第24話 生きづらいんだろうなぁ。
上野先生の人脈は広くて、特に学生運動世代なので、市民運動の人たちとのつながりも大きかった。とあるNPO法人の理事もされていたが、そのNPOでは、心を病んだり、いわゆる「一般の」社会生活に適応困難な人をサポートする活動をしていた。
サポートを受けていた人の一人がUさんだった。年齢は50代だっただろうか?一人暮らしの男性で、そのNPOの作業所などで働いたりしているのだが、どうしても人と接するのが苦手なようで、そこをお酒に逃げてしまう。そして、体調を崩しては、上野先生から
「Uさん、また体調を崩したようだから、入院させて」
と依頼が来ることがしばしばだった。
入院中のUさんは穏やかで、大声を挙げたり、人を威嚇することはしない。アルコールを止め、食事をとってもらうと徐々に元気を取り戻し、3週間ほどすると、入院生活も窮屈に感じてくるようで、ご自身から「退院したい」という方だった。
診療所では、禁煙外来も行なっているため、敷地内はすべて禁煙となっている。なので、診療所の敷地であれば、外の駐車場でも喫煙は禁止なのである。Uさんはタバコを吸われるが、敷地内禁煙を理解されていた。入院中も、どうしてもタバコが吸いたくなることがあるようで、その時には、わざわざ外に外出して、診療所から見えるところの電信柱で、小さくなってタバコを吸われていた。
心優しい人なのだろう。でも、心優しくても、ある程度の狡さ(頭の良さ、と言ってもいいかもしれない)がなければ、この人の世、生きていくのは難しい。傷つき、追いやられてしまうのみである。
私が診療所に来てからも、何度か入院され、上記のように退院されていた。しかし、年も取り、なかなかこれまでの生活が維持できなくなったのだろう。高齢者の施設に入所されることになり、診療所に入院されることはなくなった。
ちょっとした思い出話である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます