【11幕】最善は最悪の裏返し
「本当にすみませんでした! 」
ゼオンは、ロイドに事の顛末を伝え、如何に面倒であったことか。ロイドが謝罪して来たので交換条件を出す。
「飯は奢らないぞ」
ゼオンは、ついてるなと感じていた。笑いを噛み殺して、ロイドとの約束を解消した。
「なかなかの惨劇よね。貴方達、いつもあんなことしてるの? 」
ゼオンは、毎回ではないと全力で首を横に振り否定した。
「まあ、色々聞きたいことがあるっすけど。次の機会にするっす。そろそろ、制限時間になるころなんで、集合場所に行くっすよ」
ゼオンはカリフの言葉に、もうそんな時間かと、あたりが暗くなるのを見てようやく気がついた。
「これを持って行くっす。さっきの点数札っす」
カリフが燃えた点数札の代わりをくれた。ゼオンは、助かったと安堵した。
会場に戻ると試験官を中心に、受験生が周りに広がっていた。中心には、カリフもいる。
「諸君! お疲れ様! これにて、2次試験を終了する! 」
マルスが周りを見渡しながら、宣言する。残っているのは、ゼオン達を含め5組であった。
「最終試験は、明日行う。各自、今日の疲れを取れよ! 尚、最終試験は面接と簡単な筆記試験だ! 」
疲れのせいもあって、静まりかえったままであった。本当に簡単なのか?疑いたくもなると、ゼオンは感じていた。そもそも筆記試験など、生まれてこの方やったことは無いので、自信など皆無に等しい。
何とかなるであろう。あまり悩んでいても仕方がない。ゼオンは、腹を括るまでだなと考え、宿舎に戻ることにした。
翌朝、食堂で朝食をとっていると、マルス達試験官がやって来た。
「試験は、宿舎にある室内訓練場にて行う。食事を終えたものから、試験に迎え! 」
ゼオンはカリフと目が合った。カリフもこちらに気が付いた様で、歩みよってくる。
「おはようっす! 」
「うぉゔぁおお」
「ゼオンさん、口に食べ物を入れたまま喋るのは品がなさすぎですよ」
ゼオンは、口にした食べ物を一気に飲み込んだ。
「おはよう! 」
調度良いところにカリフが来たな。少し探りをいれるかとゼオンは考えた。
「なぁ、カリフ。筆記試験って難しいのか? 」
「君達なら、大丈夫っすよ! 」
カリフは、笑いながら食堂を出て行く。随分、あっさりと言うな。ゼオンは食堂を後にするカリフの背中を見ていた。
「この封筒に入った問題を良く読んで、解答を記入してください。提出後は面接となります」
室内訓練場の入口に着くと、試験官に説明された。封筒を受け取り、席に着く。ゼオンは緊張しながら封筒を開いた。問題用紙を見てゼオンは目を見開いた。本当にこれが、最終試験の問題なのか。
問題用紙に記載されている以上、答えを書くしかない。ゼオンは記入を終え、試験官に提出する。
「それでは、面接室に向かってください」
試験官に部屋の場所を説明され、ゼオンは移動する。部屋に到着すると、試験官が三人、長机に並んで座っていた。マルスとカリフ、見知った顔がいた。もう一人は、初めて見る顔だ。
「ゼオン君、そこに座るっす」
カリフに、机の前に置かれた椅子に座るよう促された。とりあえず、ゼオンは椅子に腰をかける。
「では、面接を始めるっすか」
カリフが口を開くと同時に、ゼオンは質問していた。
「簡単な試験と言ってはいたが、あれは本当に試験なのか? また、不合格者を出す為の仕掛けか」
「確かに、仕掛けはあるっす」
試験官達が、笑っている。ゼオンは、状況が理解できない。
「本当は、一次試験でやる予定だったんす」
「こいつが担当なのに、準備を忘れていてだな。順番が逆になってしまった」
マルスがカリフの肩を叩きながら、事情を説明した。ゼオンは、カリフであればあり得なくもないなと感じていた。
「なるほど。あんたなら、納得だ」
一次試験で行う筆記試験。問題用紙に、名前と受験する意思表示を記入するだけ。それだけの試験だ。
「最終試験にたどり着く受験生にやっても意味が無いっす」
カリフは、肩を落とし呟いている。隠し魔力文字。一定の魔力に反応し、文字が浮び上がる。緻密な制御を組込めば、機密文書など密書として使用できる。今回は、単純な魔力測定。最低限のレベルがあるか見極める試験、になるはずだった。
「あんた、本当に教授なのか……」
ゼオンは、騙されているのではと疑ってしまう。
「本当、ごめんなさいね」
今まで黙っていた試験官が口を開く。
「私は、レイニア・ラビィータ。面接を担当する教授の一人よ」
カリフと同年代の教授だろうか。話かけてきた女性は、カリフとは違う整然とした印象をゼオンに与えた。
「ゼオン君、筆記試験は合格ね」
その言葉に、ゼオンは安堵した。試験で失敗しようものなら、ロイドにどれほどこけにされることか。
「そうか。それで、面接とは何をするんだ」
ただの世間話で終わるのであれば、楽なのだが。ゼオンは、少しばかり期待していた。
「ゼオン君、あなたは
レイニアが静かに質問を投げかけてくる。その瞳はゼオンを確りと見つめている。品定めをする様な、深く突き刺す様な視線だ。
「世界の歴史、それを知りたい。
歴史を知りたいというのは、ゼオンが感じる違和感の正体を判明させるためだ。
「なるほど、世界の歴史かぁ。何の為かしら? 」
質問に意図があるのか、ただの疑問か。ゼオンは、勘繰っても仕方がないと感じていた。
「俺の為だ。俺の知っている歴史が、正しいのか、知りたいだけだ」
もう一つの理由。これは話をしても仕方がないと、ゼオンは感じていた。友との約束を果たす。説明したところで伝わらないのだろう。
「ふむ。歴史か……。考古学の研究室が適切じゃないか? 」
「マルスさん、確かに適切ですね。人員にも空きがありますし」
マルスとレイニアが何やら話を進めている。
「えっ? 生徒に空きはないっすよ! 多分、いや、絶対ないっす! 」
カリフが頭を抱え、目を潤ませながら否定している。ゼオンは、堪らず質問をした。
「さっきから、何の面接なんだ? 」
「いや、すまんすまん。この面接はだな、君の所属する研究室をどこにするか、適切な場所を決めるためのものなんだ」
マルスの説明に、ゼオンは合点がいった。なるほど、歴史は考古学で紐解く。そして、教授がカリフと言うことか。ゼオンは、面白いと叫びそうになった。
「是非、考古学研究室に入らせてもらいたい。よろしく頼む、カリフ教授! 」
ゼオンはニヤリと笑って、カリフを見つめた。
「決まりだな」
「ええ、決定ね」
マルスとレイニアが、書類に書き込んでいた。
「おめでとう! ゼオン君! これで君も、
マルスとレイニアが立ち上がり、拍手をしている。
「人生、最悪の日じゃないっすかぁっ!! 」
ゼオンがカリフを見ると、頭を抱え叫び声をあげながら倒れこんでいく瞬間であった。袖触れ合うも他生の縁。しばらく、よろしく頼む。ゼオンは、カリフに歩み寄り、肩を軽く叩いた。
誰かの幸せは、誰かの不幸せ。何かの最善は、何かの最悪。表裏一体の時もある。
新しい扉が開けた今は、ゼオンにとっては幸せになるのだろう。カリフには悪いが。
明日からの生活が楽しみだ。久方ぶりに胸が弾む音が聞こえた。
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