【3幕】契約は人生を縛る鎖

 「今年の試験は三人一組で行う。今着席している三人一組の席で一つのチームとして、試験終了まで行動を共にしてもらう」


 試験監督者が説明を始めた。会場は一気に静まり返り、全員が次に発する言葉に耳を傾けていた。ゼオンはとりあえずロイドに任せ、後で説明を要約してもらえばいいと上の空で聞いていた。


「三人の選定は無作為抽出だ。全員が優秀な場合もあれば、その逆もしかり。一人の優秀な者が全員を合格に導いても良し。力を合わせ難局を越えるも良し。ただし一人でもリタイヤした場合、全員不合格となる」


 会場が一瞬ザワつく。


「そして承知の通り、不合格者は今後……一切の受験は認めない」


 会場のザワつきは、さらに大きくなる。心に痛みを与える一言だなとゼオンは感じた。自分の実力に自信がある者でも残り二人の実力が分からない中、試験に望む意志を保つのは容易ではないはずだ。


 周りを見渡すと、平然と構える者もいれば天を仰ぐ者もいた。ゼオンはロイドと同じ組になったことを不思議に感じたが、たまたまそういう偶然もあるのだろうとあまり考えないようにした。


「これから、各チームに実技会場に向かってもらう。道中が起こることもある。この道は魔獣等が出没する可能性がある。だが、安心して欲しい。試験補佐官が君等を援護する。ただし、援護対象者は実力不足とみなし不合格となる」


 魔獣を倒しながら不測の事態を対処し、目的地に進めということらしい。魔獣は野生動物が魔素を吸収した変異種で、通常の動物以上の力や知能を持つ。


 一人で倒せる技量があれば高ランクの冒険者と遜色はない。ゼオンは、無茶振りに近い試験だと印象を受けた。ゼオンには無関係ではあるが。


「会場は北に約20km進んだバチギラ高原。時間制限は日没までとする。移動手段は不問。他の受験者への妨害は認めない」


 かなりの距離ではあるが、無理ではない。日没までは9〜10時間位であろうとゼオンは考えていた。


「無理です。歩けませんよそんなに。何なんですか」


 隣のロイドを見ると、既に倒れそうな顔で独り言を何度も繰り返していた。聞いてか聞かずか分からないが、ダリアが話かけてきた。


「私の馬車で行きませんか? 王都まで来るのに乗って来た馬車が宿にあるから。日没までには十分じゃないかしら」

「あっっりがとぅございまぁっっす!!」


 ゼオンより早く、ロイドが賛同とお礼の言葉を述べていた。ゼオンが横を向くと、ロイドはひざまずき神に祈りを捧げる姿勢であった。


「そこまで嫌だったか……」


 ゼオンは、ロイドが動くことが何より嫌いであることを思い出していた。ゼオンが身体の鍛錬を行うときに、ロイドは横で本を読みふけっている。



◇◇◇◇◇◇◇



 馬車は快調なペースで林道を進んで行った。御者を王都に残し、ダリアが手綱を握っている。新緑の葉が風に揺られ、心地良いリズムを刻む。


「もう半分位は進んだんじゃないか?」


 ゼオンが尋ねる。景色が変わらな過ぎて、どれくらい進んでいるのか分からない。


「そうね、それ位かしら。余裕もあるし、少し休みましょうか」

「そうですね。座り続けたせいか腰が痛くて辛いです。少し身体を動かしたいです」


 ゼオンも二人の提案に賛同した。暫く進むと、林道が開け空き地が広がる。ゼオン達は、木陰に馬車を停めて休憩を取り始めた。草むらに腰を下ろし、身体を伸ばしたり水分補給をするなどそれぞれ休んでいた。


「ゼオンさん、特に何も問題は無さそうですね。このまま無事に付くと良いですね」

「残念だが、問題がやって来たみたいだ」


 ゼオンはロイドの言葉に、眉を潜め返事をした。ゼオンは立ち上がり周りを見渡した。前方に人影が二つ目に入った。


「ロイド、あいつら試験官か」

「どうでしょう? 黒い礼服を着ていますね。試験官みたいですが、違うような……」


 ゼオンはロイドと互いに顔を見合わせ、首を傾げていた。少なくとも、他の受験者でないことは明らかだ。


 ゼオンがロイドと話ていると、前方の人影に動きがあった。初老近くの男と、二十代と思わしき女が近づいて来る。女の方は近づきながら、魔術の発動を行おうとしている。


堅牢なる鉄の檻アイロンケイジ


 ゼオンはロイドと二人、地中から現れた鉄の檻に閉じ込められていた。鳥籠の形状をしている。


「お前らは何だ?」


 ゼオンは不機嫌そうに問いかけた。いきなり檻に閉じ込めるとは、犯罪者扱いかと腹がたった。ダリアの様子も心配になり、視線を移し確認すると青ざめた表情で座りこんだままだった。


「貴方達に用はありません。ダリア様に用事がありまして。暫く邪魔されたくありませんので、失礼ですが隔離させて頂きました」


「勝手にしてくれ」


 ゼオンは初老の男に言い放ち、とりあえずは大人しくその場に座り待つことにした。


「ダリア様、諦め下さい」

「セバスチャン! どういう意味かしら? 諦めたら、もう二度と機会はないのよ」 

「次の会場に行けば分かりますゆえ。御主人様からの指示ですので」


 ダリアと、セバスチャンと呼ばれた男との会話をゼオンは静かに聞いていた。


「御主人様からの伝言です。『ヴァリエッタ家の一員たる者、王立魔術研究府 アカデミア獅子の鬣に入るのは当然。通年通りの試験に推挙を持って望め』で御座います」


「私は……私の力で実力を証明します。御父様の力には頼りません」


 ダリアが力強く叫ぶのを、ゼオンは静かに眺めていた。言葉には力と意志がしっかりと宿っている。


 蚊帳の外、いや籠の中なのか。ただ当事者間同士、ゼオンとは全く関係なく進む話に内心苛立ち始めていた。身内の騒動には、巻き込まれたくないものだ。



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お読み頂きまして、ありがとうございます。

長くなるので、区切りとなります。

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