第46話 お別れは突然に…。
肺炎で入院された上野先生かかりつけの90代後半の男性、◇〇さん。肺炎は治癒したのだが、ずいぶん身体が衰弱してしまった。毎日の回診でも、徐々に「しんどいです」、「食欲がなくなってきました」と言われることが多くなってきた。
息子さんご夫婦と同居されており、息子さんご夫婦にも
「年齢的にもかなりの高齢で、病気は落ち着いているにもかかわらず衰弱が進んでいて、老衰の経過だと思います。いつ旅立たれてもおかしくないです」
と病状説明をしており、ご家族と相談し、点滴はしない、という方向で管理していた。
幼稚園児の太郎ちゃんが
「父とお出かけする~」
というので、とある日曜日、太郎ちゃんを連れて診療所に出勤した。たろちゃんとのお出かけではいつも、電車の先頭で景色を眺めながら出勤。病棟の患者さんを回診した。
◇〇さんも特に熱はなく、
「あんまり食欲はないですわ~」
と仰られ、あまり活気はなかったが、いつもと様子は変わらなかった。
病棟の患者さんは皆さん落ち着いており、カルテを書いて午前10時過ぎにはお仕事終了。
せっかくの日曜日、診療所の周りは歴史ある集落なので、仕事終わりに太郎ちゃんと少し集落を散歩していた。30分ほど散歩していただろうか、
「さぁ、たろちゃん、そろそろ帰ろうか」
と言って、駅の方に歩いていると診療所から電話。電話に出ると病棟から。
「先生、◇〇さんが亡くなられていました。すぐ来ていただけますか」
との緊急呼び出し。大急ぎで診療所に戻った。
10分ほどで診療所に戻ると。◇〇さんはベッドに横になっておられた。看護師さんに状況を聞くと、ベッド横のポータブルトイレに座っている状態で旅立たれていた、とのことだった。つい30分ほど前にお話ししたところだったのに…。
ご家族の到着を待ち、状況を説明した。
「朝の回診の時は、いつも通り、普通にお話ししておられました。それから30分ほど後に突然旅立たれました。おそらく寿命が来たんだと思います。苦しんだ表情はありませんでした。ご本人はすっと旅立たれたのだと思います」
ついさっき、お話ししたばかりなのに。人の命はわからないものである。
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