【27幕】宴は死闘を繰り広げる舞台

「みんな、どうもありがとう! もう問題ないみたい」


 モルベガの王宮。謁見の間に全員揃っている。ダリアが回復し、皆にお礼を言っている。特に、ノアには、これ以上にない礼を述べ感謝している。ゼオンも、貢献したのだが、感謝が薄い。もう、いつもの扱いで、なれてしまったが。あと、聞こえてきた、『ゼオンをよろしくね』の一言には、危険な悪意を感じた。


「もう、次元の違うレベルっすね。いや、教える事は、もうないっす! 卒業っすね! 」


 先程の手合わせを見ていたカリフから、褒められたのか、厄介払いの宣言なのか、分からない言葉をもらった。ゼオンも、負けじと、まだまだであると伝えた。卒業するなら、カリフを倒さないとな。そう、付け加えた。行くも地獄、引くも地獄。カリフは、大きなため息をついていた。


「いや〜。ゼオン君! あんな遺跡に行けるなんて、僕は、幸せです! 」


 ニコニコしながら、トラジェが手を握ってくる。ノアにもお礼を伝えている。よほど嬉しいのであろう。次も、良い遺跡があるから行こうと誘われた。飯屋であれば、誘いにのるが、遺跡ではな。ゼオンは、適当に相づちをうった。


「ゼオン様。強くなったのですね。あの頃より……」


 ノアが、泣きながら喜びをあらわにしている。聞く所によると、三千年近く封印されていたようだ。長いこと一人で待たせてしまったことに、ゼオンはどう詫びればいいのか分からなかった。ただ、今は一緒に居て、この刹那を共に楽しもうと考えている。それと、この世界の歴史を、検証する必要もありそうだ。


 ノアと話していると、後ろからクロスとローレットがやって来た。そして、ノアに耳打ちをし、二人で腕を掴んで連れて行った。国王として、やらなければならないことがあるらしい。


「いや〜!! 書類は見たくない!!」


 ノアの悲鳴が聞こえる。ノアもノアで、国王という柄ではない。可哀想ではあるが、とばっちりを食らうのも嫌だと、ゼオンは心を鬼にして視線をそらす。玉座に座らされるのは、もうコリゴリだ。


「ゼオンさん! モルベガの王宮図書庫は、凄いですね! 」

 

 見かけないなと思っていたが、ロイドはどうやら図書庫にこもっていた様だ。モルベガの歴史書などを読みあさり、興奮している。あとは、カドレニア王国の王立図書館で歴史書を読めば、ある程度の真実を導き出してくれる気がする。


 しばらくすると、クロスが戻ってきた。ゼオンらに、国王の復活と、親交を兼ねて、親睦会を開きたいと伝えてきた。断る道理もないなと、ゼオンをはじめ、全員賛成していた。



◇◇◇◇◇◇◇



 親睦会には、ゼオンら一行と、モルベガ側からは、ノア、クロス、ルボール、ローレットが参加している。さあ、これから始まるといった時に、宴席の会場の扉が開く。


「遅れてしまったな。すまんすまん! 」


 扉から現れたのは、おおよそエルフの一般的なイメージとは程遠い、頑丈な、筋肉質の大男であった。


「オルルド・ヴァリリアさん!!」


 ロイドの目が倍以上に開いている。よほど、驚いたのであろう。オルルドはロイドに近づくと、知ってくれていて光栄だと、握手を交わしている。感激で、ロイドがおかしくならなければいいが。


!! 」


 やはり、始まるのか。いい加減に、普通の食事がしたいものだ。ゼオンは、肩をすくめため息をついていた。


「この少年が? なるほど! 面白い!」


 オルルドもオルルドで、ローレットの紹介に過剰に反応しているのを見て、ゼオンは更にうんざりした。誰か、止めてくれないか。叫びたかったが、誰一人として、はやし立てるのを止めてはくれない。


「対抗戦はどうだ! 」


 オルルドが、三対三の対決を提案してきた。三人が食べた総量で競う。ゼオンは、一対一サシでやれと、ツッコミを入れたが、オルルドもロイドもとまらない。かくして、ロイドチーム対オルルドチームの対抗戦が、決定した。


 ゼオンに、ロイド、カリフが参加する。オルルドと、ローレット、そしてノア。ノアも大食いであったことは、記憶が定かではないが。そんなに、食べられるのか、ゼオンはノアに尋ねた。


「こう見えて、エルフの美少女食闘士と、呼ばれたこともあるんですよ」


「美少女って……。ノア、俺と歳がそう変わ……」


 ――ゴッッン!!!


 言葉を遮るように、ゼオンの顎に、ショートアッパーがきれいに食い込んだ。ゼオンは顎をさすりながら、ノアにひたすら謝った。歳の話は禁句だな。ゼオンは、心に深く刻むことにした。


 夜は更けていく。宴は終わらない。時には、何も考えず、笑い、泣き、喜ぶ。そんな時間も必要だ。誰かと、分かち合うことも。ゼオンは、がむしゃらに、目の前に出された料理を頬張る。いつまで続くか分からない至福の時間。楽しまねば、損である。


「おかわり! おかわりを持ってこい! 」


! ! フォークを止めるな!!」


「お腹が、はち切れるっす!!! 」


 怒号と笑い、ときおり悲鳴。またまだ、宴は終わらない。静寂の空の下、至福の時間は過ぎていった。

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