第12話・祝言の日の真相
「おや。お珍しい。あなたさまもご一緒でしたか?」
気がつけばわたしは虎哉宗乙のもとへ、義父からの書状を提出する場に成実だけを伴っていた。ぼんやりしていて成実の袖を掴んだままになっていたらしい。慌てて袖を放すと成実にそのままで良かったのに。と、残念がるような素振りで言われ恥かしくなった。
小十郎と梅はこの場にいないが、どうやら控えの間で待機してる様だ。わたしの目の前で成実と虎哉宗乙は談笑を始めていた。
「久しぶりだな。和尚」
「ここのところはお忙しかったようですな。皆さま、特にお変わりはありませんか?」
「ああ。たいして変わらないな。政宗が毒を盛られたくらいで」
成実の言葉に聞き捨てならないものがあってわたしは言い寄った。
「政宗さまが毒を盛られたって? 大丈夫なの政宗さまは? それはいつのこと?」
「姫さんは心配してくれるのか? 政宗を?」
「当然でしょう。いくら政略結婚とはいえ、縁あって一緒になった御方だもの。気にはなるわよ」
わたしの言葉に成実はふうん。と、言い、わたしの反応を伺うように言う。
「あいつは婚礼の朝、食事に毒を盛られた」
「えっ。あの日? わたし政宗さまにお会いしたけど?」
祝言の晩、彼はわたしの部屋にやってきた。どこか不機嫌な感じは受けたが具合の悪い様子は見られなかった。
怪訝に思うわたしに成実が言った。
「幸い発見が早かったからな。命に別状はなかったぞ」
「そう。そんな事があっただなんて知らなかった。だから機嫌悪かったのかしら?」
例え相手に愛情は持てなくとも一応、わたしにとって彼は夫である。その政宗が命を狙われていただなんて知らなかったけれど、事後報告でも何者かが彼の命を狙っていたという事が気になった。
「でも一体だれが?」
「初め犯人は姫さんじゃないかと疑われていた」
わたしの呟きに成実が応えた。とんでもない言いがかりだ。初めはという前置きからして今は違う見解なんだろうけど、わたしは言わずにはいられなかった。
「えっ? わたし? 違います。政宗さまに毒を盛るなんてしていません」
そう言いながら祝言の晩の政宗の不可解な態度の裏が分かった気がした。
「わたし何もしてないのに……」
夫となる人から疑われていたのだろう。そのことはわたしを打ちのめした。
「だからなんですね? 祝言の間、伊達家一門の皆さんはわたしを疑っていた」
針のむしろ状態にもなるわけだ。真相を告げられて落ち込むわたしを慰める様に成実は言った。
「無論みなが信じていた訳ではない。輝宗さまや小十郎は姫さんを信じていたからな。ただ毒の入手経路を探らせていたら、どうも田村家から愛姫につき従って来た侍女らに接触して来た外部の者がいて、その者が怪しいと分かった。その者は田村家とは関係ない者だったが、愛姫付きの侍女らが怪しげな者と交流があると疑われては、田村家としては痛くも無い腹を探られてせっかくの婚儀が大なしとなる。姫さんの父上さまと輝宗さまが話あわれた結果、田村家から愛姫に同行してきた侍女たちを全員戻すことによって、姫さんとは関係ないと示す事にしたらしい」
わたしは三春からついてきた侍女が梅一人を残し、皆入れ替わっていたのはそういう事情があったのかと納得した。
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