ルーズ・オール・メモリー
私は特に適性がなかった為、アルターにはなれなかった。
だけれどもそれで良かったとも思っている。
アルター…それはエリート中のエリートで、ありとあらゆる分野に於いて結果を出すことを期待されてなるものだ。
結果を出し続ける能力を持っている為に、結果を出し続けることを期待され続ける存在。
そんな存在が不老不死という存在になるのだ。
私はふと思う。適性がなくて良かったと。
期待され続け、結果を出し続け、老いず死なずに在り続ける存在にならなくて良かったと。
だけれども、私はポッダーとしては人並み以上には適正があった。
ある程度記憶をリセットすればアルター適性者に比べれば劣るかも知れないが、不死性を獲得している存在である。それが私だ。
記録上私はそれなりに長い間、通常の動物的な肉体年齢の寿命を優に越す長い時間生きているという話だが。定期的に記憶をリセットし、新しく若い肉体に移し替えている身からするとその実感はない。
ただ、記憶をリセットした直後なのに、それまで蓄積した技術や知識だけが十全に使える状態であるという、何とも言えない自身の中の違和感というものを、今回のリセット直後だろう時に感じるくらいだ。
恐らく、今までリセットする度に過去の私もそれを感じていたのでは無いだろうか?
さてそんな私ではあるが今はとあるゲームを遊ぶ準備をしている最中である。遊びと同時に仕事でもあるが。
そのゲームはリアルオープンワールドタイプのゲームで、下位世界を創造しその世界で独自の理を発生させて、その理に基づいて様々なものを生成し遊ぶという物だ。
これは私のようなポッド処理を施されたもの向けの娯楽で、非常に面白い遊びである。
現実世界であるこの世界では現在アクセス出来ない世界の在り様にアクセス出来る下位世界で、プレイヤー…つまり私の意向を汲み取って私を愉しませることに特化した専用の世界で遊ぶ。
カスタマイズされたゲームである。
私はいつも使用しているポッダー用同個体マイセリウム通信網接続筐体に身を横たえ、首後ろに増設されたソケットに接続子が挿入されるのを待つ。
ソケットに挿入される感触を感じるとそのままいつものように接続を開始。
意識を同個体マイセリウム網に接続し、そこで再現されている仮想空間に存在する、私専用のスペースへと意識を移していく。
そして直ぐ様に、事前に発注していた通りに用意されている目の前のデータを、仮想空間上でのみ起動出来る状態でインストールを開始。
インストールは直ぐ様終わり、私はゲームを開始した。
ある程度の方向性は伝えていたが、イレギュラー性を愉しむ為に細かい所は完全にお任せにして下位世界を作って貰っているので、どんな世界で物語を楽しめるのか実に楽しみであった。
目の前に広がるのは宇宙。
一つの恒星と九つの惑星がぱっと見で確認出来る。
視覚的に認識しやすいように惑星の公転軌道が描かれている親切設計だ。
「ようこそプレイヤー様、お待ち致しておりました」
そこにはこの世界を創造した創造神が恭しく
「どうも、これからお世話になります」
「これからどういたしますか?」
創造神は今までこの世界を創造し管理してきたときと同様に、何も疑問を持たずに現れたプレイヤーたる彼に対応をしている。
「そうだね、事前に注文していた通りに古代サブカルの記憶喪失主人公による異世界転生物でスタートしてくれ」
「畏まりました。では、ただいまよりゲームを開始致します。
存分にお楽しみ下さいませ」
彼が事前にゲームクリエイターに注文した世界、それは人類種の母星、地球が存在していた恒星系の再現と、もしその世界に魔法があって、様々な種族が入り乱れていたらと言う物だった。
今目の前に存在する恒星系は太陽系であるが、それを模した上で異世界ファンタジーを愉しむ為に、様々な設定によって改変された世界であった。
さらに言えば、この太陽系だけが存在する限定された閉ざされた世界は、元の世界と比較して相対的に時間経過…、物の動きが速くなっている。
そんな世界に、全ての記憶を無くして彼は異世界に急に転生した物語の主人公として降り立つのであった。
ゲームクリエイターが用意したクリア条件を達して、元の記憶と統合されるその瞬間の感情のうねりがどれ程のものになるのかと、期待に胸を膨らませながら、彼は全ての記憶を失った。
創造神はプレイヤーが愉しむ為にこれまで通り世界に介入している。
古式ゆかしい古代サブカルで、異世界転移や転生を行う際に訪れる頻度の高い真白い空間。
そこにはこの世界を創造するようにゲームクリエイターに発注し、このゲームの主人公になるべくこの場所を訪れた彼の意識が存在した。
この世界の創造神は事前にプログラミングされた内容に沿い行動を恙なく進めていく。
記憶・技術・知識等をこの異世界ファンタジーな世界設定で過ごすに値するレベルまで抽出して低下。
抽出した各種情報は後にスキルとして活用出来る様に細分化し、システムに沿った形で命名。
本異世界ファンタジーを遊ぶに適当な領域へと到達。
現在の世界の状態とフィットするよう微調整。完了。
ゲーム開始。記録開始。放送開始。
同個体マイセリウム通信網に、この世界で生きていく彼の生き様が見れるようになった。
これを観る為には料金が発生する。
彼の今の職業は、RPGの主人公として生きる様を娯楽として提供すること。
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