六 『天シ』
「畜生め!」
私は地面にあたる氷に大剣を突き立てとにかく穴を掘っていく。あまり深く掘りすぎると氷点下の水に当たるかもしれないからあまりに深く掘れないのが口惜しい。けれど少しでも生存できる確率を上げるために出来ることはしたかった。幸い私という身体は小さいため、私一人ぐらいが入るぐらいの穴はすぐに出来上がる。私は飛び込むように穴に入り、更に手元にあった食用の油に火をつけ、雪氷の中に入れる。雪の中にあれば暫く燃えて、私の身体を温めてくれる筈だった。野営用の毛布で自身を被せて、猛吹雪に備える。ここが砂漠であれば、砂嵐に備えラクダの一頭でも殺すのだがあいにくここには私という生物しかいない。
「はぁ」
私はしばらく全く動かず、大自然の驚異に当たった。これが一週間続くこともあれば、あちら側に近しいところなら一か月という長期も覚悟しなければならない。下手をしたら子どもの為にとっておいた食料も食べなければならないだろう。
幸い火種はある為、後は時間との勝負であった。空腹という狂気に陥らない為には少しでもエネルギーの節約をしなければならない。
そして三日後――ようやく吹雪が薄まり、ようやく上にいる人間たちを殺せると判断したときだった。
「あ」
私は大剣に雪を突き立て、足場代わりにして上に登ろうとしたときに事は起きた。目の前の氷が割れるその一瞬、私は急いでひび割れから後退する。ひび割れはますます大きくなり、やがて私が蹴落とされた建物まで届こうとした瞬間――
「うわぁ」
彼らは現れた。白く美しい巨体は一瞬白鯨と勘違いしてしまいそうだ。しかし彼らは鯨ではない。その名はこちら側の世界でも名を轟かせる、正しく海の王者――こちら側の世界では彼らは群れで活動している。群れは四十頭から百頭ほど、核家族で行動していた。しかしここはあちら側とこちら側の狭間、こちらの世界ではあり得ないほど――彼らは大きかった。彼らの正体は、哺乳綱鯨偶蹄目マイルカ科シャチ属の海獣――シャチ。しかして体表は白変種の純白の白で覆われ、体長は歯形から推測するに一キロほどあった。
シャチはその姿を見せたかと思うと、彼らがいた建物ごと噛み砕くために口を開け顎を見せつけた。結果、彼らは建物ごと飲み込まれたのである。私ももう少し建物に近かったら危うかっただろう。
辺りを見渡すと、あちこちから建物の倒壊が聴こえてくる。恐らく彼らが狩りを始めているのだろう。ここでは人間と天使と称する生物が常に争っていたが彼らもまた生存競争に参加するものたちであった。私は肌を逆立てる。こんな任務を請け負っていなければ、私も狩りに参加したかった。私こそ、獣である彼らを狩りたかったのに――
けれどまだ、その刻ではない。私はまだ海を自由に走り回れる道具だって、時間だって用意されていない。彼らとの戦争は未だに出来ないのだ。
私は舌打ちをしてから、とりあえず雪の上から引きずり落とさないよう彼らの狩り場から全速力で離れていく。あちこちに氷の地割れが出来ていて、ところどころ大きく穴が空いている。彼らが私を襲えば、それこそ『天使』狩りも行方不明人の捜索も放って狩る動機も出来るのだが、残念ながら最後まで彼らは私を狩ることはなかった。
彼らが狩りを終えたのだろう。辺りは再び静寂にまみれた。
呑まれた彼らを救う術はない。もっとも、私に彼らを救う義理はない。元々私を蹴落としたのだ。彼らだって私に救われたくはないだろう。
彼らは自力でシャチの胃袋から脱出するしかない。最も、こちらとあちら側の境界線をも行き来できる彼らから出たとて、準備もなしに境界線から生きることは難しいだろう。それでも生き延びて無事に帰還できたならば今度こそ彼を自身の手で殺してやろうと考えている。
