あめの日
あめの日
『――続いて、天気予報です。停滞前線の影響で、昨夜からの雨は引き続き今日一日降りそうです。一方で――』
「今日ずっと雨だって。やだな」
仕事が忙しい私たちが、やっと合わせられた休日だから、一緒にお出かけしたかったのに。
「俺は雨、好きだけどな」
そういうことじゃないの。
「せっかくのお休みだから、一緒にお出かけしたかったなって」
君はいつもどこか抜けていて、でもまじめで優しい人だ。私を笑顔にさせようと頑張る姿が大好きだ。
「でもこの雨じゃねえ…」
そう言いながら、君は右手にあるドレッサーから手鏡を取り、私の顔の前に寄越した。
そこには、ムスッとふくれている私の顔が鏡に映る。
どちらともなく顔を見合わせて、どちらともなく笑いだした。
こういうところなのだ。本当にずるい。
「ピザでも頼んで、映画見よう」
その一声で、今日の予定が決まった。
彼はテレビのリモコンと、もう一つの小さなリモコンを取り出して、どんな映画がいい~?と聞いてきた。
「最初は流行り物かな」
誰もが一度は聞いたことのあるような有名なタイトル。流行りなだけあって、すごくおもしろかった。
時刻はちょうどお昼を回り、彼がお手洗いに行っている間にピザの注文を済ませた。
「次は~?」
帰って来るや否や、目を輝かせながら君はそう私に訊ねた。
次に見たのは、洋画。英語音声に日本語字幕が彼のスタイルらしい。
見ている間にピザが来て、大きい一枚を、四、四で分けて食べた。私は四切れも食べられないことはわかっているので、一切れは冷凍庫へ。
次は、ハートフルな家族の映画。
感動的な場面で、すぐ右から、鼻を頻りにすする音が聞こえてきた。
「ねえ」
思わず、声をかけた。
「なに…」
湿気を含んだ、消え入りそうな声で、小さく返事が返ってきた。
「やっぱり好きだよ」
私は、彼の方を見て言った。
君は、窓の外に一度視線を向けてから、
「ほらね、言ったでしょ?」
と、少し赤く腫れた目尻に皺を作って、にこりと笑いかけてきた。
そういうことじゃないの。
「やっぱ、好きだなあ」
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