第73話 診療所の地域貢献

 地域に根差した診療所として、地域に貢献したいと個人的には考えていた。地域の自治会から、何らかの形で参加要請があれば、院内の会議では私は「積極的に参加」派であった。


 地域の防災訓練では、BLSの練習のお手伝いを、消防隊と一緒にさせてもらったり、地域の運動会では、簡単な健康相談コーナーを作ってほしい、という依頼に応えて、私が参加したこともあった。


 上野先生が亡くなられ、医師が少なくなるとどうしてもそのような催しに参加するときに留守番が必要になり、結局留守番が私のところに回ってくることがほとんどとなった。


 地域に顔を出したいのに、お留守番、というのはちょっと切ないと思っていた。


 のちに書くことになるが、診療所の患者さんたちの団体「万米ヶ岡共同診療所 健康の会」の活動として、医療講演会や栄養教室、高血圧教室などの講演会、各先生方で順番に講師をしていたが、講演会のテーマとして、疾患の話はもちろん、医療における有床診療所の存在意義や、子供や大人のワクチンの話、週刊誌の記事への反論など、いろいろと身近なテーマを探して、講演したことも覚えている。


 医療機関として地域に医療を供給することだけでなく、啓蒙活動や、地域の防災活動などにも参加し、地域の医療機関として親しみを感じてもらえるように頑張っていた。


 数年前の大阪北部地震、地震発生当時はもう私は出勤していたが、本棚が倒れるかと思うほどの地震だった。地震が治まり、すぐに入院中の患者さんの安全を看護師さんが確認。全員、特にけがをしたり、強い不安を訴える方はいなかった。電車が止まり、出勤中の職員の多くが電車で閉じ込められてしまったが、残っている職員で外来の準備を始め、通常通りの外来を開始した。  


 当診は「内科・小児科」であったが、地震後だったので、もし外傷の患者さんが来ても、ある程度までの外傷は対応しようと覚悟していた。一人、私の外来でワーファリンを使用中の方が、棚から落ちてきたもので頭をけがして出血した、とのことで来院された。意識は清明でしっかり歩いてこられ、神経学的な欠損はなかったので、頭部の挫創を洗浄し一針縫合し、止血した。けがをした、ということでそれなりに外傷の患者さんが来るかと思っていたが、その日、外来に受診された方はその一人だけだった。あまり皆さんけがなどはしなかったのだろうか。そうであれば本当に良かったと思った。

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