第17話・似た者母子
それからしばらくわたしは悶々とした日々を送っていた。成実はあれからわたしには会いに来なかった。会いに来ないというよりは会えなくなった。と、言った方が正しいだろう。なぜなら彼は輝宗さまや政宗さまに同行して戦(いくさ)に行ってしまったから。小十郎も同行したので、わたしの周りは急に淋しくなった。わたしの部屋を訪れていた人達が戦場へと旅立ってしまったのだ。
伊達家は以前から相馬との間で小競り合いを繰り返していた。相馬氏は伊達家と姻戚関係にありながら、伊達家の所領に隙あらば侵攻して来て、幾つかの土地を奪っていた。
青葉曰く戦国の世は油断がならなかったようで、手に入れられると当てこんでいたものを横から掻っ攫われる事は日常茶飯事にあったらしい。そのせいかどうか分からないが、伊達家は近隣諸国の大名の動きも警戒しつつ、相馬と対峙していたようで、ようやく相馬氏に討って出る時期を迎えたらしかった。
輝宗さま主導のもと、ほとんどの武将たちが戦場へと繰り出し、現在城内は大変静かになっていた。
成実のことは気になるものの、彼への答えを見いだせないまま過ごしていたわたしのもとへ珍しい来客があった。部屋には客人とふたりきり。侍女たちは隣の部屋に控えている。わたしは祝言の時とも違う重苦しい緊張を強いられていた。
「愛姫。そう固くならずとも。あなたは政宗の嫁。わらわにとっては義理の娘です。なにも取って食いやしませんよ」
そう言いながらほほ笑む目の前の御仁は、仏さまのような美しい聖母の顔をして容赦がなかった。
「ただね、あなたがここに来てから早いもので半年が過ぎました。それなのにわらわのもとへ一度も顔を見せて下さらないなんて水臭いこと」
暇してるなら自分の所に顔出すくらい出来ただろう。と、夫の母親の義姫がなじって来た。もちろんわたしは嫁いで来てから姑の存在を無視していた訳ではない。
(わたしを拒んでたのはあなたじゃない?)
わたしも嫁として姑とは円滑な仲を築こうとしてたのにさ。何度か義姫のもとへ先ぶれの侍女を出してお伺いを立てていた。大名家の面倒くさいところは同じ屋根の下に住んでるのに、これから伺っても宜しいですか? と、相手の都合を聞くところだ。相手の都合が悪い場合は後日、日を改めなければならないなんて手間かかり過ぎ。
わたしも結婚当初は、まめに姑のもとにご機嫌伺いに侍女を通わせていた。だけどいつも気分が優れないと断られ続けていた。
わたしのお伺いは拒むくせに、そのわりに小十郎を呼び付けていたようで、ときどき彼が奥方さまに呼ばれていますので。と、わたしの側から離れる時があった。それも決まってわたしが姑にお伺いを立てた後にだ。
それなのにわたしが全然自分のもとに挨拶に来ないような言い方をして……この人性格悪いよねぇ。きっと気分が優れないって仮病だったんだな。美人だけど政宗同様、可愛くない姑だ。
「申しわけありません。お義母上さま。大変失礼致しました。何度かお義母さまのもとへお伺いの侍女を差し向けましたが、お義母さまは体調を崩されているとのことでしたので遠慮させて頂いておりました。ご挨拶が遅れましたこと大変申しわけなく思っております」
わたしはこの家では新参者だし仮とは言っても嫁の立場だからね、争い事はなるべく避けたい。ここは義姫を立てておくところだろうと思ったのにこの方はしつこかった。
「あらあなたは清顕さまに似てないのね? 不作法な奥方さまに似たのかしらね?」
義姫はじろりとわたしを見る。その目はわたしを格下と見下してる目だった。その態度は嫌でも政宗を思い出させ、わたしはさすが母子だな。と、ため息をついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます