第83話 印象に残るご夫婦

 しばしば、男性でも女性でも使う名前、例えばまさみ(正美、正巳など)やきよみ(清美、清実、清巳など)などをお持ちの方がおられる。医療機関ではカルテの出し間違いが起きるため、同姓同名の方がおられる場合にはカルテに印をつけておき、その方には、必ず生年月日も確認し、カルテの出し間違いを起こさないように注意を払う。


 ある日、外来をしていると、診察室に回ってきた受付簿に二つ連続して同じ名前(漢字も同じ)が書いてあった。書き間違えかな、と思ったが、その横に生年月日が記載しており、生年月日が異なっていることから、同姓同名の方だとわかった。一つの診察時間枠に同姓同名の方がおられると非常に気を遣う。マイクで患者さんを呼び出し、生年月日を確認すると診察室に入ってこられた方とは異なる方の順番であった、ということがしばしばあるのである。


 「○○ ☆☆さん、診察室にお入りください」と患者さんを呼び込むと、お二人の方が入ってこられた。「○○ ☆☆さんですね」と確認すると、二人で同時に「はい!」と答えられる。その時点でお二人のカルテを並べて、あることに気づいた。片方は男性、片方は女性で、住所が同じなのである。「失礼ですが、ご夫婦ですか?」と聞くと、「そうなんです。夫婦で同じ名前なのです」とのこと。不思議な星のめぐりあわせである。恋する二人の名前が同じで、結婚して同姓同名となる。結婚前にはいろいろと考えられたことだろうと推測される。


 お二人とも古くからのかかりつけの方で、その日、初めて私の外来を受診されたので、私だけが驚いた次第であった。その後、しばらくはご夫婦で通院されていたが、ある日の診察で、奥様の腹部診察で腫瘤が触れ、腹部CTを確認すると腎腫瘍が疑われた。奥様に高次医療機関の泌尿器科宛の紹介状を作成し、受診予約をとって受診していただいた。腎腫瘍は手術が必要とのことで手術を受けられた。その後は奥様はそちらの病院にかかられるようになり、ご主人だけが私の外来に通院されるようになった。


 ご夫婦で同姓同名(漢字も同じ)なので、不便なこともあっただろうなぁ、と思い出した次第である。


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