第97話 babyちゃんから小さなladyへ
私が診療所に勤務し始めたころ、Lさん親子が受診された。娘さん(以下Lさん)は1歳だったと記憶している。我が家の次郎ちゃんより1歳年下だが、少しつり目なところと、薄い頭髪が次郎ちゃんを彷彿とさせ、すごく私の印象に残るお子さんだった。受診理由は発熱。お身体を診察し、特記すべき所見なくウイルス性の発熱と診断、投薬を行ない、速やかに落ち着かれたと記憶している。
Lさんママは時々、心窩部痛などの症状を訴えて受診され、投薬を行なっていた。
Lさんママのお母様(Lさん祖母)も診療所に受診されるようになった。Lさん祖母(60代後半)の保険証は隣の県の保険証で、当初は
「かかりつけ医に受診するまでの間の薬を処方してください」
との受診だったが、そのうち高血圧など基礎疾患の定期受診を受けられるようになったので、Lさんママは常にLさん祖母のサポートが必要な状態だったのだろうと考えた(Lさん祖母はお元気で、生活にサポートを要する状態ではなかったから、Lさん祖母をこちらに引き取った、とは考えにくかった)。Lさんのお父さんについては気配を感じなかった(Lさんの健康保険証はLさんママの扶養になっていた)ので、もしかしたらLさんママはシングルマザーだったのかもしれない。1歳のお子さんをお持ちで仮にシングルマザーであったとしたら、どのような事情があったのだろうか?その辺りは怖くて聞けなかった(本当は、家庭医療医としては家族歴の把握は大切なのだが)。
その後も、Lさんご家族三代は体調不良などがあれば、私の外来に来られるようになった。Lさんもあまり熱を出さなくなったのだろう。3年ぶりくらいに発熱で受診されたときは、髪の毛も長くなり、「女の子」という感じになっていた。我が家の次郎君も、3歳くらいまでは散髪に行かなくても済むくらいの髪の毛の量だったので、彼女が長い髪をしていたことにほっとした。
Lさんは、軽度だがアトピー素因を持っていて、両肘や両膝の屈側にわずかだが苔癬化を伴うアトピー様の湿疹が見られていた。Lさんママはステロイド外用薬には強い抵抗感を持っていて、「絶対にステロイド軟こうは塗らない」と仰られていた。医師の管理下に、必要な場合のみ適切にステロイド外用薬を使い、湿疹のコントロールをしていくのが大切だ、と何度か時間を取ってお話ししたが、そこについては同意されず、アトピー性皮膚炎に対してステロイド軟こうを使わない皮膚科を受診されている、と仰られていた。そのクリニックでの治療内容を伺ったが、ステロイド外用薬は使わないが、その他のことについては、それほどおかしな治療をしているようではない印象を持った(「ステロイドを使わないアトピー治療」をうたっている医療機関の中には、怪しげな治療を行なっているところもしばしば見かける)ので、
「では、アトピーについてはかかりつけの先生に治療をお願いしましょう」
とつたえ、湿疹については基本的に触らないこととした。
その後も体調不良時は、Lさんも、Lさんママも私の外来に来られていた。Lさんママから、
「Lちゃんは、お医者さんが嫌いなのですが、『保谷先生の診察には行く』というんです」
と伺った。総合内科医、プライマリケア医としてはとてもありがたい言葉である。
私が退職直前に、風邪を引いた、とのことでLさんが受診されたが、Lさんも10歳を超え、すっかり「小さなレディ」になっていた。やはりお医者さんは苦手だが、
「保谷先生の診察なら行く」
と言ってくれるそうだ。ありがたい。
彼女を診察し、処方を書きながら、初めて診察したときの、
「髪の毛が薄く、少しつり目で我が家の次男ちゃんにそっくりだった」ころのLさんを思い出し、
「大きくなって、ladyになってきたねぇ」
としみじみ思ったことを覚えている。
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