第11話 マークの属性魔法
ハンスとグラスがセントヘリアルの試験責任者カーラとの会談をしてから約1ヶ月が過ぎ今年の受験の日が訪れたが、やはり下民街からの受験者は0人であった。その後受験が一通り終わり、今年の合格者は去年と同じ5人であるという情報が入っくると、貴族が入学を蹴っているという事実を知らない者は改めて合格者数の少なさに驚いていた。
ハンスとグラスが聞き取った受験についての情報は、また来年試験受付が告知されるときに一緒に拡散することとなっている。
そしてパトリックは王都下民街の教育の取りまとめを行っているため、下民街の集会で試験内容について事前に知らされていたが、公平を期すため試験の情報が正式に拡散されるまでカインたちにも試験についての情報を教えないようにしていた。
そうして今年の受験が終わり新年と同時にカインたちが7歳を迎えてしばらく経った頃、その日も普段通りの孤児院の日常が始まるはずであった。
「うおおおおおおおおっしゃああああああああああ!!」
しかし、早朝にマークが叫び声を上げたことで普段とは違う1日が始まることとなった。
「うっさいな!どうしたのマーク!」
孤児院中庭にある水道で顔を洗っていたマークに、同じく横で顔を洗っていたためマークの絶叫を直接耳に叩きつけられたカインが耳を押さえながら文句をぶつける。
「うおおおおお!カイン!俺!魔法紋!変わった!」
興奮しすぎて片言になってしまっているが言っている意味は理解できた。
「え!?ほんとに!?」
そう言ってカインはマークの腕にある魔法紋を確認しようと腕を引っ張る。
「ちょっ、痛え!痛えよ!」
マークが痛がっていたがカインは聞く耳を持たず魔法紋の確認をする。
「マークって魔法紋どこだっけ?腕紋なのは知っているけど。」
「右手の甲だから、そんな引っ張る必要ねえって!」
そうしてカインがちょうど手の甲を確認する頃には、マークの叫び声を聞いた他の面々も中庭にやってきていた。
「なになに?何かマークのすっごい叫び声が聞こえたけど何があったの?」
「悪い感じの声じゃ無かったよね。」
「どちらにせよ、近所迷惑だ。マークは後で説教だな。」
パトリックの説教が決まってしまったが、そんなものは聞こえないと言わんばかりにマークも興奮した様子で新しく来たみんなに告げる。
「俺、魔法属性が発現したんだ!模様見た感じだとたぶん炎魔法!」
「おお~、おめでとうマーク!」
「マリーに続いて属性発現か。炎って言うのもマークのイメージ通りだ。」
子供たちが思い思いの感想を口にする中、魔法紋の確認をし終えたカインが腕を離す。そして次はジャンとマリーが魔法紋を一目見ようと集まる。
「魔法属性って一応本人の希望に近いものなんじゃないかって話だけど、マークはやっぱり希望通り?」
「ん~。正直心当たりはねーぞ。属性発現だってあんまり期待してなかったしな。でもまあ、無欲の勝利って奴か?」
そこで浮かれているマークにパトリックが声をかける。
「とりあえずマーク、属性発現おめでとう。後で大声を上げたことについて説教があるから朝食後院長室に来なさい。」
「はい!・・・・・・はい?」
耳を澄ませれば近所から先程の叫びは何事かと疑問を問うざわつきが耳に入る。孤児院に事情を聞きに来るのも時間の問題だろう。
「朝早くに外での大声だったし近所迷惑だったかもしれないからね~。魔法を使うのは説教と勉強が終わってからの自由時間かな?」
「今日、自由時間まで行けるのかな?」
「説教でヘトヘトになって、勉強が遅れて自由時間が無くなって・・・、無理じゃないかな?」
「急ごう、マーク!まずは朝食を急いで食べて、すぐに説教を受けるんだ!」
「何かマリ姉の言い方だとすっごい食べる気なくなるんだけど!」
とはいえ、説教があるのはもう決まっていることなので、マークも潔く朝食後に院長室へ向かった。流石にパトリックも魔法を使いたいだろうということで配慮したのか説教はいつもよりずっと短く、勉強の課題も残ったものは宿題ということで許してもらえた。
「くっそ~、宿題かよ。何でめでたい日にこんなことに。」
「マークがアホみたいに大声で叫ぶからでしょ?せっかくめでたい日だって言うのに締まらないのはマークらしいけどね。嬉しいのはわかるけどもう少し抑えなさいよ。」
「私の家まで聞こえてきたよ。最初は何かと思っちゃったもん。」
「いやいや、しょうがないって!だって、魔法紋持ってるだけでもすげえのに滅多にない属性発現だぞ!」
