第14話・政宗さまには言わなくてもいいです
(ひょっとして……)
「まさか政宗さまはそのことを誤解されて?」
「ん?」
成実が不思議そうな顔をする。わたしは祝言の夜、政宗さまが不機嫌そうだったのは毒の事だけではなくて、きっとそのことを誰かに聞いて、わたしが身持ちの固くない女だと軽蔑したのかも知れない。
(ああ。それで?)
何となく納得した。彼の事は特に好きでも何でもないから別に良いけどね。だけど腹が立つわ。いくら政略結婚で気が無いからと言って、他人からの話だけで妻のわたしを疑うってどうなの?
「政宗さまって案外、肝が小さいんですね?」
「はあい?」
成実が和尚と視線を交わしあう。わたしはここぞとばかりに嫁いできてから政宗さまに対する不満をぶちまけた。
「無駄にキラキラしい男だと思っておりましたがあの男は最低ですわ。祝言の晩に一度顔を合わせたきりで、その後、訪れもないですし、ご機嫌伺いに来て下さるのは輝宗さまだけです。皆にはどこか疎遠にされて気まずいし、もうわたしここには居たくない。元の世界へ帰りたい……」
「あの、姫さん?」
「わたしそれに政宗さまにはどうでもいい女扱いされてるんです。部屋には滅多に来てくれないし、存在すら無視されてる」
「姫さん。そんなことないぞ。政宗は姫さんのこと大事にしてる」
「成実さま。慰めは良いです。政宗さまにとってわたしはお飾りの妻なんでしょうから。あのお顔ではきっと他に沢山、愛妾を囲っていらっしゃるのでしょう。そんな男性こちらからお断りですわ」
はっはっは。わたしの愚痴りを聞いて虎哉宗乙は笑った。
「政宗公も形なしですな」
「和尚」
「分かった、姫さん。俺でよかったら何でも聞いてやるから。政宗のことをそんなに悪く言ってくれるな」
なあ。と、成実はわたしの手を取った。
「成実さま?」
「そうです。愛姫さま。成実さまにたあんと政宗さまの悪口を言われるが宜しいぞ。そしたら良い事があるかも知れませんゆえ」
わたしはいまいち和尚が言う事が分からなかった。どうして成実に政宗さまの悪口を言えと勧めるのか?
政宗さまの従兄弟叔父に当たるから、彼から政宗さまに諌(いさ)めてもらえということ?
(いやいや。それはそれでちょっと困る)
「あの、成実さま? 別に政宗さまに告げて頂かなくともいいです」
「遠慮するな。姫さん。政宗について思う所があるなら相談にのる。そうだ。姫さんは離れにこもっていてはつまらないだろう? これからは遠乗りに連れ出してやろう」
「け。結構ですっ」
「そんな遠慮するなって。遠乗りはいいぞ。気分がスカッとする。俺の馬に乗せてやるから。なっ。機嫌直せよ」
「いやあ。いいってば!」
必死に拒むわたしと言い寄る成実を見て虎哉宗乙は笑いを漏らした。
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