第13話 CTの使い方を覚えてください。

 診療所にはありがたいことに、型は古いがCTがあった。九田記念病院では医療機器は定期的に最新型のものを購入しており、ERで重症の方が来られた時、必要であれば、頭部、胸部、上下腹部の撮影がすぐに行なえた。撮影時間は数十秒、検査に行って、帰ってくる時間も10分もかからずであった。なので、CTの検査については、かかる時間はその程度が普通だと思っていた。


 とある日の外来で、患者さんの胸部、腹部のCT撮影が必要と判断し、指示を出したところ、看護師さんからストップがかかった。

 「先生、今から検査したら、1時間近くかかりますよ」

とのこと。

 「へっ?何で??」

 と訳が分からずレントゲン室へ。診療所には常勤の放射線技師さんがおらず、週に数日、非常勤で技師さん(第一線を引かれたとはいえ、本当に大御所の技師さん)が来られ、CTの検査を行なっていたのだが、ちょうどその日は技師さん(「技師の先生」、というのが正しいのだろう、というほど偉い方)がお見えの日だったので、診察の合間を見て、お話を聞きに行った。


 先生のお話では、CTの機械が旧型で、一度撮影するとX線管球が冷えるまで30分ほど時間がかかるので、その間は撮影ができない、とのことであった。確かに、X線を出すためには高電圧、大電流が必要で、管球がひどく発熱することはわかるのだが、それで、その後30分近く撮影ができない、というのは初めて聞き、とても驚いた。

 なので、前述の患者さんの場合は胸部CTを取った後、管球が冷えるのに30分、腹部も一度に撮影できるわけではなく、上腹部、下腹部に分けて撮影するので、上腹部を撮影した後、また30分管球が冷えるのを待ち、そして下腹部CTを取る、ということになるという話であった。九田記念病院では

 「管球が冷えるのを待つ」

 なんてことは聞いたことがなく、大変驚いたことを覚えている。その患者さんは急を要する患者さんだったので、すぐに転院してもらったのだが、とにかく、診療所のCTはそのような機械なので、それはそれなりに適切に使わなければならないなぁ、と思った。


 前述のように、放射線技師の方がおられる日は限られていて、不在の日にはCTが撮影できない。ということで、

 「保谷先生、いつでもCTを撮れるようにCTの操作方法を教えてもらってください」

 と源先生から依頼があった。技師の先生に機械の使い方を教えていただいたが、操作はパターン化され、比較的簡単に使えるように設定されており、決まりきったこと以外をするのはよく分からないのだが、とりあえず頭部、胸部、腹部については撮影のための機械の操作、身体のポジショニング、体表の確認すべき位置を教えていただき、撮影できるようになった。


 これで、技師の先生が不在の時もCT対応ができるようになった。それはずいぶんと役に立ったのである。撮影したCT写真は2週間に一度、放射線科の非常勤医師が読影に来てくださっていた。

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