第72話 施設の老朽化、経営固定費のスリム化

 診療所の旧館は、建設から40年近くたち、現在診察、入院で使用している新館も築20年以上となり(もう「新館」とも言えないが)、建物の老朽化に関わる問題もいろいろと発生するようになった。診療所の旧館はもともと土地、建物とも上野先生個人の所有であり、上野先生のご存命中は、トラブルについては上野先生ご自身が色々と対応されていたが、その後は、長男さんが相続されたため、診療所からそれなりに大きな金額を毎月家賃として支払っていた。しかし、旧館のトラブルは深刻なものが多く、天井やベランダからの水漏れ、エレベーターの交換、トイレの配管詰まりの問題などだった。建設当時、上野先生の意向で普通のコンクリート建築物よりも頑丈に作り、しかもトイレの配管はその頑丈な柱の中に走っているので、解決するにも莫大なお金がかかるようなものであった。

 法的には、建物の管理は家主の義務であるのだが、中々、家主が解決できる問題でもなかった。これについては、事務部と大家さんとなった上野先生の長男さんとの間で調整を行ない、いろいろと策を練られていたようであった。


 新館もとうとういろいろなところにガタが出始めた。一番の問題は空調であった。一つのフロアの空調が壊れてしまうと、いくら頑張っても数百万円の出費となる。また、栄養科の調理室の換気扇、冷凍庫、調理用の機器についてもトラブルが起きており、そのたびに百万円近くの出費がかかっていた。私は診療所運営のためのお金にかかわる規則には全く明るくないので何とも言えないのだが、どうしてあらかじめ、利益の中から高額な施設機器の交換用にお金をストックしていなかったのか不思議だった。空調については、結局経年劣化で、4年ほどで全館の空調機器を交換することになったが、内部留保から引き出すこととなり、財政的には大打撃であった。


 周囲に複数のクリニックが新規開業し、診療所に来られる患者さんが減ってきたので、どうしても、経営が厳しくなってきた。なので、事務課長、総務課長が頑張って、これまでの外注業者との殿様契約から、かなり引き締めた契約への見直しなどを行なってくれた。診療所のランニングコストは、その努力で、月に百万近いコスト削減ができたが、後述するように、午前の診察前に、私が外来のトイレ掃除をしなければならないことにもなった(笑)。自分の施設を大切に、来られる患者さんを快適に迎えるために経営陣が率先して汚れ仕事をすることは大切だと思っているが、他の病院で、医師(私)が率先してトイレ掃除を行なっている医療機関、そんなに多くはないだろうと思っている。

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