【25幕】絶叫は恐怖を食らう喜びの声

 いったい、この迷宮はどうなっているんだ。罠もさることなから、変な魔獣がいるわ、骸骨が襲いかかってくるわ。落ち着く暇がない。トラジェに至っては、喜びと絶望が入り混じった、新境地の表情である。叫び声も、もはや喜びか恐怖なのか不明である。とりあえずは、怪我のないように、気をかけていれば大丈夫だろう。


 モルベガの魔宮は、王宮近くにある森に入口がある。地下に向かって作られており、地下十層の深さであると、ノアからは聞いた。いつの間にか、エルフ族の秘宝が眠る遺跡と噂されていた様だ。エルフ族の冒険者や、エルフ族に認められた人間の冒険者が挑戦したが、踏破したものはいない。九割近くの冒険者が、二度と地上に戻ることは無かったことから、帰らずの魔宮と異名が付いたのであろう。


 ゼオンは、何をやったんだと、ノアに確認した。笑いながら、話す内容であろうか。伝えられた言葉には、狂気を感じた。


「この迷宮に配置したのは、異界から呼んだ精霊種に、魔導機械兵士マナゴレームを創って、それから……死霊術も試しました! 」


 以前、対峙した大蜥蜴サラマンダーも精霊種だったはず。もしかしたら、この遺跡で、大蜥蜴サラマンダーを調伏し、契約したのであろうか。セバスチャン……。謎多き漢だな。


 魔導機械兵士マナゴレームは、魔導人形マナドールの元になったものだと、トラジェが教えてくれた。遺跡で見つかった後、長年の研究により完成したという。魔導機械兵士マナゴレームは、永久に動き続け、魔力は誰かのコピーではなく固有オリジナルというとこまで、分かっているようだ。


 創ったノアが言うには、思考や魔術を学習し、成長する仕組みらしい。創り上げてからの年月、挑んだ冒険者達の人数。成長していれば、なかなかの強者であるなと、ゼオンは考えていた。死霊術で創り上げたものは、骸骨騎士スカルナイト。基本的に、死ぬことはない。すでに屍である。便利な門番といったところだ。


「ノア? さっきから、何故お前だけ襲われないんだ? 」  


 地下九階までたどり着いた時、ゼオンは、ふと気になり、ノアに聞いてみた。ゼオンは、さっきから魔導機械兵士マナゴレームをひたすら殴り倒し、精霊種を調伏してきた。骸骨騎士スカルナイトを粉砕し、ノアが浄化。ただ、決まって、ゼオンとトラジェが襲われる。


「ゼオン様、創った私に危害が及ぶわけは、ありませんよ? 」


 当たり前の様に言う、ノア。何か、もっと早くに言って欲しかった気がする。ノア一人で行った方が、効率的ではないだろうか。

 

「いや〜。古代技術のすいが集まった遺跡!実に素晴らしいです!  」


 トラジェも、これだけ危険な目にあっても喜んでいる。生粋の遺跡マニアだなと、ゼオンは感心した。褒められたノアも、満更では無い顔だ。


「この扉の先の最下層に、ユニコーンを封印した魔導石があるんだな? 」


 ゼオンが扉を開けようとしたとき、ノアが大声で『あっ!』と叫んでいた。何かを、思い出したらしい。どうした、とノアに確認すると、気まずそうに言ってくる。


「その扉、開けたら……合成魔獣キメラが、出てきます。忘れてました……」


 そういう事も、早くに言ってくれ。ゼオンは、叫びたい気持ちを抑え、扉から現れた合成魔獣キメラを見ていた。目の前にいる、見たことのない生き物。ライオンの頭と山羊の胴体、蛇の尻尾。背中には竜の翼だろうか。禍々しい魔力を感じる。


 扉を開けた直後、合成魔獣キメラは飛びかかってきた。ゼオンは、とっさに避ける。後ろにいた、トラジェが吹き飛ばされていた。合成魔獣キメラは、迷宮の柱をなぎ倒しながら勢いを殺し、床を削り停止し振り返る。ゼオンは、トラジェが無事か駆け寄り確かめる。


「いや〜。おいたが過ぎますね」


 トラジェの様子がおかしい。頭でも打ったか、と心配になってしまうくらい、目つきが座っている。遺跡に傷をつけたことに、憤慨しているらしい。


「歴史ある遺跡を傷つけるなんて。いや〜、死んで詫びてください! 」


 トラジェは背中の鞘から、長剣を抜き出す。トラジェは、剣技と魔術を合わせる魔剣技に卓越している。ゼオンも、一目置く技量である。


暴風の剣シュトゥルムヴィントソード!」  


 長剣の刃が、風魔術により、高速振動を起こしている。切れ味が増すであろう。トラジェは、合成魔獣キメラに向かって走り出す。合成魔獣キメラも、トラジェに向かっている。衝突する寸前、トラジェは跳躍し、合成魔獣キメラの翼を切り落としていた。


 合成魔獣キメラも、怒りに任せてか、火炎を吐き出す。火炎すらも、トラジェは切り裂き、ゆっくりと進んでいる。


氷原の風殺剣ホワイトアウトソード


 トラジェの長剣に、冷気がまとう。吹雪がトラジェを包み込んでいる様にも見える。トラジェが放つ魔力が凄いこともあり、迷宮自体が冷えだしている。


 合成魔獣キメラの前でゆるりと立ち止まり、剣を静かに振り下ろす。無駄の無い動作。切られたことに気が付かないのか、合成魔獣キメラは数歩進む。前足を振り上げ、トラジェに攻撃しようとした瞬間、合成魔獣キメラの全身が凍り出した。


 トラジェが振り返り、こちらに戻ろうとしている。その後ろでは、凍った合成魔獣キメラが、粉々に砕けていった。


「いや〜。久々に動くと、疲れますね。さあ、ゼオン君。進みますか」


 ロイド同様、怒らせてはいけないタイプなのかもしれない。ゼオンは、気をつけようと心に誓った。この下には、ダリアを救う者。ゼオンの中にいる、仲間の目的がある。ゼオンは、自然と足早に進んでいた。

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