本来なら増援を待つべきだろうが、残念ながら私はまだ作戦を続行できる状態にある。この作戦は、私が生きている限り続行される計画にあった。未だ五体満足である限りならば、『天使』の捜索と撃破、子どもの救出を続ける。
ギルドが状況を把握次第、傭兵を送ってくれるかもしれないが、残念ながら私はギルドの人間に裏切られたばかりの孤高の人間でもある。
自身の命を脅かすかもしれない人間が来る前に、任務を果たす。私は急いで、天使の捜索を再開した――
「みぃつけた」
彼の『天使』は街の最奥で待ち構えていた。双眼鏡で観測できうる最大の距離を保ちながら、私は豆粒ほどの天使を眺める。天使も、私という襲撃者がいることを想定しているらしい。手には槍を持ち、羽を広げすぐにでも大空に飛び立てるよう警戒していた。
「あぁ――今のところ……三羽だけか」
私は更に観察を続ける。恐らく彼らが向こう側の斥候部隊なのだろう。『天使』は一匹だけではない。彼らはかならずしかも完全武装であることから完全にこちら側の動きを読んでいるようだ。
けれど彼らは知らない。こちらの手駒は私以外全員死んで、私という人間しかいないのだ。でも残念、私は大勢の人間という『枷』を外されたのだから。足を引っ張られることもないから、私が弱体することもない――つまり、私が負けることは決してない。
いつもの狩りなら虚をつくことをしているが、今回は十人単位の複数人、しかも高い知能を持つ獣が相手だ。私は息を潜めて殺意を隠し、存在を限界までかき消す。向こうは私という存在を知らない。これは優位性を保てる。私は彼らに感知されないよう待機して、それから。
彼らは警戒している。けれど自然から発する音――たとえば床を踏む足音、建物の間を駆け抜ける風音、氷が割れる音は何もしなくても鼓膜に届いてしまう。この音そのものが聴こえても人が傍にいると何ら気付かないのだ。彼らは飛空をしていた。空を飛べない人間に攻撃されないように自らが強者と見せつける驕りを私は利用した。
私が今から行おうとしている攻撃は普通なら二人一組で行うものだ。観測手がいなければ狙撃手を守るものは何もないし、狙いだって定めにくい。けれど今なら、視界が悪くとも彼らは一定の速度で飛んでいるなら私にとってはすでに十分すぎるほどの判断材料となる。
まず、一発。銃剣から剣を外し、スコープを覗く。彼らを見失っても数秒なら頭を狙える。その瞬間を狙って――
ガチャリ。
薬莢が落ちた。間髪入れずに、一発、もう一発入れる。そして彼らを撃墜の確認してから、私は急いでその場を後した。視界が悪いせいで斥候が落とされたとは彼らは未だ知らず、もし銃声が聴こえても雪が吹雪く音でどこから狙撃したか分からない筈だ。
ここからは時間の問題だった。彼らは斥候であり本体は街の最奥にある。
私が少し急ぐ理由。彼らの武装は完璧であった。鎧の境目を狙われなければ戦闘となっていただろう。けれどあれは殿を務めている様子でもあった。殿。彼らは恐らく、戦利品を持ってこの戦場から撤退するつもりなのだろう。
街の最奥まで急いで駆けていく。『天使』に偵察部隊が殺されていることに気づけば、彼らはすぐに向こう側へ消えることはない筈だ。
そしてようやく――何羽か殺しつつ、本体らしき部隊を見つけた。『天使』はあちら側との歪――境界線は一定しているわけではない。境界線は波打ち際のように刻々と境界線を変えていく。ただたまに明確な『入り口』というものが存在しているのだ。それが彼らが今いる歪の前――皮肉にも羽の生えた女神像がある教会で確認していた。
彼らは鎧を着込んでいた。誰も彼も羽さえなければ同じ人間のような――だが、彼らは羽を持って皆から尊敬される女神と同じ姿を誇りとしている。私は女神が嫌いだ。ならば彼らは――私の絶対的な敵である。
