ジャケット

 日曜日。一週間ぶりの休日だが、清水の予定は既に埋まっている。上着の調達だ。

 まだ冬ではないが気温は下がり、SMZにはスポットクーラー以外の空調設備が無い。というか、それ以前に清水はロクな上着を持っていない。

「オーナー、車出せる?服屋まで」

「まかせろ、うちのタンドラならスペースシャトルも買える」

「エンジンはランクルと共通だろうに、型落ちだし」

「実績の差だよ、一回と〇回だぞ」


 数十分の移動の後、二人を乗せたタンドラが服屋に到着。本来はもっと近くにもあるのだが、そちらはタンドラが入る駐車場を備えていない。

「そういえば何買いに来たの?パンツ?靴下?」

「上着。上着が無いと流石に寒い」

「おぉ、どれ買う?黒のロングコートとか良くない?」

「これでどうやって戦えと?」

「全裸でこれ着て、銃だけ持っていくとか」

 ――オーナーは無視する。


 結局清水は実用性重視でポケットが大量に付いた綿のジャケットを購入してSMZに戻り、タグを外し、何となく手洗い。適当なハンガーに干し、「明日には着られるだろうか」などと考えながら家に帰る。

 清水が家に帰ると、玄関前にオーナーが待ち構えていた。清水は「今日も?いい加減自分の家で寝てよ」と言いながらもオーナーを家に入れる。

 オーナーによれば、今日はパスタを作りに来たらしい。恐らく「パスタ食わせたし、泊めてくれ」という話を通し、そのまま小遣いもいただくつもりなのだろう――そんな事を考えていると、食欲をそそる、濃厚なトマトの香りとともにナポリタンが出てきた。あのオーナーからは想像できない丁寧な盛り付けで。目的があれば話は別なのかもしれない。

 一口食べて「まぁ、美味しいな。ありがと」と伝えると、よく分からない表情のオーナーが抱きついて来た。清水は本能的に安心感を感じたが、恐らくこの後、寝床と金の話が始まる。

 五分後。予想に反して何も言ってこないオーナーを横目に見ながら、ぼーっとしてみたりもしたが、頭を撫でようとして来たので慌てて風呂に向かう。そういえばオーナーはそういう奴だった。

 オーナーが侵入してくる前にと早めに風呂を上がり、お気に入りのパジャマに着替える。そのままこっそりと二階の寝室兼自室に上がったものの、布団には既にオーナーが待ち構えていた。

 一つしかない布団と、相当な変態。観念してそのまま布団に入る。もはやオーナーに悪戯されない事を祈るしかあるまい。

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