「その言い方むかつくわね!自分がそうなったからって偉そうに!」
授業が終わり昼食になると調子に乗ったマークとジェーンが言い合いを始める。いつものことだと聞き流しながら昼食を済ませ午後の自由時間となったため、マークの初魔法発動を見に全員で中庭へと移動していた。
今日は孤児院中庭では自警団による近所の人達への指導が行われており、マリーとジャンも午前からそちらに参加していた。そして二人から自警団の人に事前にマークの魔法紋のことも伝えられ、中庭の一部を使わせてもらうよう許可を取ってもらっていた。
「お、マーク~。こっちだよ~。」
真っ先に気づいたマリーが声をかけ、それに気づいた中庭にいた他の面々もこちらに注目する。マリーのもとへ行くなりマークが中庭に来てから感じていた違和感を尋ねた。
「な、なあマリ姉。何か他の人が訓練してないでこっち見てるんだけど。というか、中庭で貸してもらうのって端っことかじゃなかったの!?ここ真ん中なんだけど!」
そう、マリーが呼んでいる場所は中庭のど真ん中。自警団員も指導を受けていた近所の人達も全員が手を止めてマークに視線を向けている。
「いや~、私もそのつもりだったんだけどね。話を聞いたみんなが「そりゃめでたい!」ってことで、どうせならマークの新たな門出となる初魔法を見届けよう!ってなって、私も是非!って言ってこうなりました。」
「いや、ごめんねマーク。流石に他の人もいる中じゃ緊張するだろうって思ったんだけど、押し切られちゃって。」
マリーがあっけらかんと理由を告げ、ジャンが申し訳なさそうに手を合わせながら謝る。
「あはははは!他の炎魔法を使う先達もいる中で初めての魔法を見せるって、もはや罰ゲームじゃない!」
「う、うっせぇな!言っとくけど俺だけじゃねえぞ!もしカインが属性発現したときは、お前同じこと言えんのかよ!」
「そっちももちろん任せて!もしカインが魔法属性を発現したら、私がちゃんとセッティングしてあげるからね!」
「え・・・?僕も同じ目に遭うの?」
カインは自分も衆人環視の中で恥を晒すことになるのかと顔を青くする。ジャンはそこでフォローを入れる。
「まあ、通過儀礼みたいなものだと思えばいいよ。属性魔法は発現する人が限られてる分、使えるようになったことで自分が劇的に強くなったって勘違いをする人もいるんだ。それを自警団の訓練で他の人の魔法を見た中で自分の魔法と比べて未熟であることを自覚する。そうすることで無謀な行動を抑え、努力を続けることを促す。そういった意味もあるから、マリーも同じようにお披露目をしたよ。・・・まあ、ここまでギャラリーは多くなかったけど。」
「ほら!マリ姉もここまでじゃなかったみたいじゃん!勘弁してくれよ!」
尻込みしているマークはジャンがボソッと付け加えた言葉に反応してマリーに抗議の声を上げる。
「というか俺まだ属性魔法の使い方もわかってないんだけど!」
「それについては簡単!既に魔力障壁で術式を理解することはできたでしょ?それと同じ要領で魔法紋にお願いすればいいんだよ!」
「ま、魔法紋にお願い?魔力障壁の時と違うような。・・・魔法を使いわせてください、お願いします!」
「ちなみに声に出して聞くんじゃなくて、心の中で問いかける感じだね!ちなみにこれは私のやり方だから、マークは自分のやり方でいいよ!」
「先に言ってくれよ!余計な恥かいたじゃん!」
マークの奇行に周りの人が爆笑して、マークが顔を赤くしてマリーに食ってかかる。
「大丈夫!私も先輩に聞いて同じことしたからね!」
「それなら尚の事最初に言ってくれればいいじゃん!俺の性格知ってるでしょ!?」
文句を言ってからマークは心の中で魔法紋のある手の甲あたりに意識を向け、魔法の使い方を問いかける。そうすると感覚で自分が使える魔法が思い浮かびそれを使おうとするタイミングで直感的にマークは魔法紋に魔力を注ぎ、魔力が行き渡ると魔法が発動した。
大人の握りこぶしくらいの大きさの炎でできた球がマークが構えた手の前に現れると、それはそのまま前方に発射され、用意された的に当たると小さな爆発を起こした。その結果を見届け、見学していた人から拍手が送られる。
「それがマークが最初に使える魔法だね!おめでとう!」
「・・・これが・・・。」
マークは初めて属性魔法を使用したという衝撃で少し呆然とし、我に返ると感動で打ち震えた後、辺りに喜びの雄叫びを響かせた。
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