私は神を信じない。どんな世界であろうと絶対的な超越者が存在したとて信仰などしない。運命は自らの手にあると勘違いしている糞どもを崇めることもない。私が信用できるのは自らの信念に基づいて執行できる技術のみである。
彼らは勘違いしていた。彼らは人類の滅亡を目的としているのに人間による崇拝を望んでいた。彼らの何もかもが矛盾しているのだ。それがどうしても気に入らなくて。
人の営みを、文化を嘲笑し破壊しながら自らを崇め奉れと宣う最悪最低の生き物を私は心底軽蔑していた。やはり、『天使』と『吸血鬼』は絶対に殺すべきなのだ――
私は彼らが私を視認したと同時に、生きとし生ける全てのものを殺す剣を逆手に持ち、恐らくリーダーであろう『天使』の首を一羽撥ねた――この剣は触れたところからまるで形なんて初めからなかったのようにぐずぐずに溶けてしまう。毒性は強く、私が食べるときですら溶けたところから周囲の肉をくり抜いて取り除かなければならないほど。彼らの肉体という
「この――!」
「……ッ」
隊長格が殺されたのだ。彼らは狼狽しながらもすぐに私という『天使』の敵を認識してその武器を取り出そうとする――が、全て遅い。彼らが武器を構えるまでに三羽、彼らが自らの槍を私へ突きだろうとする前に三羽が首を斬り落とされた。
残るは後は三人だった。『天使』はようやく学習したのか一羽が私の真ん前、残りが私の後ろ、死角に回っていた。彼らは脚を両開きにして槍を左に構えている。彼らは私に斬りつけられないように半身を縦に、私と向かい合う面積を最小限に留めていた。
でも残念。私が欲しいのはその羽であって、彼らが正面でなければこれほど捕りやすい獲物もないのだ。
瞬間、一羽が床に倒れのたうち回った。彼は背中を押さえて出血を防ごうとしている。しかし触れるだけで溶けてしまう個所は、やがて触れた手も浸食して彼は手を失ってしまった。
二羽が驚愕で目が瞬いたのちに私は一羽の首を軽く飛ばす。後は一羽だけ。けれどその一羽はどうやら、隊長格の次に強いみたいだ。
「へぇ、お前はちょっと強いみたいだね」
「……」
「喋る機能さえなくなったのか? まぁ、偉そうな口を叩かないだけ少しはマシな『天使』もいたものだ」
「……お前が! ……同胞を殺し」「遅い」
息を吐く瞬間はもっとも人間が無防備になる瞬間。同じ人間の形でも意識がそれる瞬間は同じだ。況してや彼らは獣。人間を真似た人間の形をしただけの化け物である。彼らと本来なら会話をしてはいけない。彼らは読唇術に長けていて、短時間で自らの信者を得てしまうから。しかし私は知っている。彼らの邪悪さを。善意に隠れる無自覚の悪意を。
だから私は最後の遺言を聞いてあげた。最もすぐに飽きてしまったけれど。やはり彼らの言葉を聞く価値なんて一片たりとも、ない。
それに彼は何やら奇跡の行使を実行しているようだった。そんなものは発動させる前に殺すに限る。兵器を壊すよりも操縦者、あるいは魔術師を殺した方が手っ取り早いのと一緒だ。どんな強力な兵器も使うものを殺してしまえば何の効力も持たない。
「……おっと、やっぱり強いや」
けれど、残念ながら殺し切るには至らなかったみたいだ。彼は詠唱を中断すると私が剣を振るう一瞬の隙で跳躍して私の距離を詰めた。音速を超える蹴りは私という身体をいとも簡単に蹴飛ばして、がらがらと音を立てて部屋を突き破っていく。
頑丈だったのが幸いだった。私の身体は傷一つだって負ってはいない。瓦礫を押しのけると、何と驚いたことに天使は私を殺そうと畳みかけてきたのだ。
ドン、と衝撃が走る。私の足元は思い切り凹んだ。激しい鍔迫り合いの最中、火花も散るぐらいに――『天使』の剣技は美しかった。
「ふぅん」
