からぬ親族に、文句を言いたいが。ラインに説明すると、ややこしくなると思い、ゼオンはノアだけに説明した。


「信じるしかないけど……。グラシオン一族がいるなら、ゼオンの国の話が、歴史に残っているはずなのに……」


 また一つ、面白い事実を知れた。それだけでも、十分だと、ゼオンは感じていた。機が熟したら、ラインにも説明しよう。



◇◇◇◇◇◇◇



「対魔獣殲滅せんめつ魔導兵器!! MKSB7号かっ!! 楽しいな!! ロイド!!」


 ズガガガッッッガガガッッッッッッ!!!


「ゼオンさん!! もっと撃ち込みましょうよ!! MKSB7号マジで消し去るべし! 借りられて良かったですね!」


 ドガッッッッガッッッッッッッ!!!


「痛いっす! 辛いっす! 痛いっす!! 目がっ、目がっ!! しみるっすっっっ! やめるっよ!! 」


 ゼオンは怒りと激辛スパイス弾を込めて、カリフめがけて撃つ。ひたすら、無心で、無慈悲に撃つ。この激辛スパイス弾は、ノアから譲り受けた地獄の辛味調味料デスヘブンを使っている。


 笑いながら打ち上げにやって来たカリフを捕まえ、ゼオンは木に縛り付けた。そして、MKSB7号での教育的指導。ゼオンの目の前には、地獄の辛味調味料デスヘブンの海に沈んだカリフの姿があった。


「か・い・か・ん……ですね!!」


 ロイドの恍惚とした表情。ゼオンは、ロイドが新たな扉を開いた様な気がした。激辛スパイス弾のストックが切れ、ゼオンはMKSB7号の稼働を止めた。


「安らかに眠れ……カリフ」


 人の数だけ、人生がある。人生の数だけ、道がある。道があれば、自ずと交わる。


 ゼオンは、楽しんでいた。この複雑極まりない、人生の交差する、今という時間を。






 


  

 









 

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