第40話 濃縮尿は2Lも出ません。

 とある月曜日、出勤してくると週末に「肺炎」との病名で、かかりつけの患者さんが入院されていた。土曜日の夜に、発熱を主訴に源先生の外来を受診、胸部レントゲン、CBC,CRPを検査され、胸部に陰影があり、CBC,CRPの上昇があるとのことで入院になったようである。


 午前診の始まる前に患者さんの病状を確認に向かう。ご本人は

 「熱のせいか、身体がしんどいです。痛いところはないです」

 とのこと。体温は37.8℃、血圧はショックバイタルではなく、SpO2は98%、結膜はやや黄色いような感じがするが、高齢の方は、なんとなく黄色く見えても、採血するとビリルビン値正常、ということがよくあるので、心の中では「ビミョー」と判断。皮膚はやや黄色いようにも見えるが、我々はほとんどが黄色人種であり、黄色く見える人でもビリルビン値正常のことが多く、また、普段の皮膚色を診ていないので、これまた「ビミョー」と判断。心音、呼吸音に異常なく、腹部触診では右季肋部に軽度の圧痛があった。Murphy兆候なく、Courvoisier兆候もなし。膝関節の腫脹熱感なく、下腿浮腫も認めなかった。入院時の胸部レントゲンを確認したが、「肺炎」と診断されるような陰影はなさそうに思った。日曜日のNs.カルテを見ると、濃縮尿が出ているので、当直医に輸液を増やしてもらった、と記載してあった。


 フォーリーカテーテルが挿入されており、尿量が測定されているが、ウロバッグに紅茶様の尿が、200mlほどたまっていた。

 「まだ、ウロバッグの尿、廃棄していないのかな?」

 と思いながら、カルテに所見を記載。抗生剤はCTRXが開始されており、「肺炎」と考えるなら、妥当な選択だろうと判断した。輸液量も80ml/h(一日2000ml相当)の晶質液が投与されており、

 「点滴多いと思うけど、濃縮尿だったら、脱水の補正は必要かなぁ」

 と考え、午前の診察のために外来に降りた。


 午前の診察が終わり、医局に戻る前に患者さんの診察に向かった。朝回診とご様子は変わらなかったが、ウロバッグには1000ml近い紅茶色の尿がたまっていた。

 「あれ~?濃縮尿って看護師さん言ってたけど、尿はしっかり出ているよなぁ」

 と思いながら、ナースステーションに戻った。病棟の看護師さんは、

 「患者さん、濃縮尿がたくさん出ています」

 と私に報告してきた。

 「濃縮尿がたくさん?意味が分からないなぁ?」

 と心で思いながら、Ns.カルテ記載を確認し、24時間の尿量を確認する。確認すると紅茶色の尿が2000ml近く出ていることが分かった。


 看護師さんに

 「濃縮尿が2Lも出るわけないよ。たぶんビリルビン尿だと思うから、検尿沈査と、院内至急の採血、緊急でお願いします」

 とお願いし、ささっとお昼を済ませ、結果を待った。尿沈渣は診療所では医師の仕事なので確認するが、赤血球、白血球は見られなかった。尿試験紙ではウロビリ(-)、潜血(-)、タンパク(-)、糖(-)、ケトン(-)だった。採血結果を見ると、GOT,GPTが3桁に上昇、白血球増多、CRP >7.0と炎症反応は高値だった。


 この方の年齢を考えると、腹痛は目立たなかったが、おそらく総胆管結石、急性胆管炎の可能性が高いと判断した。すぐに患者さんに説明、ご家族には電話で説明し、二次医療機関の消化器内科へ転送を依頼。近隣の高次医療機関に転院された。


 数日後、返信が届き、やはり診断は総胆管結石による急性胆管炎、緊急でESTを行ない、胆石も除去、その後は炎症反応、肝機能は改善している、とのことだった。


 「濃縮尿が2L⁉ それおかしいやん。濃縮尿が2Lも出るわけないやん」

 と私が気付かなければ、たぶん看護師さんはあまり疑問に思わず、Ns.カルテに

 「濃縮尿を2000ml排泄」

 と書いていたのだろうと思う。

 「おかしい」

 と気が付いて本当に良かった、と思った。と同時に、やはり入院のときは、最初に院内で可能な限りしっかり検査をしておくべきだ、と思った次第である。


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