第10話・もうひとりの政宗さま?
梅は縁に出て誰かある。と、声をかけた。庭先から小十郎さまが駆け付けて来る。
「どうなさいましたか? お梅どの」
「本日、姫さまが大殿さまの命で虎哉宗一さまのもとを伺います。籠の準備をお願い致します」
縁に出た梅の前で膝をつき用を訊ねる小十郎の様子は中世の騎士そのもの。その前で毅然とした態度を取りながらも、はにかむ様な仕種を見せる梅はさながらヒロインのようだ。
(あ、いや、ここでは彼女がヒロインなんだっけ)
美少女とイケメンの取り合わせ。いやあ、眼福眼福。これがゲームのヒロインと、王子さまの萌え萌え要素なんだろうな。ちょっとだけほんのちょっとだけだけどお姉ちゃん、青葉の気持ちが分からないでもない気がするよ。
わたしは行儀悪くも二人の様子を見逃さまい。と、障子に張り付いた。薄く開いた障子の隙間からふたりを観察中。
(出歯がめと言われようが構わないもんね。きゃあ、あの梅の初々しさ。どうよ)
青々とした庭木を背にして傅くイケメン。その前で頬を赤らめている梅。絵になるふたりだわ。これはどう見ても彼を気にしてる反応でしょう。いやあ、梅は可愛いなぁ。見てるこちら側が歯がゆい気持ちにさせられるよ。
「分かりました。ではすぐに手配を」
わたしがふたりの様子を良いよ。良いよ。と、覗いてると、そこへ何者かが現れた。
「かご? 馬で良いだろう? あいつのもとに行くくらいで籠なんて仰仰しい」
いきなり小十郎の後ろの方から姿を見せた少年は籠を用意するまでもない。と、言った。そしてとんでもないことを言い出した。
「なあ、小十郎。愛姫さまは乗馬が得意なんだろう? 馬でいいじゃないか?」
「それは……」
小十郎は少年に言われて戸惑っているようだ。わたしは思わず盗み見ている障子をドンっと開け放ってしまった。
「うぇ。そんな困る。乗馬なんて……」
わたしは皆の視線が自分に向いてる事に気が付いて、言葉尻の勢いをなくした。
「愛姫か?」
問いかけて来た少年がわたしを見て微笑んでいた。わたしは啞然とした。
「伊達政宗がふたり?」
ゲーム仕様だからなのか? 小十郎といい、政宗といい、この少年といいイケメン遭遇率が高い。
そこには史実に通りの、わたしの良く知る右目に黒い眼帯をした政宗さまがいた。艶やかな黒髪に、強かな意思を秘めた黒い瞳。わたし好みのカッコイイ少年だ。
彼はわたしの夫となった政宗とは年齢が同じくらいと思われる。彼は顔立ちは整っていたものの、女顔の政宗とは違う格好の良さが伺えて男子として雄々しさも備えていた。
わたしの言葉に皆が固まる。わたしは呟いたつもりだったのに皆に聞かれてしまったらしい。これはまずい発言だったのだろう。小十郎も梅も黙り込んで周囲に沈黙が満ちた。
わたしはただ彼の方が、夫となった政宗よりも伊達政宗らしい。と、言いたかっただけなのに。それは政宗を貶める様な発言に受け取られてしまったのだろうか? 皆の反応に訳が分からないわたしの、どんよりした気持ちを払うように周囲に高笑いが響いた。
「はっはっはっは。バレたか? そうだ俺は政宗の影だ。お見事。愛姫。気にいったぞ。俺は成(なり)実(ざね)。そなたが見抜いた通り政宗の影武者をしてる従兄弟(いとこ)叔父(おじ)だ。年齢は十五歳。政宗と同い年だ。よろしくな」
「従兄弟叔父?」
成実のあっけらかんとした物言いと、気さくな態度は男らしかった。
(政宗の影武者?)
いきなり始まった自己紹介に啞然としてしまう。わたしより年下のはずなのに、この堂々とした物言いに好感がもてた。しかし従兄弟叔父とはなんだろう? 従兄弟と叔父さんが合体したような言葉。聞いた事も無い。
(あの政宗と彼は親戚なのかな?)
「俺の父が政宗の祖父さんの弟なんだ。輝宗さまとは従兄弟になる」
首を捻るわたしに成実が説明をしてくれた。何となく分かった。政宗さまから見れば祖父の弟は大叔父。その子供だから従兄弟叔父か。
ふたりは血縁だけあってか、言われてみればどことなく体つきや雰囲気などが似てる様な気もする。
でも彼の中身は輝宗に似てるようだ。輝宗をだいぶ若くして、はっちゃけさせれば丁度こんな感じになるだろうか?
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