第11話・あなたが政宗さまなら良かったのにな


「姫さん勘がいいな。政宗は女顔のせいで他の者に舐められがちなんだ。そこで顔や体つきの良く似てる俺があいつの影武者を務めることで藩内外に睨みを利かせてる。たぶんその噂が姫さんの耳にまで入っていたんだろう?」


「ああ。はい」


 成実はわたしが彼が政宗と思い込んだのは、影武者を務めている自分の噂を聞いたせいだろう。と、思ったようだった。


「そんなに俺は有名か?」


 ええ。梅がよく罵ってましたよ。政宗さまに対してね。この傲慢眼帯男めがと。

でもまさかこっちの世界の政宗さまは独眼ではなく、独眼の持ち主が影武者だったなんて知りませんでしたけどね。そんな事を言えるわけもなくわたしは頷くのに留めた。

 いつしかこの場に成実とわたしのふたりだけが取り残されていた。


(梅と小十郎、どこ行った?)


「梅?」


 不安がるわたしに成実が事もなげに言う。


「ああ。あいつら用意がいいな。馬を調達しに行ったんだろう」

「ええ。馬? そんな……!」


(乗馬なんてわたし無理だって)


「姫さんは落馬したんだってな? 話には聞いている。 大丈夫だ。俺の馬に乗せてやるから。気にすることはないぞ。落馬すると恐怖心が出て来て嫌になることもあるが、なあにすぐに慣れるって。慣れるまで付き合ってやるから安心しろ」

「へっ?」


 わたしのハテナはすっ飛ばして、数分後、有無を言わさず成実にわたしは馬に乗せられていた。彼の馬に同乗である。梅と小十郎はそれぞれ馬にまたがっていた。


(目線が高い。怖い~。ヤダ、急に顔あげないで)


 乗馬なんて生まれて初めてで、内心びくついているわたしを背後から抱きとめた彼が号令をかける。


「出立」


 馬の背の揺れに慣れないわたしは馬の背から振り落とされないように、馬のたずなを引く彼の腕に咄嗟にしがみ付いた。


「姫さん。そんなんじゃ落ちるぞ。危ないな。怖いなら俺の胸にすがりつけ」

「ええ。胸?」


 成実の胸につかまれと言われて戸惑うわたしを見て、成実は馬を止めた。


「こうして俺に巻き付いておけ」

「きゃっ」


 彼はわたしの腕を取り、自分の胸から背に腕を回す様な体勢を取らせた。彼はわたしよりひとつ年下なのに、意外にも胸板は厚くわたしは異性として彼を意識してしまいそうになる。彼の行動は男前過ぎる。

 ドキドキと心臓が波打つのを自覚しながらわたしは彼にすがりついた。


「いいか。しっかり捕まっていろよ」


 振り落とされたくなかったら自分にしがみ付いておけと彼は言う。


(きゃああ。そんなこと言われたら惚れちまうがな)


 わたしはそわそわする心を誤魔化すように心のなかで一人突っ込みをして彼にすがった。馬上にいたのはものの数分であったというのに、着物ごしに触れた彼の肌のぬくもりと息遣い、汗の匂いなどがわたしの脳内に強烈な印象を残し、下馬する時には離れがたく思ってつい、彼の着物の袖を摘んでいた。


「姫さん?」


 彼と並ぶと小柄な自分は、骨格のよい彼のなかにすっぽり納まる。眼帯姿も凛々しい彼に、この人が政宗さまだったら良かったのにな。と、思ってしまった。

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