1911

 一日の仕事を終えると、清水は欠かさず愛銃である1911のメンテナンスを行う。一時間ほどかけてじっくりと。

 清水の1911は清水の母が制作したもので、スライドの肉抜き形状からマグウェルの形状、果てはハンマーとシアの噛み方に至るまで、内外装全てが完璧に調和するようデザインされている。

 清水もこのレベルを目指しているのだが、未だに同等のクオリティを出す事すら出来ていない。他人は気にしていないが。

 半分無意識に1911をクリーニングしていた清水はふと我に返り、最低限のカーボンを残した状態で1911を組み立てる。

 清水がこの1911を愛用する理由は、一つだけでは無い。過去に少なくとも一度、この1911は清水の命を救った事がある。現実味が無く、オーナーすらこの話を信じないが。

 六年前、清水がまだ小学五年生だった頃。清水の家、旧SMZ Firearmsに強盗が入り、清水の母は強盗犯のARで射殺された。

 自室で様子を伺っていた清水も遂に逃げ道は無いと悟り、一挺の銃を金庫から持ち出した。唯一操作方法を知っていた銃、母の1911。

 現場に到着した清水は、三発の発砲で強盗犯の右手、脚、内腿に風穴を開け、強盗犯は降伏するも失血死。数分後駆け付けた警察に受け渡された。

 この事件を知っている人物は清水と犯人、オーナーの他にもう一人だけ存在する。対銃器犯罪部隊AFCU幹部、長谷川 蓮である。

 約二十年前。治安の悪化により、銃犯罪を含む殺人事件の件数が急増。その影響で世論は変化し、武器の携行が合法化、銃規制も大幅に緩和された。

 銃規制の大幅緩和に伴って設立された、SATと銃器対策部隊の後身にあたる組織、AFCU。その幹部である彼は当時、真っ先に監視カメラの映像を確認した。強盗犯を迷わず射殺する清水の姿に才能を感じ、AFCUに所属させようと考えた。

 そこで長谷川が清水に提案した取引は、「清水がAFCUに所属するなら事件を隠蔽し、銃器関係の各種許可・免許の問題も何とかする」というもの。それを聞いた清水は、当然ながらその提案を呑んだ。

 その取引のせいで今、面倒臭いオーナーがSMZ Firearmsに来ているわけではあるが、今の仕事を投げ捨てる訳にもいかない清水には、どうする事もできなかった。

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