【19幕】運命とは数奇なパズル
試合は、呆気ない幕切れであった。
アレイオーンと再び試合会場に転移した場所が、最高でもあり最悪でもあった。デルタディアブロの
クリニエールレーヴェが善戦し勝ち残り、デルタディアブロとの一騎打ちまでに持ち込んでいた。一進一退の攻防。一瞬の空きを付いた、デルタディアブロに軍配があがった。勝負が決したと、誰もが思った瞬間の出来事であった。
「おっっと!! 突如現れた、トラダリオン!! ゼオン選手! デルタディアブロが、敗れた!! 大番狂わせだっっ!! 」
会場も、やや盛り上がりに欠けるのは気のせいだろうか。ゼオンは、試合には勝ったが勝負に負けた気がしてならない。たまたま、真横に転移した。たまたま、アレイオーンがボールを持っていた。たまたま、ボールを当てた。誰もが、口にしたであろう。
「えっ……」
しかし、勝ちは勝ち。ゼオンは高らかに拳を突き上げた。会場を埋め尽くす拍手の波。湧き上がるブーイングの嵐。異様な雰囲気で、大会の幕は閉じた。
◇◇◇◇◇◇◇
「ゼオン君! ありがとうっす!! 」
ゼオンは、優勝賞金を全てカリフに渡した。これで、迷惑をかけた穴埋めにはなるだろう。それよりも、確認することがあった。
「ダリアは、平気か? 」
ゼオンは、トラジェを見る。軽く首を振っている。まだ、意識を失ったままのようだ。回復魔術など、試せることは試した。ゼオンには、見当がつかなかった。
「呪い……呪術の類っすかね」
カリフには、今までの出来事を説明した。呪術を解くにも、どの様な呪術であるか分かる必要がある。カリフの説明である。魔術、呪術に長けているとすれば、エルフ族であろう。かつての仲間もそうであった。
「エルフ族……すか? 」
何らかの繋がりはないか、カリフに聞いたが、首を振るだけであった。モルベガ王国との、直接の繋がりは
天が味方をする。まさに、このことを言うのであろう。スカイスコーピオの一団と一緒に、ロイドがやってきた。
「ゼオンさん! 優勝おめでとうございます! 」
場違いな笑顔。浮かれたロイドに苛立ちながらも、ゼオンは一部始終、説明をした。落差が激しいのも、問題かと思うが、ロイドもかなり落ち込んでいた。
「ところで、ロイド。そいつらは、お前の知り合いか 」
ゼオンは、一緒に来たエルフ族を指して、ロイドに問いかけた。知り合いならば、何らかの知見を借りられはしないか、少しばかり期待をしていた。
「こちらは、クロス・ヴァリリアさんです! 」
聞いたことがある名前だと感じたが、直ぐに思い出した。伝説のチャンピオン。ヴァリリアという、家名が同じではないか。もう一人の男は、ルボール・ヴァリリア。女は、ローレット・ヴァリリア。三兄妹だと、ロイドが教えてくれた。
「父の記録に差し迫った彼に、興味を持ちまして」
試合会場を出るときに、ロイドを見かけて、声をかけたようだ。こんな形で、趣味が役に立つこともあるものなのか。ゼオンは、運命とは数奇なものだと感じた。
「これは……。闇の呪いですね。数年前、我が国でも、この様な呪印が手に現れて、死に至った者がいました……」
ダリアの手の甲には、何やら紋様が浮かび上がっていた。クロスの言うことに、多少なりとも信憑性が増す。では、どうすればよいのか。聞いてはみるが、明確な解答は得られなかった。
「王都の宮廷魔術師なら、何かしらわかるかもしれません。ただ、人間に馴れ合うのことを、嫌う人達も多く……」
魔術の技量、魔力の強さを至上とする種族。中には、人間を見下す者もいるのであろう。一筋縄では行かない可能性もありそうだ。ただ、一筋の光明であることに変わりはない。
「うっ……」
その時、ダリアの意識が戻った。気を失っていただけらしい。変わった様子はないが、注意しなければならない。紋様のことは、後で説明することにし、とりあえず休むよう、
「モルベガ王国に、案内してくれ」
ゼオンは、断られるとは思ったが、押し切るつもりで頼んでいた。
「いいですよ」
拍子抜けする返事だが、道が開けた。ならば、突き進むまで。ゼオンは、エルフ族の強者とも会えるかもしれないと、期待していた。ただし、まずはダリアを救う。優先事項だ。
バチン!大きな音が、響く。良くやった、と言わんばかりに、ゼオンはロイドの背中を叩いていた。数秒後ゼオンは、ロイドの絶叫が王都に響き渡った様な気がした。
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