第107話 私の退職準備
就職活動が終わった時点で、理事長には退職願を提出、理事会では「慰留は困難」ということで私の退職も決定した。何より心苦しいのは、長年私を信頼して、私の外来に通ってくれた方に、退職の報告と、今後のことをお話しすることであった。
入院施設があったからここに通院していた、という90代の収縮性心膜炎、うっ血性心不全をお持ちの女性の方は、
「家族から、すぐに入院できる病院がいい、と言われたので、先生には長い間お世話になったのですが、S-I病院に紹介状を書いてもらえますか」
とお願いされた。
「病棟を閉めてしまうことになり、本当に申し訳ないです。すみません。これまでの経過は詳しく紹介状に書いておくので、新しい先生にもきっちり見てもらえるよう、紹介状でお願いしておきます」
と言って、紹介状を作成した。
古くからのかかりつけの方には、源先生の外来にかかってもらうようお願いし、電子カルテには患者さんのサマリーをつけておいた(ただし、源先生がそれに目を通されるかどうかは不明だが)。
問題は、もともと源先生の外来にかかっておられたが、どうも源先生とそりが合わず、私の外来にこられるようになった方であった。その方々は源先生にお願いするわけにもいかず、病状に応じて、呼吸器内科的トラブルを抱えている方は呼吸器内科を標榜しているクリニックへ、消化器系の問題を抱えている方は消化器内科のクリニックへ、循環器内科的なトラブルを抱えている方は循環器内科を標榜しているクリニックへ紹介状を書いた。
後は、散らかった私の机と、本棚にたくさんある私の蔵書を片付けることだった。捨てることのできる書類はゴミ箱に、機密書類は箱に入れて封をした。事務部長に、私が退職したら、この箱は封を開けずに他の機密書類と一緒に処分してください、とお願いしておいた。蔵書については箱詰めし、小分けして自分の車に積んで、自宅に持って帰った。新しい職場に言ったら、開梱しようと思っていたが、自分の本棚がないので、書籍は今も箱に入ったまま私の自宅に置かれたままになっている。
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