第13話・暴露されていたようです


 成実の話では、その外部の者が怪しかった。と、いうことなのだろう。その話を聞きながら、わたしはゲームのイベントで政宗暗殺未遂事件があったのを思い出した。

 青葉が政宗さまをひでぇ奴と愚痴っていたのを思い出したのだ。政宗さまが暗殺されかけて激昂する気持ちは分かるけれど、そのせいで愛姫の乳母や、多くの侍女たちが死罪にされたのだから。


 愛姫も疑われていたが、ヒロインの梅が自分の仕える愛姫は無関係であると必死に取りなし、それに心打たれた政宗が愛姫の死罪を取り下げて離れに留め置くことにしたのだ。

 その裏では主人を思う心に討たれた小十郎と梅の間に淡い恋心が生まれ……といったストーリーになっていた気がする。


 青葉がこのゲームを夢中でやっている傍で聞き流していたはずなのに、頭に入っていたとは信じられない効果だな。歴女侮るがたしだ。

 でもゲームの内容と少しだけ齟齬が出て来ている。わたしがゲームに入り込んだせいなのか?

 乳母なんてわたしの側にいないし、成実の話では政宗暗殺未遂はあったが、侍女たちは愛姫の実家に返されている。死罪なんてなかった。


「でも梅がいますけど?」


 侍女を全員田村家に返したと聞いて不審に思って成実に言えば、彼は知らなかったのか? と、逆に聞き返して来た。


「梅はもともと伊達家の者だ。政宗さまと愛姫の婚儀の話が持ち上がってから、姫さんのお側付きの侍女として仕える為に田村家に送られた」

「成実さま。愛姫さまは落馬のショックでまだ一部の記憶が曖昧なのです」


 梅がとりなすように言って来る。記憶をなくすもなにもわたしは別の世界から来たから知らないんだけどね。しっかし梅にそんな設定があったとは知らなかったなぁ。青葉は知っていたんだろうか? 

 ヒロインは複雑な家庭事情があるとしか青葉は言ってなかった気がするんだけど?


「それで成実さまはわたしを疑っているのですか?」

「いいや。もともと疑ってなかったが、姫さんに会って確信した。姫さんは不器用みたいだからな。暗殺なんて器用なこと出来る人間じゃない」

「不器用って……」


 なんだか褒められてる気はしない。それでも今日会ったばかりの成実に、政宗さま暗殺には関わってないと信じてもらえた事は嬉しかった。


「小十郎から毎日、姫さんのことは色々と聞かされていた」

「小十郎は口が軽いんですね? わたしのことをどんな風にあなたに言ってるんですか?」


 小十郎がわたしのことを成実に毎日話してたなんて意外だった。成実の可笑しそうな表情からきっとわたしの失敗談とかに違いない。褒められるような話ではないんだろう。

 膨れるわたしを気遣ってか、成実は小十郎は口の軽い男ではないぞ。と、言って来る。


「小十郎はそなたの話は俺の前でしかしない。他の者は知らないことだ。でも祝言での話は何度聞いても可笑しかった」


(やっぱりか……)


「着物の裾をふんづけて転びそうになっていたとか、婚礼衣装の重みに押しつぶされそうになっていて動きがカチコチになっていたとか、宴で爺さんたちの長話に退屈してたのか欠伸を噛み殺していたとか、終いに足が痺れて……」

「うわああ。止めて。止めて。お願いだから」


 わたしはにやにやと笑う和尚と目があって恥かしくなった。自分の所業をこれ以上、暴露されてはかなわない。成実にそれ以上は言わないでと懇願した。


「それに小十郎に抱えあげられたそうだな? 宴に参加していた者が噂してたぞ。小十郎と仲が良すぎるのではないかと」

「あれは足が痺れて立てなくなったのを小十郎さまに助けてもらっただけです。特に意味はありません」

「まあ、そんなとこだろうと俺は思っていたけど」


 冷やかす様な成実の発言に、わたしは祝言の夜のことを振り返った。


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