五 『信者』

「あーら、ヨルちゃーん、こんなに美味しそうな肉たくさんありがとねぇ、ギルドも繁盛するわぁ」


 ギルドの受付に立っているのはマリさんだ。彼女は初めて出会ったときから全く変わらない姿でいる。年齢を聞いてみようなら殴られるのは必至になるので決して聞かない。その前に彼女が激怒したらギルドを追い出されるかもしれないから、殴られるだけならまだマシだろう。ここは剣を抜くことはご法度だが、他人の秘密を聞くのもご法度だ。私も自分の外見を揶揄されたらその瞬間、そいつを敵と見做してしまうからこのルールをつくった人間の気持ちもよくわかる。

 私は先ほど、飛空艇で解体した肉をおすそ分けした。何百キロとなる肉に毒性はなく、ギルドに併設されている酒屋に体のいい賄いとして出されることになった。ギルドだけではなく周囲にある、娼館にある人達や教会にも配ったので暫く彼らも飢え死にすることはないだろう。人間と円滑なコミュニケーションはとても大切だ。多少面倒でも怠ったことで起きる問題のほうが余程厄介なので、まめに機嫌をとることが大事であった。


「繁盛するならそれは良かった。ギルドの衰退は望んでいないから」

「そうねぇ、ギルドに最も恩恵を与えているのはあなただけど、ギルドの恩恵を最も受けているのもあなただものねぇ。ギルドがなくなったら困るものねぇ」

「うっ……マリさん、それは分かっているよ」


 ギルドは所属する人間の後援を請け負っている。私が狩りをする為には、時に許可を得なければならない場所もあった。そのとき、ギルドは許可を得るだけでなく、私が拘束されないように必要な手続きを全て請け負ってくれていた。

 たとえ私に逮捕状が出ても私を捕まえることはできない。ギルドが私の身の安全を保障しているからだ。それが私がギルドに従う理由。最初、この世界に入ったときは規律に縛られたくないと駄々を捏ねていたが、ギルドの恩恵が大きすぎるため今では甘えさせてもらっている。

 支援は所属する人間の安全を保障してくれるだけではなく、当人の素性も出来る限り関係なく雇われる。どういうことかというと、犯罪者だったり、王侯貴族だったりしても元いた場所から帰還の要請が来たとしてもギルドが守ってくれるということ。

 その代わり、ギルドから直々の依頼があったときは断れない。まぁ、私がギルドに所属していなかったら生きたまま冥府の監獄にぶち込まれることは確実であるから、依頼を請け負うぐらいなら安いものである。


「で、あの子達はやっぱり『駄目』だったのねぇ」

「私に依頼が来ている時点で『落第』は決まっているようなものでしょう」

「そうよねぇ。あなたが即断して斬らなかっただけ偉いと思うわぁ」


『黒』と『無色』。この二つの違いは名前だけはない。仕事内容も真逆といっていいぐらいに違う。『黒』は他者を害することを主に、『無色』は他者を守ることを主な仕事としていた。また、故に『無色』は他者を審査するときもある。特に白金級から昇格するときの審査は、彼らでないと務まらなかった。その逆、他者の降格するための協議の際には、『黒』が呼ばれることになっている。『赤烏のハレ』は人格は十分であるが実力に疑念が抱かれた為に、こうして私が本人に秘密で彼を審査する任務を課せられたのである。

 もっとも、私に頼まれた時点で降格は決定したようなものだが。『黒』には他者に対して害することを抵抗ない人間が選ばれる。その中でも最も殺人を犯している私が呼び出される時点で彼らの運命は決定づけられていたようなものだった。

『無色』と『白金』級ではギルドから受けられる支援が格段に違う。彼らは帰還した時点で、降格したことによってどこぞの恨まれた誰かに殺されていただろう。

 だから私が秘密裏に受けたのだ。『黒』が試験に係わっていると知られたら、その時点で降格は決まっている。それでも彼らは逃げ出さず試験を受けていたと思うけれど。このことだけに関しては彼らを評価したいものだ。


「ところでぇ、『黒』指名の――というか、『月蝕のヨル』ちゃんご指名のお仕事があるんだけれど、どうかしらぁ?」

「……異世界の獣の討伐じゃなきゃ、やだ」

「あら、ちゃんと異世界の獣の討伐よぉ」


 珍しいこともあるものだ。私が立て続けに指名を受けるなんて普通はあり得ない。異世界の獣がこれほどこちら側の世界に入ってくる自体滅多にないのだ。

 マリーさんが言うには、その獣は異世界から確かに侵入したらしい。既に何人もの死傷者が出て、早急に対処しなければならないという話だった。


「ただ」


 マリさんは珍しく眉間に皺を寄せ、とても言いにくそうに溜めてから言葉を発する。それはとても信じがたい――というか、私が最も係わりたくない種族であり。


「異世界の獣と言っても――『天使』なのよねぇ」

「帰る」

「そんなこと言わないでぇ」


 私がくるりと背を向ける前に、マリさんは私の服のフードを掴んで止めた。残念ながら私は彼女を振り解くわけにはいかなかった。溜め息を吐きながら再びカウンター越しで彼女と向き合う。

 彼らは存在自体が害悪だ。過去、向こう側の世界に存在したとある天使の骸がこの世界にばら撒かれ、骸は羽の生えた人間を創り出した。元となった天使が相当な性格をしていたようで、こちら側で羽の生えた人間は必ず問題を起こす。こちら側でも羽の生えた人間が駆除対象――となったのはつい何百年か前の話だ。その前が有志は殺していたが、彼らはこちら側に存在していいものではない。有志が処理しきれずついに彼らが台頭するようになり、ギルドもその駆除に乗り出したというわけだ。

 この世界でも亜人種は数多く存在するが、自らを『天使』と称するものと、吸血種だけは別だ。あれらはいるだけでこちら側の世界を浸食しようとする。これ以上壊されずわけにはいかず、ギルドは総力を以てこちら側の世界を壊す破壊者と認定して対処に当たった。

 そして私が『天使』と相対したくない理由。彼らは見た目が人間であるから食べるところがないのだ。駆除しても食べることが出来ない獣。私が労力を払っても食べられる価値のないゴミ――まさに害獣。

 けれどまぁ、『天使』ならまだマシだろう。人間に本来ない羽だけならまだ食べられる。天使という神の使いを自称している癖に肉食らしく臭うときは本当に臭うのだが食べられないことはない。対して吸血種は――本当に彼らは見た目は人間そのもので、食べることも出来ないからさっさと滅ぶか人の見えないところで隠居してほしい。

 こちら側だけにいるならギルドも手を出さない。この世界には数多くの亜人種がいるから。ただこの二種に関しては人間の滅亡を願っている。自らをこの世界に君臨すべき王者と称し他者の存続を許さない。だから害悪なのだ。天使は善意でこの世界に根付いた文化を滅ぼそうとし、吸血鬼は悪意を以てこの星の生態を壊そうとする。

 人類の滅亡彼らの悲願だけは何があろうと実現させてはならない。だからこそ嫌々ながらもギルドから私も駆除を請け負うのだ。

 けれどどうしてもやる気が起きない。私はもう少しご褒美がないのかマリさんに訴えてみる。視線だけで。


「……」

「あなた一人だけの依頼じゃなくて、大規模な『狩り』になりそうだし、他の子たちもいくらしいからぁ」

「……狩りは一人の方が楽なんだけれど。殺す人数が増えそうでうざい」

「まぁまぁ。その子たちはあくまで保険。対象を駆除するのは――恐らくあなたよ」

「……」


 マリさんは対象を狩る前に脅威が幾つかあるといった。私以外の傭兵はその露払いを担当するらしい。それでも、私は今までの経験上から彼らが肝心の狩りの邪魔をしない筈がないのだ。こういうときに感じる嫌な予感は外れたことない。私はまたもや彼らへの対策を考えなければならないようだった。


「ほら、それのあなたがこの依頼を受けてくれたら、彼の国があなたへの国際指名手犯を外すっていうからぁ」


 しかし、マリさんの次の言葉を聞いたとき、私はつい顔をあげてしまう。

 それは大事だ。指名手配はないに越したことはない。何も知らない一般人が私を指して犯罪者と名指しされるのは我慢がならない。けれど彼らは国の法律に守られている。指をさされるだけならば殺すこともできなかった。まぁそのあと善意の通報で警吏が登場し、私が黒のプレートを見せて釈放されるのがお約束となっているのだが。この出来事が日常の一部になりそうで少々うんざりしていたところだった。

 この日常になりかけていることがなくなるなら有り難い。私は仕方なしに、『天使』の討伐に乗り出すのだった。


 これであとは現場に行くだけかと思いきや、マリさんはまだ話があるという。そして連れていかれた先は――相変わらず綺麗な木調の、内密な話をしたいときに使われる部屋であった。

 しかし今回は私たちの他に先客がいるようだった。私たちが入室したとたん、彼女はソファーから立ち上がり挨拶を始めた。


「『月蝕のヨル様』、お話を聞いていただきありがとうございます。この度は、彼の国の総帥代理としてまいりました」


 彼女は上品なスーツを着こみ、栗色の髪も後れ毛一本なく、綺麗に一つに纏めていた。碧眼の瞳は真っすぐこちらを射抜いてくる。敵意はない。ここは誰であろうと例外なく剣を抜いたら制裁の対象となる。彼女には武器の一つもっていないからきっとその対象にはならないだろう。


「御託はいい。それで、何で『天使』の討伐にお前の政府――しかも高官がでしゃばるんだ」


 私は革張りのソファーの真ん中に座る。前回と違って一人で広々と使えるので深く寄りかかることもできた。ついでに机の上の置かれた資料を手に取り眺める。

 どうやら今回は、対象の駆除だけが任務でないらしい。


「……子どもが、攫われたんです」


 彼女はどこか震えた声で静かに語り始めた。そう、資料には子どもたちの名前と特徴、外見が事細やかに並べられている。彼女の言っている人間は、更に詳細が描かれていた。


「あちらの世界に攫われた内の一人は……今年で十四歳になる子どもです」


 この子どもは、文字から得られる情報を見る限り政争や戦場とは何ら関係のない善良な子どもだったのだろう。普段の様子を描いている描写は利発そうな様子が見て取られ、勉学に取り組み他者と遊んでいる姿は上級階級を思わせる。

 子どもたちの中で一番高い地位にいる人間の息子。この文章だけで察せられるものは、不必要なほどに多かった。


「その子どもの救助と、攫った『天使』を殺せばいいってこと?」

「……はい」


 一言で言うが、彼女の言っている言葉は正直無茶の一言に等しい。向こう側の世界に連れ去られた子どもを探すのは、異世界の獣を殺すより何倍も、何十倍も難しいのだ。たとえるなら砂漠にある、ないかもしれない一粒の砂金を探し当てろといっているようなもの。

 たとえ見つけられても生きて帰すことすら難しい。こちらの世界とあちらの世界の行き来は簡単ではない。神代の時代に生きる生物でさえ、時空狭間に落ちるものも少なくはないのだ。

 私だってあちらの生き物に呪われて初めて何も犠牲を払うことなくあちらに行くことが出来た。余程強い運と意志を持たないといくことは出来ない、危険な任務なのだ。


「ちなみに、私への依頼のルールは分かっているよね。獣を食べる邪魔はしない。狩った獣は、私が最初に食する権利がある」

「それは……勿論」

「たとえその子どもが、異形に変容していたとしても?」

「……」


 そう、彼女がいう子どもが異形になっても何らおかしくないのだ。何が起きるかわからない神話の世界。専門の傭兵ですら異常を来たし死んでしまう過酷な環境なのに、何ら能力を持たない子どもが何も犠牲がなく生き延びられるほど、異世界は甘くない。


「あちら側に攫われてしまえば、普通の身体で戻ってくる可能性は、ほぼない」


 私は断言する。何らかの変貌を遂げなければあちらでは息すら難しいのだ。人間のままでいるにはあまりに絶望的で、だからといってあちらの生き物と化してしまえば私の狩りの対象となる。

 あちらの生態系を壊すつもりはない。けれど、こちら側の人間があちら側の生態系を壊すなら、食物連鎖を食い破ろうとするなら私は人間だったものに対しても迷いなく弓を引き、食べる。


「どうか、報告だけでも構いません。あの子が無事でいれば……せめて骨だけでも……戻ってきてくれたらと祈るのは私のエゴなんでしょうか」


 彼女は嘆くように涙をぼたぼたと垂らして、息子の無事を祈る。けれども――ほぼ届くことのない生者の願い無茶を叶えるのは神様ではなく、この私だ。

 彼らのたった一人の息子を救いたいというワガママで、また数多の傭兵が命を落とすのだろう。この世を嘆きながら、声もなく名前のない怪物に飲み込まれていくのだろう。それでも彼女は気付かない。それがあまりにも腹ただしくて、命は平等ではないと思い知らされているようで。


「奇跡でも願うんだな」


 私は吐き捨てるようにその台詞を言ってから立ち上がった。私だって生きているのだ。これがあまりに危険な任務だということも、命を落としかねないことも十分に理解している。

 私は狩りで飯を食べている。身体を鍛えているだけでは生きてはいけない。やるべきことを為すから、私は生かされているのだ。

 資料は見た。いつ、どこで何を任務が開始されるかも全て把握した。あとは私が行動に移すだけだ。彼女と話すべきことなど、もうない。

 私はついに部屋を立ち去った。次にすべきことは武器の調達――と、もし救えた場合の食糧の調達。残念ながら私は今回、子どもを一人救えてしまうのだろう。ならばまずくてとても口にしたくない、本当に生きる為だけの携帯食料を買いこまなければならなかった。





「ふぅ」


 私は銃剣を杖代わりにし、身を丸めながら街並みを眺めている。街の外側にある砦から見える光景――街はどこまでも静かで壁は高く、そこに在り続けていた。


 音もなく降り積もる雪は、廃墟をどこまでも白く染めていく。その廃墟も薄氷の上に建てられているという出鱈目な造りをしていた。ここはこちらとあちら側の境界線だから、あちら側の影響も出ているのだろう。

 廃墟は一つだけではない。廃墟と氷と雪が重なり合って、一つの街を創り出していた。出鱈目のくせに当たり前のように存在している様はこちら側に浸食しているという証し。ここは『天使』との係争地でもある。彼の国の兵士が、砦の上からあの街群ごといつこちら側に押し寄せてくるか常に見張っているのだ。

 ただし、今回は彼の国から許諾を得て、閉ざされた大地に踏み入れる。

 傭兵は私を入れて十二人いた。私以外の傭兵は子どもを探すことを主体とし、私は『天使』の殺害を第一目的とした。役割分担は大事だ。これをはき間違えたとたん、彼らも、もちろん私も間違いなく死に直結する。

 彼らが『天使』と接敵した暁には、撤退、私へ連絡が入り入れ違いで私が単身で戦う。これが上手くいくといいが――恐らく無傷ではいられないだろう。


「斥候が帰ってきた。『天使』はやはり氷の下か、向こう側にいるみたいだ」

「そう」


 先に数人、斥候を行かせたが彼らを発見するには至らなかった。けれど痕跡は持ってきたようだ。『天使』はやはり、ここのどこかか、あるいはここと接する向こう側で息を潜めているみたいだ。

 彼らが人間の子どもたちを攫った理由は分からない。けれどどうせロクなことは考えていないだろう。彼らは人類を殲滅し、自らの種を残すことに必至だ。そこから推察される結論は――想像だに難くない。せめて安らかに死んでいたらまだ幸いであった。


「いくぞ――」


 私が先頭に立ち、彼らを先導していく。街の中に入れば四人一組で行動していく手筈となった。私は中でも、撤退するまでに生き残る可能性が最も高い人間と共にしていた。

 街は広い。どれぐらい広いかといえば、小さな国の首都がすっぽりと収まるぐらい。私たちは最も接敵の可能性がある北を、他の傭兵たちは二手に分かれ東西の捜索に当たった。接敵をしたらまず照明弾を上げる手筈となっている。私たちと『天使』が遭遇したら私以外の三人は東西のメンバーと合流、私が狩り場にいても邪魔なだけだ。

 しかし――私は空を見上げる。常に雪が降っている戦場は厄介だ。雲の流れは速く、ましてやここはあちら側とこちら側の境界線だ。一度吹雪が起きればこちら側と比べようがないほど大規模な災害となる。それは向こう側も同じであった。『天使』があちら側へ帰還する為には安定した環境が必要がある。戦闘に入る前に天候に対処しなければならなければ我々が先に自然の猛威に殺されることになってしまう。

 けれどこれは四半刻経たない内に大規模な――それも下手をすれば雪崩が起きる危険性があるほどの猛吹雪が確実に来る。私たちは彼らに合図をして籠城しても大丈夫そうな頑丈そうな建物を見つけそこを目指す。


「! 想定より早い……早く建物の中に入れ!」

 残念ながら私が予測しているより早く、猛吹雪は私たちに容赦なく襲い掛かった。世界の境界線の吹雪は足元さえ見えなくなる。私を殿として三人は建物の中に入りようやく私も入ろうとした――そのとき。


「おい! 早く入れ! ……お前」


 傭兵の一人は銃口を私に向けていた。それは紛れもない事実である。彼は笑顔のままこんなことを宣った。


「僕たち、ハレさんとテルさんに憧れていたんです」


 彼はつらつらと私の背後に雪が迫っているにも拘らずのんびりと彼らと自分たちの関係性を語り続ける。彼らが死んだハレとテルとの冒険譚はまもなく、私という劇薬を以て幕を下ろす。


「あなたが、殺したんでしょう」


 彼らの冒険譚は――築き上げられる絆は間違いなく本物だった。けれど彼らは最後に物語を読み違えたのだ。実際に彼らは私があの二人を殺した現場にはいなかった。彼らは推測で私を糾弾し、そして建物の中に入れないことによって自らを正義と謳った復讐を完遂しようとしている。


「な」


 彼は発砲した。私は間違いなく避けた。けれどその瞬間を突かれ、私は腹を思い切り蹴飛ばされた。完全に不意を突かれたから脚に力も入らずこの身体は宙に浮かんでしまう。雪が降り積もって斜めに転がっていく。止まったときにはすでにホワイトアウトは始まって視界が一切の白で失っていた。

 こうして私は唐突に裏切られ、『天使』との遭遇も子どもも見つけることが出来ずに命の危機に陥った。しかし私は命の危険よりも、ある感情が胸の内を占めた。それは――


 無事に生きて帰れたら、絶対に殺す――


 純粋な憧れや信仰は人を殺す。人は何の前触れもなく狂気に至る。けれど彼は狂ってはない。いたって自分こそが正義の味方なのだと、悪役である私を殺害しようとした。ならば、殺意には殺意を以て返すべきだろう。

 その前に私は大自然の猛威に対処しなければならない。でなければ、彼を殺害する前に自らが死んでしまうからだ。声も出すことはできない。口を開けたとたん、雪が私を窒息させようと飛び込んできてしまうから。

 私は声なき殺意を秘めながら、まずは生き延びるために背中にあった剣を手に持った――

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