第2話
かつてこの世界には
僕が生まれるずっと前のことだから直接知っているわけじゃないけど、それはこの世界において誰もが知っている常識だ。強大な力を持った部下を従え、物言わぬ天魔を手足として操り、人々を恐怖で支配した絶対的な支配者だったらしい。
だがその支配も永遠に続くことはなかった。百五十年ほど前、その圧政から人々を解放するべく勇者と呼ばれる強者が立ち上がり、長い戦いの末に天魔王を倒すことに成功したんだ。
ようやく圧制者の支配を逃れたと思った人類だったけど、そうして訪れた平和な日々も長くは続かなかった。天魔王の意志を継ぐ者として、かつて天魔王の配下であった天魔たちが次々と後継者を名乗り、人類の興した国家を侵略し始めたからだ。
天魔王の配下とはいえ人間にとってみれば強大な力を持っていることにかわりはない。不幸中の幸いだったのは天魔王の配下たちが互いに後継者の座を譲らず反目していたことだ。僕ら人類が天魔の支配を逃れられているのは、時には武力衝突にまで発展してしまうほど天魔たちの足並みがバラバラなおかげだった。
天魔の勢力は当然天魔王がいたころに比べて小規模であり、かろうじて人類はその生存圏を国々の連合と言う形で保持できている。
かろうじて。そう、かろうじてだ。
戦力差で言えば、人類全体の戦力をかき集めても天魔王配下の一勢力とようやく渡り合える程度というありさまなのだから。
危機を前にして人類は国の垣根を越えて結束。かつて天魔王討伐の立役者である勇者によりもたらされた技術【天則式】を武器に天魔へ抵抗し続けている。その最前線となっているのが僕らのいる第六前線都市だ。
人類の生存圏を守るようにして世界中に七つの城塞都市が存在していた。最前線を支えるその城塞都市は、何のひねりもなく前線都市と呼ばれている。七つあるから単純に一から七までの数を頭に付けて呼ばれているけど、そんなことをするのは戦略を考えるような上層部の人間だけで、一般市民や僕らみたいな末端の人間にとって他の前線都市など遠いどこかの存在だ。だから僕らの仲間は自分たちの所属する都市を単に【前線都市】とだけ呼んでいる。
前線都市には攻め寄せる天魔へ対抗するため、腕に覚えのある戦士や天則式者が人類領域から集まっていた。僕やサーラもそうしてやって来たひとりだ。
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