第15話・俺と付き合わない?
虎哉宗乙に輝宗さまの書状を届けてから、あの爬虫類男が何日か置きに部屋を訪ねて来るようになった。わたしの顔を見る度に「息災か?」と、決まって訊ねて来る。
(見れば分かるだろう?)
他に言葉を知らないのかと思うくらいに政宗は言葉が足りない。つまらない。彼が笑顔一つ見せないので、わたしに興味が無い事はひしひしと伝わって来るし、別に無理してわたしのもとへ通って来なくてもいいんだけど。
政宗がわたしの部屋に来るのはおそらく義務だ。お供に決まって眼帯の者が付いて来てるからね。彼が背後から突っつくのも見えてるし、だらしないぞ政宗。
義務でも一応は彼はそれなりに頑張ってはいると思う。わたしの部屋を訪れる度に、菓子や花など持ってやって来るから。
でもね、嫌々部屋を訪れられてもわたしは全然、嬉しくないし楽しくもないよ。今も政宗さまの眉根には皺が寄ってる。早くここから出てゆきたいと物言わぬ身体が訴えてるの丸わかりです。
(もういいから。お願い。帰って)
わたしにとって政宗が部屋を訪れる日は拷問になって来ていた。だから言ってみた。
「政宗さまもお忙しいのでしょう? わたしへの気遣いは無用です。お菓子やお花ありがとうございました」
お礼を告げてやんわりと退出を促せば、政宗はああ。と、言いながら立ち上がり縁まで来ると、そこで待機していた成実と目が合い、ぎくりとした様子を見せた。
やはり成実にお膳立てされてるんだな。一連の流れが見て取れたわたしは成実に話があると言って彼をその場に残させ、足早に去ってゆく仮の夫をため息ついて見送った。そして成実を振りかえる。
「成実さま」
「どうした姫さん。俺のことは呼び捨てで良いぞ」
咎める様に見れば、苦笑が返ってきた。
「では成実。もう政宗さまはいいですから、無理にわたしの部屋に寄こそうとしないで下さい」
「なんで? あいつに会いたがってたんじゃないのか?」
「もういいです。あんな怖い顔して来られても迷惑ですから」
政宗はわたしの部屋に何度か足を運ぶようになっていたけど、一度も笑った事はない。そればかりかにこりともしない。
無愛想な人なのかと思えばそうでもないらしい。臣下たちにはそれなりに笑顔を向けているし、わたしの前でだけ愛想がなくなる。
こんな態度を取られていたら、嫌でも相手が自分と距離を取りたがっていると分かる。
「悪かったな。あいつに言っておく。もう少し姫さんに愛想良くしろって」
「もう止めて。いいの成実。政宗さまなんてどうでもいいの。あの人が来るとわたし気疲れする」
「愛姫はあいつのこと好きじゃないのか?」
「はあ? 全然好きじゃないです」
「へぇ、あいつのこと嫌いなんだ?」
「あ?」
政略結婚とはいえ、夫を嫌いだと公言しては行けなかったのかな? わたしは成実の顔を伺いつつ言った。
「あの、成実。この事は内緒にして?」
「いいけどただじゃ聞けないな」
「へ? どうしたらいいの?」
彼の眼帯の奥の瞳がきらりと輝いた気がした。わたしの前に彼が進み出る。わたしは咄嗟に後退りし背中に壁が当たるまで追いこまれていて、気がつけば彼が壁に手を付いていた。
(なっ、なにこれ? 壁ドン状態?)
成実の行動に目を白黒させていると、彼の顔が頬まで近付いて来た。
「姫さん、俺と付き合わない?」
「ええええええ?」
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