🏯  俺さまダーリンは独眼竜

朝比奈 呈🐣

ゲーム名は「戦国乙女めん恋13」。わたし陽菜は16歳。自称13歳は無理があります

第1話・16歳のわたしの現実


 いつも夢ばかり見ていた。


 夢の中の自分は自由で、日の下で大声をあげて笑っていた。草木の匂いを孕む風の中、思い切り駆ける事も出来た。


 そんな自分の隣には一つ年下のくせに、お兄さんぶる梵天と名乗る男の子がいて、彼と過ごす時が楽しすぎてこのまま留まりたいと願うのに現実は皮肉な事だ。夢は必ず覚めるのだから。



 消毒液臭い館内。カーテンで仕切られたベッド一枚分の空間。ここがわたしの現在の住まいで全てだ。十六歳のわたしにはつまらない現実。天井の黄ばんだシミがいつもわたしの涙を見下ろしてきた。


「……陽菜。お帰り」

「ただいま。青葉」


 身じろぐと右隣のベッドからかすれたような声がかかった。カーテンを開けると彼女と目があう。「お帰り」と、「ただいま」はお互いの掛け声のようなものなので、わたしから声が帰ってくると安心したような顔をして青葉は仰向けになった。両手には馴染みのゲーム機が握られていた。青葉の好きな乙女ゲームだ。今度は戦国ものといっていたような気がする。


「ゲームしてたの?」

「うん。のど渇いた……」


 わたしはベッドから降りて、彼女のベッド側の水の入ったペッドボトルを開けてやる。


「ありがと……陽菜」


 わたしからペットボトルを受け取る彼女の力は迷いがなかった。


「彼には会えたの?」

「うん。会えたよ。生意気なこと言ってさ、時々わたしの鼻を摘むの。失礼じゃなあい?」

「さすが梵天くんね」

「青葉はどっちの味方なの?」

「もちろん、ふたりのだよ。わたしは小十郎さま一筋だから」

「でたよ。青葉の小十郎さま命」


 青葉といると陰鬱になりかかる気持ちが晴れていくような気がする。病棟に笑顔の花が咲く。彼女はわたしにとって可愛い妹のような存在で、かけがえのない親友でもあった。彼女がいればこの寂しく湿っぽい生活もなんとかなると思っていた。


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