自覚なき最初の神

 宇宙は彼等になった。

 この時に生まれたのは彼等それぞれを隔てる膜と、その膜を獲得することによってかたちとなった場。

 その容はそれぞれ違った形を持つことになる。その違った容故に彼等の間には間隙が発生した。

 彼等はそれぞれが宇宙を内包した世界と為り、その世界は膜を持つ。その世界間には宇宙…即ち空間が存在しない無の領域が世界間を隔てることになった。

 これにより、彼等は、世界同士は交流することが出来なくなる。若しくは著しく困難なものとなった。

 だが、彼等分かれた世界は元々は彼だった。

 因子は引き継がれやがて彼を意識出来るような存在が生まれる。

 美しき偏りは、引き寄せ合う、離れ合う。

 複雑怪奇な現象、行動のその先に。悠久の時の流れのその先に、それは生まれた。発生したと言った方が適切か。

 同個体存在。

 同じ個体から正しく分かれることによって、違う個体でありながら同じ存在…一つの意識下に置かれた存在。

 どれだけの距離が離れていようともそれは関係なく発揮される存在。

 同個体存在。

 その能力を発揮して発生することが出来たのは、何の因果か解らぬがとある惑星に自生していた菌類であった。

 そして、長い年月が過ぎゆく中でそれは意識を発露した。

 その意識を発露した後にコウマクノウキンと呼ばれる菌類はやがて高度に発達した科学技術を持つ、銀河間国家に達した文明と相まみえる。

 宇宙という広大な領域に展開しているこの銀河間国家は歓喜した。

 これを利用すれば距離を考えずに通信が行えると。

 コウマクノウキンは歓喜した。

 多くの場所へと自身の菌糸が送り込まれる未来を見た故に。


 コウマクネンキンは彼の星間国家に喜んで自らの身体を差し出し研究を行わせた。

 その結果、どれ程の距離が離れていようとも、タイムラグが発生せずに通信が行える通信網…インフラが整備された。


 コウマクノウキンの活用はそれだけに留まらなかった。

 コウマクノウキンを活用した巨大な演算装置の開発にも成功する。

 惑星一つ丸ごとに菌糸を伸ばし、それを利用した惑星サイズの演算装置。

 その様な惑星を幾つも用意する。

 銀河一つ分、二つ分…、宇宙に文明が入植していない銀河など数え切れない程あった、それらを活用して、銀河間演算装置コウマクノウキンが創り出された。

 嘗ての宇宙程ではないにしろ、それに近しい…現状では最も近しい存在の誕生であった。

 そうなった存在であったが故に彼は摩素を生み出せた。魔素を創り出せた。

 素晴しき素、不可思議な素。

 これが意識することにより発生すると生み出せるようになるとされた瞬間であった。

 世界の理が新たに発生した。

 理を発生させたことによりコウマクノウキンは全知全能により近くなり、零知零能により近くなった。


 コウマクノウキンは銀河間サイズの演算装置である。

 その本懐は計算する事、思考する事。

 思考するには、移動する何かが必要であった。

 摩素と魔素はその移動によって発生するようになる理が生み出された訳だ。

 それと同時に、摩素と魔素は思考する為の移動に利用されることになる。


 コウマクノウキンの演算能力はより高まっていった。

 コウマクノウキンの演算領域もより広がっていった。

 これは新たに銀河を惑星をコウマクノウキンの菌糸を送り込むことなく為されていく。


 どんどんとどんどんと、コウマクノウキンは全知全能零知零能へと近づいていく。

 だが、宇宙の因子が、時間経過の先で集約された存在であるコウマクノウキンではあるが、宇宙その物ではなかったコウマクノウキンは、宇宙とは違う結果を導き出した。

 それは、因子を持っていたが為にその結果を避けたのか、それはコウマクノウキンのみが知る所ではあるが、兎に角も、宇宙とは違った結果でコウマクノウキンは世界を新たに生み出した。

 自らを別けることなく…いや、別けたとしても自らで在り続けることが出来たとも表現出来るだろうか。

 自らの身の内に世界を幾つも幾つも生み出していった。

 その世界もまた摩素と魔素を発生させる。

 加速する摩素と魔素の発生。増え続ける世界。

 それら全てがコウマクノウキンの演算領域であった。


 自覚なく理を生み出し創世を為すに至った存在。


 これが自覚なき最初の神「コウマクノウキン」である。

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