【15幕】怒りは行動の原動力

「さあ! いよいよ始まりました、『女王クイーン騎士ナイト王都星祭り記念大会』! 司会は、私、ロッシーニ! よろしくお願いいたしますっ! 」


 会場に、聞き覚えのある声が響き渡る。音声は、魔術で拡声されている。ゼオン達は、チーム紹介と同時に、ゲートから出るよう指示されていた。まだかまだかと、扉が開くのを待っていた。


「お待たせいたしました! それでは、各ゲートより選手の入場です! 」


 第一ゲートより、出場チームが順次紹介されていく。溢れんばかりの拍手と、盛大な声援が、地響きに変わる。応援団がいるチームも、何チームかあるようだ。ゼオン達は、順番決めのクジで見事、最後を引き当てていた。待ち時間は長いが、残り物には福がある

位だ。悪くはないだろう。


「まずは、三連覇中の王者チャンピオン! 王者の参加しない大会に意味はない! 勝利したから王者なのではない! 王者だから勝利するんだ! ――デルタディアブロ!! 」

 

 昨年度の王者。人気もさることながら、実力も折り紙つき。今年の優勝候補らしい。


「『ゲフィオン』からの参戦だ! 馬と共に起き、馬と共に寝る。毎日が闘い! 最早、己の脚!――クリッパークルーズ」


 『ゲフィオン』と聞いて、ゼオンは嫌な記憶が蘇る。ここで会ったが百年目。やられた分は、キッチリ返させてもらう。ゼオンは、標的に定めていた。


王立魔術研究府 アカデミア獅子の鬣と、双璧をなす魔術研究府! ドドリーマ州立魔術研究府獅子の牙から、参戦だ! 才色兼備な女性チーム!――ニノフライヤー」


 王立魔術研究府 アカデミア獅子の鬣と、姉妹校の関係らしい。西の鬣、東の牙と呼ばれている。ゼオンは、王立魔術研究府 アカデミアに入って、そのことを知った。


「王都冒険者ギルド、期待の新人が参戦! 出身は、王都五大貴族! 全てを覆す! 全てを飲み込む! この力を見るが良い! ――メダリオン」


 試験で絡んできた、ポテト三人衆トリオ。チップは、馬の一件に絡んでいるはずだと、ゼオンは考えている。こいつらも、どこかで直接つぶさないと気がすまない。


「こちらも、王立魔術研究府 アカデミア獅子の鬣から参戦だ! 天が! 地が! 倒れた仲間が俺たちを呼ぶ! 愛と平和の守護闘士! ――クリニエールレーヴェ」


 ゼオンは、心臓が止まるのではないか、それ位の衝撃を受けた。トラジェを見ると、満面の笑みだ。これがサプライズなのか。トラジェが言うには、仲間が増えれば、勝率も上がる。カリフ、マルス、レイニアの三人が参加しているようだ。


 ズルい気もするが、優先はカリフへの贖罪だ。ここは、我慢するかと、ゼオンは耐えた。ただ、耐えられなかったのは、ゼオンが着るはずであった衣装を、着ていることだ。羨ましい。ただ、その一言に尽きる。


「王都冒険者ギルドで、こいつらを知らなければ、モグリに等しい! 請け負った依頼は、全てこなす! 王都の仕事人!――ベレットファントム」


 トラジェが言うには、王都で活躍する冒険者のグループだ。裏の仕事もこなすという、黒い噂もある。 


「三年連続、準優勝! 今年こそは、王座を奪う! 修練を重ね、ここにいる! ――ノアビスケイン」

 

 デルタディアブロに負けてはいるが、平時の試合では、同等の実力らしい。注意が必要なチームであることには、かわりない。


「友好国! エルフの国、モルベガより参戦! 百戦錬磨の技巧派集団! ――スカイスコーピオ」


 エルフ族……。ゼオンの、かつての配下にもいた。魔術に長け、長命。長い時間を、訓練に費やすことも可能だ。であるならば、人間の何倍もの時間を、修練に充てがっているはずだ。


「王都の華麗な聖歌隊! 天使の歌声! 癒やしの音色! 大会に華を添えるのは、私達の役目! 王都聖歌隊OST11、センターを任される三名が参戦!――メトロマイア」


 一度、ロイドと見たことがあるが、可憐な容姿に、透き通る声。十一名からなる、王都の人気女性集団だ。ダリアを見ると、拳を握りしめている。以前、聖歌隊に入ろうとしたが、音程が取れず、門前払いだったらしい。と、口元が動いている。ゼオンは、見てはならぬものを、見てしまった。


「『王立魔術研究府 アカデミア獅子の鬣』からの参戦だ! ある時は、王立魔術研究府 アカデミアの可憐な華! ある時は、王都を魅了する艷容えんような月! その正体は、誰だ! ダリアだ! 二人の従者を引き連れて、大会に華を咲かせに来た! ――トラダリオン!」


 ゼオンは、トラジェを見る。トラジェは、首を振って、見返してくる。『諦めろ』と、滲んだ瞳が訴えかける。しかし、ダリアの目立ちたがり屋な一面には、驚かされる。きっと、王都聖歌隊OST11の参戦を知って、血が騒いだのだろう。


 怒りという感情は、時に、行動の原動力となる。ただ、怒りに囚われてしまうと、何も得られなくなる。闘いに必要なのは、冷静さ。感情を操作することも、勝利に必要不可欠な技術であろう。


「行くぞ、アレイオーン! 」


「御意。共に暴れさせていただきますぞ」


 ゼオンは、呼吸を整え、目を閉じる。ゲートが開くと共に、一歩を踏み出し、未来へと進む。楽しい時間が幕を上げた。

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