鍔迫り合いはやがて剣戟となり、普通の人ならきっと見えないであろう剣は残像を現すほどになる。波涛の如く迫りくる切っ先。これほどまでに美しい剣技をあますことなく私に対して繰り出すなんて、『天使』はよほど特訓したのだろう。そこには血を見るほどの地獄のような訓練をして初めてその領域に達している筈だった。
これが人間相手だったら称賛に価するのだろうが、残念。相手が異世界の獣なれば、私が褒めるところなんて何にもないんだよね。
「これで――」
「これで? 綺麗だけれど、やっぱり遅い。残念だね、次は人間に生まれてから出直しておいで」
瞬間、血飛沫が迸る。 『天使』が気付いたときには時すでに遅し。
私はさくっと最後の一羽の首を撥ねると残った全員の羽を回収する――その前に、私に課せられた任務を果たすことにする。
『天使たち』は戦利品をあちら側に送り込もうとしていた。しかし人間を――しかも脆弱な子どもを送るにはある程度加工しなければならない。彼らも、何の犠牲もなしにあちらとこちらを行き来できるわけがない。一匹の竜がこちら側にわたる際に自らの身体を犠牲にしたように――自身が持っている何かを通行料と差し出さなければならないのだ。
彼らのしそうなことだ。私は辺りを探索し、程なくして彼らの戦利品が眠っている部屋へと辿り着いた。
子どもたちは丁重に、細菌が繁殖しないよう教会の中にある一番寒い部屋に小分けにされていた。確かに子ども達は綺麗な布に小分けされている。しかし、彼らは明らかに人間という原形を保っていなかった。
「――……これは」
私は部屋の中まで入って袋の中を覗く。中には皮もなく、綺麗にむき出しになっていた内臓が蠢いていた。更に内臓は半透明と化してゲル状となっている。内臓の向こうには子どもとは明らかに違う蠢いているものが幾つもあった。背を丸めているソレはまるで赤子のようである。肉塊は『天使』は人間を殲滅することを目的としていた――けれど、自身達の種の存続さえ危うくなれば――? 彼らは何を犠牲にしても自身という存在を残す。彼らはそういう生き物だったのだ。
攫われた子どもたちの推測される体積と肉塊から小さく蠢いているものを引けば間違いなく一致していた。持ちあげたそれは間違いなく人間の塊だ。ならば、彼らは苗床にされたのだろう。彼らは失うものがない。肉体に入っている魂が壊れているから通行料すら必要としないのだ。
「……さすがに食えないな」
ただ、彼らはこんな姿になっても僅かに息をしている。人間としての尊厳は失われても、人間として生きられる機能を残されていたのだ。攫われた子どもは十人。この中にいる八人は、最後まで人間として『天使』を生む為だけの装置とされてしまったのだ。
私に同族を食べる趣味はなく、また『天使』を見逃すだけの度量は存在しない。彼らを持って人間として持って帰る術はなかった。聖樹から零れる雫――万能薬ならあるいは魂さえも完全に復活するかもしれないが、新しい命がこの中に宿っていれば、どの程度まで戻るのか私にさえ分からない。だから万能薬の類は使えない。彼らを戻す奇跡なんてどこにも存在しないのだ。
私はその生命を終わらせる為に剣を取り出す。この剣は生きとし生けるものを呪うものであるが、もう一つの能力もある。完全に魂まで叩き潰せる力――不死の薬でさえ再生を許さない力はこの変貌した子どもたちにも機能するはずだろう。私は一刺し、一刺しと肉塊を突き刺しその生命を終わらせていく。八人の命は恙なく終わらせたが、あと二人だけが見つからない。その内の一人は、彼の高官の子どもだった――
彼らはまだ撤退の準備をしただけで撤退はしていなかった。だから子どもたちも残っているはずだった。まだ見ていない部屋は外観から考えておよそ四つ。私は彼らの死体から背を向けて再び捜索に当たった。
「!」
