第33話 ドラゴンの卵

 

 翌週みゆちゃんと一緒にこちらへやってくる。

 私たちが起きた気配を感じたのか、マーサが部屋に飛び込んでくる。


「メイ様!! お待ちしておりました。準備が出来次第話があるので、すぐに食堂にお越しください!!」


 マーサのただならぬ様子にみゆちゃんと頷き、着替えを済ますとすぐに食堂に向かう。食堂にはライザーとリドルが私たちを待っていた。



「メイ様、慌ただしくしてしまい申し訳ありません。状況がかなり変わってしまいました。先週まで100体程だった魔物が今では500体まで増えています。数が多すぎて山を下る魔物も増えてきて、住民にも被害が出始めています。地元の騎士団が対応していますが、いつまで保つか分かりません」


「王宮からの援護はまだ来てないの?」


 確か次の浄化までには間に合うように派遣すると言っていたはずだ。


「あと2時間程で到着予定と先程伝達魔法で知らせがありました」


「今が7時……。山頂まで登るのに2時間かかるよね」


「あぁ。王宮の派遣部隊は湖で合流した方が早いだろう。俺たちだけで先に向かい、安全な場所で待機する予定だ。それでいいか?」


「うん。わかったわ。それでアーノルドはまだ……?」


 ここに居ないのだからまだ来てないのは分かっている。彼はいつ到着するのだろう。


「それが乗っていた馬が途中で怪我をしたらしく、到着が遅れている。もしかしたら明日になるかも知れないとのことだ」


「そんな……。じゃあアーノルドなしで今日浄化を進めるの?」


「あぁ。魔物の数も一昨日までは変化なかったのだが、昨日で倍の200体余り、今朝見に行って500体と急速に増えている。1日伸ばしただけでどれ程になるか図り知れない」


「……」


 あまりの展開に驚き過ぎて言葉に出来ない。私が固まっていると、ライザーが話を進める。


「とにかく詳しいことは馬車の中で話す。今は時間が惜しい」


 そういうと私たちは湖に向けて出発した。みゆちゃんも一緒に馬車に乗る。湖手前の森で防御魔法を使い王宮の部隊が来るまで待機する予定になっている。みゆちゃんはそこまで連れて行き待機してもらう予定だ。



 ライザーが詳しく話してくれる。


「昨日王宮から根元に関する情報がきた。めいが言っていた卵の形……もしかしたらドラゴンが産まれるのかも知れない」


「ドラゴン!? そんな! この世界にドラゴンなんて居たの!?」


 3年間一度もドラゴンなんかには遭遇していない。


「いや、こちらの世界でも伝説の生き物だよ。だが過去の記録を探ると数百年前に一度、邪気からドラゴンが産まれたとの記述があったそうだ。それがちょうどあの湖だったみたいだ」


「ちょっと! 何でそんな大事なことを言ってくれてないのよ!!」


 みゆちゃんがライザーに詰め寄る。


「俺たちも知らなかったんだ。王宮のやつも数百年前の出来事としか書かれていなくて、信憑性はないと思っていた。こんな状況になって、あれは本当にあった出来事なんじゃないかという話になったんだ」


 確かにドラゴンがいたと言われていてもそう簡単に信じられないだろう。


「でもだったらドラゴンが産まれる前に浄化しなきゃいけないってこと?」


「あぁ。それもあってアーノルドを待っている暇はないと決断した」


 確かにそんな状況なら彼を待っている時間はないだろう。私としてもドラゴンと対峙する前に浄化し切りたい。


「でも今日一日で浄化が終わると思えないよ。4日間浄化し続けてやっと終わるかどうかだと思う。前回は全く効かなかったし……」


「ねぇ、めいの浄化の力を高めるアイテムとかないの? そうすれば浄化にかかる時間を短縮出来ると思ったんだけど」


 さすがみゆちゃん! 今までそんな発想私にはなかった。


「強い魔石が有れば少しは力がアップする。王宮の部隊がそれを持ってきてくれる予定だ。あとは祈りのアイテムが有れば聖女の力をあげられるかも知れないが、今から用意するのは無理だな……」


「祈りのアイテムって?」


「聖女様が思いを込めて作った物を媒介にすると、強い力が出るという話を聞いている。だが本来浄化に対してではなくて、大切な人を思って作った物を、その人の為に使う時に媒介となることが出来るとされているんだ」


「大切な人……」


「あぁ、だから大体は相手のことを思ってお守りを作ることが多いという。そのお守りの相手に危機があった際に、お守りを媒介にしてより強い力が使えるとの話だ」


「じゃあ浄化に使うことは出来ないのね。とにかくその魔石がどれくらいめいの力を強めてくれるのかが重要なのね」


「魔石はどうやって使えば良いの?」


「簡単だ。手に持っていつも通り魔力を出せば、魔石が勝手にフォローしてくれる」


 それなら私にも出来そうだ。


「だが魔石は最終手段として取っておく。分かったな」


 確かに何も対抗手段を持たずにドラゴンと対峙するのは怖い。


「うん。それにしてもドラゴンはいつ頃産まれると思う?」


「もう間もなくだろうな。恐らく先週浄化した際に、ドラゴンが目覚めるきっかけになったんじゃないかと思っている。急激に魔物が増えたのも関係あるだろう。もういつそうなってもおかしくない……」


「大丈夫よめい! 産まれる前に浄化すれば良いのよ。めいなら出来るわ!」


 そう言ってめいちゃんが励ましてくれる。話しているうちに山の麓に辿り着き、馬に乗って湖の近くまで行く。何体か魔物に遭遇したが、無事にここまで来れた。



「じゃあ王宮の部隊と合流したら俺たちは出発する。みゆはここに残って待っててくれ。絶対にここから離れるなよ。ここは結界を張ってるから安全だ。いつも通り荷物番も1人残るから安心しろ」


「うん、分かったわ。気をつけてね」


「……もし万が一結界が破れたら、荷物番と一緒に街まで逃げろ。街まで逃げたら1日くらいなんとか保つはずだ。そのまま元の世界に戻ればいい」


「結界が破れるってどういうことよ」


「俺の身に何かあったら流石に結界も壊れるからな」


「はっ? ちょっと何考えてるのよ。あなたはそんな事にならないくらい強いって言ってたじゃない」


 みゆちゃんがライザーに怒っている。その気持ちは分かるので、私は黙って見守る。


「あぁ。だが万が一ってこともある。俺はメイを守ることを1番優先するからな……ごめん。お前のメイは俺がちゃんと守るから安心しておけ」


「……めいが傷ついたら一生恨むから。ちゃんと守ってよね」


「あぁ」


 そう言うとライザーはみゆちゃんを抱きしめて、そのままキスをする。ちょっと私が目の前にいることを忘れてるのか! 私は真っ赤になり2人から目を逸らす。


「バカ! めいも居るのに何するのよ!」


「俺は何でも後悔したくないんだ。もし今こうしなかったら後で後悔するかも知れない。だったら後悔しない方を俺は選択する」


「もう、バカね。無事に戻ってきたら沢山してあげるから、ちゃんと戻ってくるのよ」


 そう涙ぐみながらみゆちゃんがライザーに告げるのが聞こえる。そんなことをしている間に王宮からの部隊が到着して私たちは湖に出発した。


「めい、ライザー気をつけてね! 絶対戻ってくるのよ!!」


「うん! 絶対無事で戻ってくるから待っててね!!」


 みゆちゃんに別れを告げ、歩き出す。みんなからも緊張でピリピリした雰囲気が漂ってる。大丈夫だ、きっとみんな一緒に戻って来れる。そう祈って私は一歩踏み出していった。

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