第95話 子供の黄疸

 ある冬の日、私が当直をしていたのだが、23時ころに

 「『子供が黄色い』ので受診したい」

 との電話がかかってきた。お子さんは6歳とのこと。黄色く見えるだけで、特に熱もなく、おなかを痛がったりもしていない、とのことだったので、

 「来てください」

 と伝えた。


 冬だし、ミカンの食べ過ぎとか、キャロットジュースの飲みすぎとか、いわゆる柑皮症かなぁ、と思いながら、患者さんの到着を待った。


 アメリカの有名な医師であるDr.サパイラの身体所見の教科書では、

 「黄疸を見るのに最も適した場所はどこですか?」

という質問がある。Dr.サパイラが医学生への授業でその質問をしたところ、

 「結膜だ」

 「手のひらだ」

などと議論が白熱したそうである。Dr.サパイラの答えは

 「太陽の下」

であったとのこと。


 時間が23時過ぎなので、太陽の下で診察するのは不可能だが、明るい診察室で診察することになっている。


 しばらくして患者さんが来院。お父さんと一緒に来られており、お父さんに話を聞くと、黄色いのに気付いたのはつい先ほどとのこと。ミカンやキャロットジュースをたくさん食べたり飲んだりはしていない、とのことだった。


 結膜を診察すると、明らかに鮮やかな黄色が確認できた。白いカンバスに黄色い絵の具を塗ったように鮮やかな黄色だった。結膜が黄色くなっており、柑皮症ではない。やはり黄疸である。


 ご本人はケロッとしており、緊急で紹介の適応ではないと判断。念のため採血も行なったが、肝酵素の上昇も認めなかった。ただし、この年齢で黄疸はおかしな話である。高次医療機関の小児科宛に黄疸精査加療目的で紹介状を作成、翌朝、同科への受診を勧め、帰宅とした。


 お父さん、お子さんのわずかな変化に気づいて本当に立派だと思った。


 小児科から返信が届き、血液検査では間接ビリルビンが高値であり、肝機能障害、胆道系酵素の上昇はないとのこと。体質性黄疸で、Gilbert症候群ではないか、との診断であった。


 小児の黄疸であれば、先天性胆道拡張症やウイルス肝炎を鑑別する必要があるが、無症状の体質性黄疸も鑑別にあげなければ、と驚いた次第である。



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