結果、子どもはすぐに見つかった。彼らは地下室に当たる場所で見つかっていた。一人は寝台の上に横たわっていて、もう一人は床に転がされていた。その内の一人はこちらに背を向けて寝かされていた。そいつは気になることが幾つかあるがどうでもいい。私はもう一人に向かって走った。
「おい、お前、おい! 生きているんだったら返事しろ!」
暴行の跡は酷い。私は子どもを仰向けに寝かせ、心臓マッサージを試みる。何回か肋骨が折れる勢いで心臓を押して、薄布を口に当てて息を吹き込む。直接触れてしまえば彼は私の毒で死んでしまうので直接息を吹き込むことはできない。何回か同じやり取りをすれば子どもはまもなく淡を吐き出し、だらりと白濁とした体液を口の端から零した。
「チッ」
けれど未だ状態は危うい。早く手当をしなければ長くは生きていられない。私は自らのコートを脱いで、子どもの身体を覆った。このコートは向こう側に存在する竜の血すら弾く特別性だ。気休めにしかならないが、一時でも早く体温を温めればならなかった。私は手元にあった回復薬を鞄から取り出して幾つか取り出して調合をする。本格的な処置は帰ってからになるが、応急処置でも施さなければ彼は帰還する前に死んでしまう。しかも子どもの体重を考えて調合しないとこの薬は効きすぎるのだ。それに内臓だけでなく、子どもの肛門と膣の止血を行わなければならない。そのためには塗り薬が必要なのだ。
私がそうして処置を続けるうちに、子どもの瞳はようやく目覚めた。私は驚いて振り向く。何と子どもは、私のよく見知っている顔を上げて、にんまりと嗤った。
「あぁ、お前――私を迎えに来てくれたのね?」
その顔は十数年前から何ら変わらず、私をじっと眺めている。ああ、何て本当に醜い顔なのだろう。私はこれほど、一個の生物に対して憎悪を抱いたことはない。それほどまでに憎い相手。何回殺しても殺したりない相手。
私は何回も彼女を殺していた。しかしどんなに殺しても私の前に現れる。まるで単細胞生物のように彼女は何回も何十回も何百回も、同じ髪色で同じ顔で同じ性格で現れるのだ。魂すら殺す剣で殺したはずなのに、彼女は必ず蘇る。本格的に研究所でも建てなければ彼女という生態の解明は永遠に為されないだろう。
「……」
「本当にあなたって愚図でのろまなのね。もう少しまともな食事が出来れば――」
我慢できず私は剣をぶん投げた。剣は彼女の頸椎をたたき割り壁に突き刺さる。彼女という生命は確実に終わった。しかし彼女はまた新しい生命を芽吹かせるのだろう。もしかしたら、どこかで既に在る肉体を乗っ取ることもしているかもしれない。たまたま今回がこの肉体だった――というのも十分あり得る話だった。
「寄生虫め」
舌打ちを思わずしたくなるほどの事実。その肉体は『天使』だったのだろう。ならば生かす理由は全くない。経緯はどうあれ、誰が彼女を望んでいたとて、私は彼女を生かす価値なんてどこにもないのだ。
「あんなに殺したというのに、またお前は生き返るのか――ティリ」
彼女の身体を構成していた骸を一瞥して、私は再び作業に戻る。この場所は感慨に耽るには危険すぎる。色々と処置を終えて一刻も早くここから離れなければならない。
ただ私は苛立ちがあった。彼女を殺しきるには未だ材料も時間も足りない。急な邂逅には彼女を殺しきるには至れないのだ。
彼女がいたと分かっていたらもっと時間をかけて、確実に殺せる兵器を持ってきていた。今度こそ転生なんて
人間は基本害がない限り殺さないが、彼女はそこに在るだけで周囲に悪影響を齎してしまう。
私の精神上に何ら影響は及ばないが、普通の人間であれば一年と持たず自死するか発狂するか――それが彼女が在ってならない理由。私は一通りの処置を終えて壁から剣を引き抜く。剣は相変わらず禍々しい色を有していた。
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