第34話 絶対絶命

 リドルと王宮の部隊の隊長が挨拶を交わし、打ち合わせをしてから私たちは出発した。


 王宮からの騎士や魔道士達が目の前で魔物を倒していく。倒しきれず流れてきた魔物をいつも一緒に戦ってるメンバーが倒し、私を守りながら少しずつ前に進んでいく。


 湖のほとりまで辿り着くと、私の周りを騎士、そのさらに周りを魔道士が囲み守りの体制に入る。


「今から浄化します! 魔物の動きが活発になるので注意して下さい!!」


 王宮からの部隊に注意喚起をし、根元を探りに入る。先週に根元の場所は見つけてる為、すぐに場所を見つけることができ、例の卵型の根元に浄化の魔力を流していく。



 少しずつ、少しずつ流していくがやはり変化は見られない。今日も変わらないのかと思ったその時、ピシリと嫌な感覚がする。



 今のは何? 何が起きたの?? 何かが壊れた感覚がした私は一回浄化をやめて湖に視線を移す。



 ドドドドド………ゴゴゴゴッ


「何だこの音は!?」

「撤退!! 一度撤退するぞ!! 聖女様を守りながら下がれ!!」


「行くぞメイ!!」


 ライザーが私の手を引き走りだす。するとその瞬間立ってられないくらいの地響きと揺れが起き、私は転んでしまう。


「ッ! メイ!!」


 地響きがやみ、上半身を起こす。早く逃げなければ行けない!! そう思ったのだが、その瞬間強烈な邪気を背後から感じて、振り返る。


「う……そ……」


「メイ!! っ!!」


 目の前に現れたドラゴンに私が動けずにいると、ライザーが結界を張りながら私の前に出る。リドルやネール、ザッカリー達部隊のみんなも私を庇うように前に進み出る。


「ギャァーーーー」


 そうドラゴンが鳴くと、炎のブレスが私達を襲う。魔道士達がすぐに水の魔法で消してくれるが、それでも庇いきれない力強さで、何人かが負傷して倒れ込むのが目に入る。すかさず治癒魔法を使える物がヒールを飛ばして治療していく。



「っ!」


 私が逃げないと、みんながやられて終わってしまう。そう思い必死に立ち上がり、湖を離れようと走る。



「ギャァーーーー!」

 ゴゴゴゴ……

 走っても逃げて攻撃を回避するが、ドラゴンからの攻撃や、他の魔物達の攻撃も次から次へと止まらない。もう、逃げるだけじゃ駄目だ。私が浄化しないとみんな死んでしまう!!



「ライザー!! 魔石を出して、魔石を!!」


 王宮から届けられた物があるはずだ。それがあれば私の浄化の力もパワーアップするはず!!ドラゴンはあの根元から生まれたのだとすれば、あのドラゴンを浄化すれば魔物達も消えるはずだ!!


「何をする気だ!!」


「ドラゴンごとこの場で浄化してみる!!」


「そんなの危険だ! 許可出来ない!!」


「そうしなきゃみんな死んじゃうよ!! 私は聖女よ!! 魔石を出して!!」


 そう強く言いライザーを見つめる。彼もきっとわかっている。この場から逃げるだけじゃどうしようもないことを。


「くそっ! 死にそうになったらすぐ担いで逃げるからな」


 そう言ってライザーが魔石を渡してくれる。


「皆さん私の後ろに下がって!! 一気に浄化します!!」


 そう言うがいなや、私は魔石を手に取り浄化の力を魔石に流し込む。いつもより強い力が湧いてくるのがわかり、身体全体から浄化の力が溢れてくる。


「すごい……」

「さすが聖女様……」


 目を瞑り集中して、浄化の力を集めていく。


「お前ら! 聖女様を守れ!! 力が溜まるまで守りきるんだ!!」


 ライザー達がそう言って襲ってくる魔物と戦ってくれている。みんなまだ諦めていない。私が浄化出来ると信じて戦ってくれている。


 しかし焦っちゃいけない、まだだ。あのドラゴンを浄化するにはまだまだ足りない。集中して魔力をどんどん高めていく。


「今だ!!」


 ライザーの掛け声に合わせて魔力をドラゴンに向かって放出する。浄化の魔力がドラゴンを包み込み眩い光を放つ!


