【25幕】絶叫は恐怖を食らう喜びの声
いったい、この迷宮はどうなっているんだ。罠もさることなから、変な魔獣がいるわ、骸骨が襲いかかってくるわ。落ち着く暇がない。トラジェに至っては、喜びと絶望が入り混じった、新境地の表情である。叫び声も、もはや喜びか恐怖なのか不明である。とりあえずは、怪我のないように、気をかけていれば大丈夫だろう。
モルベガの魔宮は、王宮近くにある森に入口がある。地下に向かって作られており、地下十層の深さであると、ノアからは聞いた。いつの間にか、エルフ族の秘宝が眠る遺跡と噂されていた様だ。エルフ族の冒険者や、エルフ族に認められた人間の冒険者が挑戦したが、踏破したものはいない。九割近くの冒険者が、二度と地上に戻ることは無かったことから、帰らずの魔宮と異名が付いたのであろう。
ゼオンは、何をやったんだと、ノアに確認した。笑いながら、話す内容であろうか。伝えられた言葉には、狂気を感じた。
「この迷宮に配置したのは、異界から呼んだ精霊種に、
以前、対峙した
創ったノアが言うには、思考や魔術を学習し、成長する仕組みらしい。創り上げてからの年月、挑んだ冒険者達の人数。成長していれば、なかなかの強者であるなと、ゼオンは考えていた。死霊術で創り上げたものは、
「ノア? さっきから、何故お前だけ襲われないんだ? 」
地下九階までたどり着いた時、ゼオンは、ふと気になり、ノアに聞いてみた。ゼオンは、さっきから
「ゼオン様、創った私に危害が及ぶわけは、ありませんよ? 」
当たり前の様に言う、ノア。何か、もっと早くに言って欲しかった気がする。ノア一人で行った方が、効率的ではないだろうか。
「いや〜。古代技術の
トラジェも、これだけ危険な目にあっても喜んでいる。生粋の遺跡マニアだなと、ゼオンは感心した。褒められたノアも、満更では無い顔だ。
「この扉の先の最下層に、ユニコーンを封印した魔導石があるんだな? 」
ゼオンが扉を開けようとしたとき、ノアが大声で『あっ!』と叫んでいた。何かを、思い出したらしい。どうした、とノアに確認すると、気まずそうに言ってくる。
「その扉、開けたら……
そういう事も、早くに言ってくれ。ゼオンは、叫びたい気持ちを抑え、扉から現れた
扉を開けた直後、
「いや〜。おいたが過ぎますね」
トラジェの様子がおかしい。頭でも打ったか、と心配になってしまうくらい、目つきが座っている。遺跡に傷をつけたことに、憤慨しているらしい。
「歴史ある遺跡を傷つけるなんて。いや〜、死んで詫びてください! 」
トラジェは背中の鞘から、長剣を抜き出す。トラジェは、剣技と魔術を合わせる魔剣技に卓越している。ゼオンも、一目置く技量である。
「
長剣の刃が、風魔術により、高速振動を起こしている。切れ味が増すであろう。トラジェは、
「
トラジェの長剣に、冷気がまとう。吹雪がトラジェを包み込んでいる様にも見える。トラジェが放つ魔力が凄いこともあり、迷宮自体が冷えだしている。
トラジェが振り返り、こちらに戻ろうとしている。その後ろでは、凍った
「いや〜。久々に動くと、疲れますね。さあ、ゼオン君。進みますか」
ロイド同様、怒らせてはいけないタイプなのかもしれない。ゼオンは、気をつけようと心に誓った。この下には、ダリアを救う者。ゼオンの中にいる、仲間の目的がある。ゼオンは、自然と足早に進んでいた。
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