第23話
紫色の炎を操る白髪の男、それが序列三位の天魔【
クオンの情報が正しかったということだろうか。偽の情報をつかまされたいわけじゃないが、かといって序列三位と対峙するはめになるのとどちらがましなのか……。
相手の正体を知って仲間のほとんどが及び腰になる。当然だろう。序列三位の天魔など、普通に考えれば人間がかなう相手じゃない。
「ほう、よく知っていたな。まあだからどうしたという話だが」
マドリックが腕を振り上げると、その動きにあわせて紫色の炎がまとわりつく。
「来るぞ! 散開!」
ミリアさんの声で仲間が回避に移る。
「遅いな」
笑みを浮かべながらマドリックの腕が振り下ろされる。その腕にまとっていた紫炎が渦を巻いて伸びた――その瞬間。
「
飛び出していたサーラが
「どこから出てきた!?」
まさか不意打ちを食らうとは思っていなかったらしく、マドリックの顔に驚愕が浮かんだ。
伸ばしかけた紫炎が消え去る。マドリック自身は身をひるがえしてサーラの一撃をかわしたが、想定外の回避行動に体勢が崩れた。
もちろんその隙を見逃すつもりはない。サーラに一歩遅れて飛び出していた僕も天則式を発動させてマドリックに迫る。
「ちょこざいな!」
迎撃することよりも距離を取ることを選んだのだろう。マドリックは僕の攻撃を避けて後方へ飛び退る。
「ミリアさん、今のうちに退いてください!」
「撤退!」
僕の声に迷わず撤退を号令するミリアさん。決断の早さはさすがだった。
僕とサーラのふたりなら逃げるくらいはどうとでもなる。
「ふっ……ふふふっ。なかなかどうして、人間の中にも面白いのがいるじゃないか」
愉快そうなマドリックに向けて、余裕をまとわせながら言い放つ。
「あんまり人間を甘く見ない方が良いよ」
「ほほう。挑発のつもりか? 人間ごときが序列三位の私に勝てるとでも思い上がったか?」
「勝てるさ」
天則式で身体を強化し、ひと息で距離を詰める。
「天則式・
「当たらぬ!」
繰り出した掌底が空を切る。動きにくそうなローブをまとっているわりには身のこなしが軽いが、それくらいなら想定内だ。
正直なところ一対一ならどうとでもできる自信はあった。加えて今の僕には心強い味方がいる。戦う度に強くなってきた、異常なまでに成長スピードの速い妹だ。
「たぁーっ!」
マドリックが体勢を立て直す隙を与えず、式装片手にサーラが脇から飛び込んできた。
その剣がマドリックのローブをわずかに切り裂く。
「いやはや、なるほど。あなどれん」
マドリックの紫炎が足もとから噴き出した。慌てて僕もサーラもその場を飛び退く。
「確かに、確かに。人間といえど油断で不覚をとるのは愚か者のすること。私は猪のイスタークとは違うのでな。退かせてもらおう」
そう言い残し、マドリックは後退して天魔たちの中へと消えていく。
「良いの、お兄ちゃん?」
「仲間の撤退時間が稼げたんだから十分だ。僕らも撤退するよ」
いくら僕とサーラのふたりでも、この先何体いるのかわからない天魔の集団に突っ込んで行くのはさすがに無謀だろう。一対一ならあのマドリックにも勝てるけど、上級の天魔が横から邪魔をしてこないとも限らない。ここは退けるうちに退くべきだ。
サーラもさすがに追撃は困難だと理解しているらしく、異を唱える事もない。周囲の天魔を蹴散らしながら、僕らはミリアさんたちの後を追って一旦前線都市の中へ戻り、内側の市街地を通って第二門へ支援に向かった。
援護の甲斐もあり、その日はなんとか天魔の攻勢を退けることに成功する。だが味方側の被害も大きい。被害者の数はたった一日の戦闘で百名を超え、負傷者に至っては全体の半数を超える。
しかもそれだけの被害を出したにもかかわらず、当初企図していた一般市民の脱出に失敗しているのだ。天魔の攻勢が予想以上に厳しかったため、予定の半分ほどしか脱出できなかったらしい。
この戦いで僕らの部隊にも一名の犠牲者が出ている。負傷者も重傷が一名と軽傷が八名、戦闘開始前に比べて二名分の戦力ダウンだ。まだまだ部隊としての戦闘能力は失っていないけど疲労は当然ある。次は今回以上に厳しい戦いになるだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます