第3話

救急の待合室で待つ時間は人生で1番長く感じた

彼の家族の連絡先もわからない

しらみつぶしに知り合いにかけまくる


そこに若い医師がやってきた

「ご家族さんですか?」

恋人だと説明する

「本当はご家族さんにしかお伝えできないのですが一刻をあらそうので話させていただきます」

「彼の心臓は動き出しました」

私はその場で泣き崩れた

「ですが脳に酸素が長く通っていなかったためもしも目が醒めても重篤な後遺症が残ります」

「家族さんと連絡が取れ次第お知らせください」


泣き崩れたままの私を年配の看護師さんが椅子に座らせてくれた

涙というのはこんなに出るのかと私が1番驚いた


私が第一発見者であり同僚であり恋人であること

また医療関係者であることからある程度の説明を医師の判断でしてくださったことを本当に感謝した


家族とは連絡が取れたが実家は遠く心肺停止状態であるとこから病院まで2時間程度でこれるということであった


その間だけ彼と二人にしてもらえた

『ねえ明日さランチに行く約束してたよね』

『車椅子でもいいから生きててよ』

たくさん泣きながら話した

人工呼吸呼吸器をつけて脳も壊死してどんどん状況が悪くなるのがみえた

でも希望を捨てることができなかった

だって彼はまだ暖かったから

泣きながら彼の側を離れようとしない私にさっきの年配の看護師さんが家族さんが来たことを伝えてくれた


待合室へ行くと彼の母親らしき人と妹さんと親戚の人がいた

「なぜあなたがいてこんなことになったの?」

「なんでなの?」

と聞かれ私は床に頭をつけて謝った

彼の元奥さんという人には

「見つけたときには頸動脈は動いてたの?」

と聞かれつい同じ看護師として

『あなたなんかに言われたくない!』

と怒鳴ってしまった

首吊り自殺

まずは頸動脈が圧迫をされる

脳に酸素が5分いかなけば窒息10分行かなければ重度の低酸素となり体内に酸素がまわらなくなる

『見つけた時には全身チアノーゼで舌も出して尿失禁していたのよ!それで頸動脈?何言ってるの?』

「私は事実を確認しているのよ!」

と怒鳴る元嫁に対し同じ看護師としてこの人と話すことは無駄だと思った


家族に歓迎されるとは思っていなかった

ただあと10分早ければとずっと後悔していた自分に留めを刺されたようなそんな気がした



家族さんが彼に会いに行った

誰もが泣きながらICUを出てきた

そこで初めてお母さんから年配の看護師さんからの説明を聞いたようで

「あなたの適切な処置がなければ今頃冷たいあの子と会わなければならなかったのね、ありがとう」

と言われてまた泣き崩れた

そしてそのすぐあとに

「あんなあの子が可哀想」

「あんなあの子は見たくなかった」と言われた

私はあのまま彼の心臓を止めてあげるのが正解だったのか?

もうムリだと思いながら真っ暗な部屋で心臓マッサージをし続けたのは間違いだったのか?

彼の舌は人工呼吸するとブルブルと震えていた

反射で食いちぎられてもいいからと口に指を入れながら空気を送り続けた

あれも間違いだったのか

何が正解だったのだろうか


その後はたくさんの人が出入りしていた

私はただ泣きながらあと10分早ければあと10分とつぶやき続けていたらしい

罵声を浴びせる人もいたし優しい言葉をかけてくれる人もいたらしいが私の耳には誰の声も聞こえなかった



コロナという状況もあり病棟にうつった彼にはもう会うことはできなかった

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