【18幕】継続は畏怖すべき力の結晶

 目の前にいるのは、。最早、面影すらない。どう動いてくるか、警戒しながら、間合いを詰める。ふと思い出すのは、カリフの講義で聞いた、伝承であった。


 異形のモノが現れ、破壊を繰り返す。魔獣とは、また別な存在。元は、人間であった。そう記されていると、聞いたことが頭をよぎる。目の前にいるモノも、伝承と同じモノかもしれない。


「倒れていた連中には何をした? 」


「あぁ、アレですか。魔力を頂きましたが? 私を殺そうとしてきたので、返り討ちにしてさしあげましたが。チームの連中は、いただきましたよ。クククッ」

 

 チップの生命が、狙われる理由はわからない。王都でも有名な実力者が三人で襲ってきているが、それでも簡単に倒している。力を得たと言うのは、本当であろう。『肉体ごと』というのは、吸収したということか。あの腕や顔は、同じチームの人間だというのか。ゼオンは、にわかに信じられなかった。


「さあ、私が手に入れた力を、見せてさしあげましょう! 」


 話し終わるや否や、間合いを詰め、ゼオンに向かって突進してきた。避ける瞬間、ゼオンは片腕を掴まれ引き寄せられる。振り払おうとした、片側の腕もつかまれた。次の瞬間、ゼオンは腹部に衝撃を覚え、後ろに飛ばされていた。チップの四つの拳が、腹部に命中していたからだ。


火炎矢フレイムアロー! 」

暴風シュトゥルムヴィント! 」

雷光弾サンダーボルト!! 」


 起き上がる瞬間、放たれた魔術。三つの口が、同時に詠唱している。ゼオンは、既視感を感じながら、全てを弾く。取り込んだというのは、魔力の感じからすると……。墜ちるとこまで、堕ちたな。ゼオンは、奥歯を噛み締めていた。


黒焔轟雷クリムゾンブリッツ! 」


 黒い焔の柱が大地から無数に吹き出し、空からは無数の稲妻が降りそそぐ。ゼオンは、一帯を焦土と化すつもりで、魔術を放つ。くすぶる煙の中から、無傷で立っているモノか見えた。


「なかなかやりますね。だが、防げないわけではなさそうですね」


 結界障壁魔術であろう。二重、三重ともなれば、防げるのか。技量と魔力は、あがった。それは所詮、急造の力。ゼオンにとっては、恐るに足りない力だ。継続で得た力。地道に得た力。ゼオンが手強いと感じるのは、そういう力だ。


「手も足も出ないようですね! クヒックヒックヒッ! 」

 

 チップがこちらに向かい、駆け寄ってくる。気持ちの悪い、笑い声と共に。ゼオンは身構え、苛立つ心を鎮めていた。


九蛇くじゃ連葬!! 」


 ゼオンの目の前に、チップの拳が迫る。拳をさばき、反撃カウンターを入れようとしたが、ゼオンは瞬時に上体を反らした。チップの口から、魔力弾が放たれたからだ。


「魔闘技参ノ型、金剛闘神!! 」


 ゼオンは、態勢を立て直すと同時に、体内の魔力を、筋肉に流し込む。圧縮するイメージで、身体の硬度を高めた。そして、チップの腹部を標的に意識し、拳を脇に引き付ける。


「穿つ、氷神姫ひょうしんきの剛拳!! 」


 絶対零度に近い、凍てつく魔力をまとわせた拳。最高硬度に近い、堅固な拳。ゼオンの突きは、チップの上半身の半分を、えぐっていた。


「グッギャャィッッ!! ヨグモオォ!!」


 チップの雄叫びが止む瞬間、身体が再生していくのが分かる。ゼオンは、どうしたものかと、一瞬悩んでしまう。再生が及ばぬ速さで、再生ができぬ破壊を。ゼオンは再度、集中する。


「魔闘技複合ノ型、終焉ノ魔神!! 」


 ゼオンは、大きく息を吸い込み、勢いよく吐き出す。魔力を体内外に巡らせる。身体の硬度、身体能力は高まる。さらに、溢れる魔力の圧が大地を削る。ゼオンの肌は金色に輝き、髪は深紅にそまり風になびいている。ゼオンは魔闘技を三つ、同時に使用した。


 一気に終わらせる。ゼオンは、チップとの間合いを一瞬で詰める。指を揃え手刀を作り、チップの目の前に立つやいなや、両手を振り下ろす。腕が地面に落ちる音がした。落ちてしばらくすると、ゼオンの魔力圧で、腕は粉々になって消えた。


「グッギャャィッッ!! ギャァァァ!! 」


 チップの悲鳴が響くが、ゼオンは攻撃の手を緩めない。拳を握り、顔面と腹部を同時に突く。両手もろて突きが決まると、チップの身体が、くの字にまがる。さらに、頭部に肘打ちエンピを入れる。 


「穿つ、氷神姫ひょうしんきの剛拳!!」

すさぶ、黒風神の蹴撃!! 」


 ゼオンは潜り込む。無酸素、無呼吸の深淵の世界へ。深淵の世界にいる間、連撃は続く。フッと息を吸い、すぐさま潜り込む。止まることを知らない怒涛の突き。止むことのない蹴りの嵐。ゼオンの怒りが、現れていた。ゼオンは仕上げに、チップを上空へ蹴上げた。


「終焉を呼ぶ、魔神の咆哮!! 」


 闇に呑まれた、貴様が悪い。ゼオンはチップに照準を合わせ、全力の魔力を放った。上空のチップは再生することなく、消えていく。ちり一つ残すことなく……断末魔の叫びを残して。


 人の心を喰らう、闇。アレイオーン達の故郷を破壊したモノ。点と点。いつかは、線で繋がり、何をすべきか分かるのであろうか。


 ゼオンは、考えながらも、ダリア達のことが気になった。試合会場に戻らねば。ゼオンは、試合会場に向かった。

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