第2話・目の前にお侍さん


「痛たたったたたた……!」


 ベッドから起き上がろうとしたわたしは、息をするのが苦しいくらい背中に痛みを感じた。


(嫌だ。もうお迎えが来たの?)


 隣のベッドにいるはずの青葉が気になって目をやろうとするけれど痛すぎて体が動かない。


(誰か。誰か。お願い、助けて!)


 お願い。神さま。こんなの酷すぎる。せめて青葉にお別れぐらい告げたい。青葉に今までありがとうぐらい言いたいの。痛みに見舞われた体に鞭打って、震える手を青葉へと伸ばそうとした時に、その腕を誰かに取られた。


「大丈夫ですか? 姫さま」


 その人は優男風の若い男性で妙な身なりをしていた。綺麗な顔立ちをしていて、成人男性だろうか? 二十歳くらいの男性に思える。彼は髪の毛をポニーテールに結び、紺の一重の着物にひだの付いた袴を合わせていた。


(梵天くんと同じ世界の人かな?)


 だとしたらわたしは夢を見ていることになる。わたしのいる世界で彼のような髪型をしてる人は珍しい部類に入る。しかも羽織り袴姿。そんな格好した男性なんてめったにいない。

 自分がいる場所に「ああ。やっぱり夢なんだ」と、納得した。室内にいたはずのわたしが野外にいたのだから。夢の中なら何でもありな事を良く分かっているし。


 鼻先に新芽香る風が触れ、肌には木漏れ日が降り注いでいた。どうやら自分達がいるのは林の中らしい。地面の上に横たわる自分の脇には、ぶるるるるると鼻息を立てた鞍をつけた栗毛の馬がいた。それに見覚えがあるような気がする。


「姫さま。お気がつかれて良かった。あなたさまは落馬されたのですよ」


(落馬?)


 乗馬なんて経験ない。落馬って? このわたしが? 有り得ない。いまいち相手の反応についていけないわたしを心配そうに見下ろす優男。彼が心配してわたしの顔を覗きこんできた。


「起き上がれますか?」


 身体の節々が痛むのは分かるが、どうだろう? わたしは自分で起きようとして無理なことを悟った。痛すぎて自分では起き上がれそうになかった。


「痛っ……!」

「起き上がれそうになさそうですね。ではご免」


 優男は断りを入れてからわたしの膝裏に腕を回した。その時にわたしは気がつく。自分の服装が変わっていた事に。彼と同じく小袖の着物に袴を穿いていたのだと。髪も長く後ろで緩めにひとくくりにした髪の毛の束が前に回されていた。


「一旦、寺まで戻りますよ。姫さま」

「あ。はい」


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