第6話・13歳で通用しますか?


「そんな正直なところも姫さまの美徳ですよ。政宗さまもお優しい御方だと宜しいですね。姫さまの人の良いところを利用される様でしたらわたくしが許しませんが」


 きらりと彼女の瞳が輝いた気がして、わたしはドキリとした。まさかね。主人思いの彼女が腹黒いってことはないよね?

 一瞬、青葉と姿が被った気がしたが気のせいだと思う事にしよう。うん。気のせい。気のせい。

青葉といえば、彼女ならこの展開を美味しい。と、楽しんだだろうな。歴史が苦手なわたしにはどうしたらいいか分かんないよ。


 青葉からは片倉小十郎については耳にタコが出来るほど惚気られたからなんとなくわかる事はあるけれど、愛姫についてはよく知らなかった。今さらながらちゃんと聞いておけば良かったかな? とも思う。

青葉は小十郎さま第一主義で、その主君やその奥方さまの愛姫についてはぞんざいな扱いだった。傍で見ていてそれどうなの? と、思う無礼な態度をしていたようにも思う。


 主を端役扱いでほとんど無視してたしな。それって失礼過ぎるけど、彼女は小十郎さましか見てなかったから仕方ないか。まあ、青葉なら仮に愛姫の立場でも主の妻の立場を良い事に、小十郎を良いように振り回しただろうにね。


 しかし、なぜわたしがこの世界に入り込んだんだか。良く分からない。はああ。重いため息をついていると梅が気遣うように言って来た。


「愛姫さま。そのように気落ちなされなくとも。大丈夫ですよ。政宗さまは心優しい御方だと聞きます。きっと入城が遅れた愛姫さまのことを御心配してるに違いありません」

「政宗さまって、愛……いえ、わたしのこと御存じなの? 前に顔を合わせた事ある?」


 梅はわたしが許嫁の政宗さまと会えなくてがっかりしてると思ったんだろうか? 励ましてくるけど、別に彼のこと好きでも嫌いでもないしね。政略とはいえ、結婚という話も突然すぎて困るけど、愛姫はすでに彼に会っていたりするんだろうか? 

 ちょっとだけ気になって聞いてみた。


「わたくしの記憶では、愛姫さまは政宗さまに直接お会いした事はありませんでしたわね。父上さまが対面させようとすると、なぜか決まってどちらかが具合が悪くなったりして会えずじまいでしたよ」

「そう。この婚姻の背景とか詳しく教えて」


 わたしの聞き方に何か問題があったのだろうか? 一瞬、怪訝な様子を浮かべた梅だったが、わたしの問いに応えてくれた。


「この婚姻は輝宗さまから持ちかけられたものだったようですが、田村の清顕さまも願ってもない申し出でした。当家と敵対している相馬氏を、伊達家でも良くは思っていなかったようです」

「つまり共通の敵を倒す為なわけね?」

「そうです」


 愛姫と政宗公の結婚にこのような政略目的があったとは。知らなかった。啞然としたわたしに梅は言いわけのように続けた。


「もちろん、清顕さまは姫さまの幸せも望んでおられますよ」

「でもわたしと政宗さまの婚姻を良く思わない者もいるのよね?」


 わたしの言葉に梅が固まった。


(あ。これって言っちゃいけないことだった?)


 小十郎や虎(こ)哉宗(さいそう)乙(いつ)の話を聞いた限りでは、伊達政宗と三春城主の娘、愛姫との結婚は両家の共通の敵、相馬氏へのけん制もあって結ばれた縁談話で、どちらの家も望んで勧められた話に思われた。その一方でその婚姻話をよく思わない者もいるのは確かだ。

 嫁入りの最中の愛姫の籠や馬に細工をした者の意図は分からないが、この婚姻に反対してると思っていいだろう。


「しかし、姫さまのご結婚にこんな横槍が入るとは気が抜けませんね。でもご安心ください。わたくしが愛姫さまをお守り致しますから」


 梅はまっすぐな瞳をわたしに捧げて来た。彼女はしっかりしている。わたしのほうが年上なのに、これでは彼女の方がわたしの姉のようだ。それでもわたしは梅を頼もしい存在として認めていた。

そこで思わず聞いてしまった。


「ねえ、梅。わたしって十三歳に見える? 老けて見えない?」


 梅は一瞬、啞然としていたが吹き出した。


「何を言い出されたのかと思えば。姫さまったら。姫さまは年齢相応の愛らしいお顔立ちをされていますよ。政宗さまも姫さまを見ればメロメロになるのは確実ですわ」


 そうかな? わたしは自分の容姿や体型に自信ないし。梅の方が目を惹くよ。でもメロメロって……ここでもそんな言葉使うんだ? 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る