「終わったか?」

「油断するな!!」

「聖女様を守りきれ!!」


 私はそのまま浄化の力を流し込み続ける。


「ギャァーーーー!! キュルキュル……」


 ドラゴンの唸り声が弱くなっていくのを感じる。この調子でいけば何とかなりそうだ!


 そう思った瞬間油断したのかも知れない。浄化の魔力を振り切るようにドラゴンが暴れだし、鋭い爪が私を襲う。


「メイ!!!!」

「メイ様!!!!」


 もう駄目だと思い目を瞑る……しかし覚悟した痛みはやって来なかった。



 カンッ!!



 目を開くと私の前にはアーノルドがドラゴンと対峙するように立っていた。


「言っただろう。メイのことは俺が守るって。もう約束を破らない」


「アーノルド!!」


 ドラゴンの爪がかすったようで彼の上半身から血が出ている。しかし彼はそのままドラゴンと睨み合い、一気に駆けよる。


「俺のことは良い! 俺がドラゴンを抑えているから、その間に浄化するんだ!」


「でも! 血が!!」


 彼の血は止まることなく流れ出る。だが、彼はドラゴンに向かって続け様に魔法を纏った剣を操りながら攻撃を繰り返す。彼が放った風の刃がドラゴンに当たり、ドラゴンの標的がアーノルドに変わった。


「早くっ! 俺に構うな! メイだけが頼りなんだ!」


 そう言っている最中にもドラゴンが彼を攻撃して、間一髪のところで避ける姿が見える。早く浄化しなければ危ないっ!


「っ! 分かった!!」


 そう私が叫ぶと彼が頷いてくれたのが分かる。アーノルドの戦いを無駄にしては行けない。他の人がドラゴン以外の魔物と対峙する中、私はもう一度魔石を握り、浄化の魔力を溜めていく。しかし魔物が多すぎて倒しきれない物がこちらにも近づいてきて、なかなか集中することが出来ない。


「メイのことは俺が守っておく! メイは浄化に集中しろ!」


 そう言うとライザーが私の周りの魔物を倒してくれ、魔力を溜めることに集中し、ようやく十分な力が溜まったのを感じるが、ドラゴンの動きが早すぎて浄化の魔力を当てることが出来そうにないっ。


「アーノルド! ドラゴンの動きが早くて浄化の力を当てられない!!」


「っつ! くそっ」


 そうは言っても彼も苦しそうだ。額には大粒の汗をかいて、動きも先程より鈍ってる気がする。


「俺とアーノルドでやつの動きを止める! その間に一気にやれ!!」


 ライザーがそう言い駆け出すと、アーノルドの横につき魔法を放つ。アーノルドがドラゴンを攻撃し怯んだ隙に、ライザーが魔法の鎖でドラゴンを縛る。


「今だ! 数秒しかもたない! やれ!!」


 ライザーの合図に合わせ、私はもう一度渾身の浄化の魔法をドラゴンに向けて放つ!!


 魔石から発した私の浄化の魔力がドラゴンを包んでいく。


「お願い! 浄化して!!」


 その私の願いが伝わったのか、ドラゴンは眩い光に包まれ…………姿を消した。



「……」

「…………」

「………………」


「わーーーー! やったぞ!! 倒した!!」

「聖女様万歳!!」


 そう歓声が上がり、ドラゴンの消失と共に大量に湧き出ていた魔物も消失した。


「やった!! やったよアーノルド!! ライザー!! 浄化出来たよ!!」


 そう言ってアーノルド達の方に駆け寄ろうとしたら、彼の身体がゆっくりと傾いていくのが目に入った。


 バタン。


「っつ! アーノルド!? アーノルド!!!! 嫌だ……!! 嘘でしょ……!? アーノルドッ!!!」

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